カメリア・フィーリン
[露天風呂]
からからと扉を開けば、外気がタオル越しに肌を撫でる。
寒すぎる……と言う程ではないけれど。湯のありがたみをより色濃く感じる程度の落差。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「おー」存外に眺めが良い。たまにはこちらも良いな、などと思いつつ。
掛け湯に向かってぺた、ぺたとはだしを進めていく。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
とろりと下げられた瞼……いつも通りの目線が、露天風呂を一周する。一番乗りか。
洗い場の座椅子に腰を降ろして、あたたかいお湯を体に流し掛ける。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
滑らかな肌に泡を滑らせ、指先を擦り合わせ、指の付け根を……と進めて
前触れなく手を止めて、ぼーっと静止する。夜が綺麗だ。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
からり、と。
その辺りで、戸を開いて。別の客が現れる
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「わ、凄い。結構広いなぁ……」
おのぼりさんといった風情で、辺りを見回して。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
ぱっっちぃぃ、と鈍い瞬き。瞬き?
開いた戸の方へ、細い視線が吸われる。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「お」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「あ、どなたか先に入られてる方がいたのかな。お邪魔しま────」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「アスタくんだ。やほ」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「────か」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
ひらっと脱力した手を軽く振る。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「────カメリア!?な、なん、なんでここに!?」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「哲学的なー……問いかけだね」むーんと思案
アスタ・リースティア
[露天風呂]
驚きの余り上から下まで見る。見てしまう。
うん、どう見ても女の子だし実は男の子だったとかそういうこともない訳でつまるところ導き出される答えとしては────
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……こ、ここって……混浴だったのぉ……!?」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
腕を組んで顎に手の甲を当てれば、体に巻いたタオルが皺を寄せる。特にそれで何かが露わになる訳ではないけれど。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「っと、そっちかね」
「実はー……そうであると、されておりー……」
「アスタくんにおかれましてはー……ご存知なかったのかな」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「し、知りませんでした……!えっと、すぐ出て行った方が……え、いや、えと、あれ……?」混浴だからいいのか……?という思考、ぐるぐるとまだ湯に浸かってもいないのに茹る頭ではうまく答えが出てこない
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「わかるよー……」何やら頷いて
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「アルショニアの方だとー……公衆浴場自体、あんまりないもんねー……」
「おねえさんも最初は驚きました」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「は、はい……宿の人から、ここを勧められて」
「気持ちいいぞ、って言っていただいてたので……この間の報酬もあるし、ちょっとくらい贅沢してもいいかな、って思いまして……」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「うむ。宿の人も良いことを言う」
「気持ちいいよー……温かい湯に浸かって、のんびりするのはー……」
「疲れやー……それ以外がー……溶けてゆくような心地がありー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「そ、それ以外は溶けていっちゃ駄目なんじゃないでしょうか……!?」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「特定の動作で体の一部に偏った負荷のかかる冒険者には持って来い」
ぐっと親指を立てる。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「まあー……アスタくんが苦手なら―……無理に、とは言わないけどもー……」
「おねえさんとご一緒がおいやでないのならー……楽しんでいくと良いよぉ」Vサイン。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「い、嫌だとかそんなことは全然なくて……むしろ、カメリアの方が嫌じゃないなら……」
「……えと、その」
恐る恐る、洗い場の方へと。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……お隣……失礼、します」
視線をそちらに向けないよう努力しつつ、隣に腰掛ける。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「ふふ、ならばよし」
「からだ洗うのと髪洗うのー……どっちがどっちか分かるかね」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「え!?えと、どっちが先でも同じなんじゃ……?」でもそう言うってことは違うのかな、と思いつつ。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「順番はー……人それぞれだけど」
「たまに体洗う用のやつで髪洗って泡立たなくて首傾げてる人などがおります」
フロウライトなら体用で全部洗えそうだねえ……などと言いつつ。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「な、なるほど……髪用と身体用で別々になってるんですね」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「いかにも。髪に気を使ってる人もー……いるだろうからねー……」
……中々洗い終わる気配がない。と言うか洗う手を止めて景色や、時々アスタの方を見ているような気もする。どこも見ていない時もある。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「髪は……そうですね。気を配ったことは、あんまりなかったですけど」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
ただ、今の視線はアスタの長い髪の先に向けられていた。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「妖精は長い髪を好む、っていうのが……うちの方の、あんまり根拠はない伝統みたいなもので……」
「わっ……えと、ど、どうしましたか?」
毛先を手で弄ぼうとして……カメリアの方に視線が向き、こちらを見ているのに気づく。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「んー……?」
「その割にー……綺麗だなーって思っただけー……」
「少なくともー……雑に扱ってはない感じー……」
「がする」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「えと……あ、ありがとうございます」
「そうですね、水浴びくらいでしたけど……風の妖精に乾かしてもらったりできるので、湿気たまま放っておいたりはしてません」
