シエン [浴場1]
立ちながらも床につくほどの金紗の髪を垂らし、リカントの女が個室に入る。
シエン [浴場1]
故郷を離れ放浪の旅を続ける中で、時折忘れそうになるが……自分はどうにも、際立って異性を引き付ける容姿であるらしい。
無論、その恩恵にあずかっているにはいる。ゆく先々で男からの親切を受け取れるのは……間違いなく、その恩恵だろう。
シエン [浴場1]
そのおかげで、あるいはそのせいで。先日も大浴場にはいった時は男に声をかけられた。応じたのは自分でもあるが。ともかく……今日は。一人で利用できるという個室の方に足を運んだのだった。
シエン [浴場1]
湯をかけ、肌を流す。磨かれた球の肌に、水滴が滑り落ちていく。
容姿に自信がないではない。顔かたちも体型も、ふさふさの尻尾も何もかも、一流であるという自負がある。
シエン [浴場1]
しかし、それは……時に、己の意図を超えて作用するということもある。
シエン [浴場1]
今はまだよい。美貌の恩恵を受けながらも、人と距離を維持する生き方をしている。場所を変え、関係を深める前にまた別の地へと向かう。
シエン [浴場1]
そう……しなければならないのだから。
シエン [浴場1]
湯に身を沈めれば、水面に乳房が浮かび上がる。脂肪の塊は水よりも比重が軽い。それを見て喜ぶ男もいるが。
シエン [浴場1]
「今は……少し、この身には重いわぁ……」
シエン [浴場1]
瞼に朱を引いて華々しく。扇で口を隠して朧げに。
シエン [浴場1]
毒花のようにありましょう。
触れれば猛毒に爛れるように、そう理解できるように。
シエン [浴場1]
けれど時には、人目を忍んでは……
湯煙に混じる吐息くらいは、見逃していただけますよう……
シエン [浴場1]
どうか、堪忍を。