「……えと」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「カメリアの、髪も……」
僅かに視線を向けて、また逸らす。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……綺麗だと思います」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「私の?」
「ほう……」
「それはー……意外だね」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「そ、そうですか……?」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「ありがたいね。いがりがたいと言っても良いー……」
「おねえさんはー……洗った後、自然に乾くのに任せてることもあるのでー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「ありがたいって頭の文字を進めていけば進化系になる訳じゃないと思いますけど……!?」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「いや……そうか。これはつまりー……」
「のびしろ」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……そ、そうですね……?」
実際、しっかりと丁寧に扱ったら、もっと綺麗になるのだろうか。
……ちょっと見てみたい気はした。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「おねえさんも風妖精に乾かして貰えば更なる高みを目指せる可能性があるー……と」
「そう言うことだね」うむうむ、と納得したように頷く。何に?
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「僕も何がよかったのかは分からないので、確たることは言えませんが……」と言いつつ、身体と髪を洗い終わり
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……えっと。丁寧に洗われるんですね……?」でも女性ってこういうものなんだろうか?
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「ありがと。ベストを尽くそうねー……お互いに―……」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「あー……これはー……」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「依頼の時と違ってー……急ぐ理由もないのでー……」
「気の向くままに洗ったり洗わなかったりしているのです」
「最終的に入浴するまでの時間は実際に洗っている時間の3倍程度であることが多いと言う説が」
「研究者の中ではー……有力とされているとかいないとか」
「いかがでしたか?」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「か、風邪ひかないでくださいね……?というか研究者の人ってそんなにカメリアの入浴事情に詳しい方がいらっしゃるんですか!?」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「主にー……私と」
「あとは私の中の私などがそれにあたるかな」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「つまりカメリアだけじゃないですか!?」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「まあ私以外が知ってたらびっくりだよね」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「ま、まあそうですけど……」と言いつつ。
よくよく考えたら今僕も知ったな……
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「あ、でも」
ふと気付いたように。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「今のでー……」
「アスタくんもそこに加わったね」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「そうなんですけどぉ……!」
声に出さずにいたのに当人に逃げ道を潰された。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「当学会はー……会費を要求しない親切設計ー……」
「来るもの拒まず出るもの追わず」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「知った段階で学会入りしてる!?というかそれなら抜ける方法ないんじゃないですか!?」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「確かに……」
「じゃあー……固定と言うことでー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「あ、ありがとうございます……?」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「どういたしまして」ふふ、と笑って。
「ところでおねえさんは定期的に湯掛けてるから良いけど」
「アスタくんはそろそろ湯舟に浸からないと体が冷えるのではないかと言う説が当学会では浮上しています」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……たしかに!」
ツッコミに引っ張られてその場から動いていなかった。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「そ、それじゃあ……お先に、入らせてもらおうかと」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「うむ。学会からもー……認可ー……」
ふあ、とあくびのようなものをして。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
あはは……と笑いつつ、最後に1回、掛け湯をしてから湯船の方へ向かう。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「私も入ろうかな。そろそろ」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
ゆっくりと湯船に身を沈め……た辺りで、カメリアも湯船の方に向かってくるのを感じる。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「あ、もう満足した……ん、でしょうか」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
ひた、ひた、と冷たい地べたをはだしがゆっくり踊る。
タオルの端を抑えて、よいせと縁の前でしゃがみ込んだ。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
音が聞こえてくるけど、なんだかそれに耳を澄ませるのもいけないことのような気がする。
かがむ瞬間から一瞬遅れて目を逸らした。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
桶に湯を掬って被る。残っていた泡も流されて、あとはもう浸かるだけ。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
ちゃぽん、と緩慢な動作で足指の先が水面に触れた。
かかと、足首、脹脛へと、徐々に徐々に。体を伝う熱を味わうように。
湯舟の熱が、白い肌を仄かに赤く染めていく──
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「あ゛─────………………」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
凄い声出てる。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
全身を浸して、極めて弛緩した声。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「ごく、らく…………」
知性まで溶けているのではないかと疑うような声だった。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……そう、ですねぇ。たしかにこれは、オススメされるのも納得……」
蕩けた声音は少し愉快に思いつつも、極楽であることに対しては同意して。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「でしょー……」何故か自慢げだった。
「効果・効能にはー……個人差がありますがー……」
「アスタくんが良いようなら何よりなような容態だよ」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……はい。カメリアも……良いようで、何よりです」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「とてもよい……」目を閉じて、湯に身を任せている。なんならちょっと足はぷかぷか浮いている。
体重が然程重く無いせいだろう。にゅっと水面から出た指の先が外気に触れる。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
ぷかぁ……と浮かんでくる足に視線をやり、すぐに逸らす。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
何というか……色々と危険なのでは……!?
男として見られていないのだろうか……
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
実際のところそう言う面はあるかもしれない。仕事仲間としては頼りになると認識しているだろうけど。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……え、えっと、ですね」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
む、と気配を感じて。「なにかな」リラックスした様子で答える。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
もじ、と僅かに身じろぎし、姿勢を正す。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「僕も、気を付けてはいるんですけど……その」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「うん」感情の読めない目。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「あんまり、無防備にされてると……」
「……思わず、見てしまうといいますかぁ……」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「おお」目を丸く……楕円形程度に丸くして。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「その、嫌だったらごめんなさい……」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
すすす……と足を湯舟に沈める。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「ええと……そう、だねー……」
「なんて言おうかな」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
沙汰を待つ罪人の面持ちである。その割に赤いが。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「そうだなー……」
「ちょっと真面目な話になっちゃうんだけど」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「は、はい」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「まず、伝えてくれたことについてはー……おねえさんは嫌だなーとは思っていませんー……」
「言い方にも気を付けてくれたしねー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「あ、ありがとうございます」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「それでー……まあ、なんだろ。正直おねえさんも予想外と言うかー……」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「あー……うあー……」
「うごご」
呻いている。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「その……すみません」
困らせてしまっている。黙っておけばよかったかもしれない。
いやでも黙ったまま見ているのもそれはそれで罪悪感がぁ……
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「良い良い謝らなくて」
「えーとねー……実際その、おねえさんが無防備だったのはー……事実でー……」
「そうだなー……油断は、してたー……狩る側だと思ってた、のでー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「か、狩る側……?」話が急に飛んだか……?という疑問
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「ええと、まあ、なんだろ……こうー……」
「自分からアプローチしない限りはー……意識されないものだと思ってたー……と言うかー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……えと」
「カメリアは凄くかわいいので……全然、そんなことはないと思いますよ……?」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「これ言うとアスタくんがめっちゃおねえさんのこと意識してるみたいな言い方になっちゃうから、ちょっと言い方を選んでたんだけど」
「あ、はい」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
凄くしてた。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「い、う」
「得り難い……?」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「だいぶ先の進化形になった……」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「とにかくですね」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「あ、はい」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「気を……付けようと……思いました」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「そ、それは何よりです。ありがとうございます」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「いやまあ良いんだけど別にちょっとくらい」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「あ、あんまりそういうのはよくないと思うので……」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「ただ安くて軽い女だと思われたくはないのも事実なので」
「そこの忠告に関しましては素直にありがとうと言いますか……」
「ごめん、何言ってるか分からなくなって来た」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「だ、大丈夫です。嫌じゃない、ってことが分かったので、僕としてはよかったです」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「えっとね」
「あの」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「は、はい」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「ちゃんと言ってくれたことが嫌じゃなかったって話ですからね」
「誰でも彼でも見られることが嫌じゃないとかそう言うふしだらな不特定多数を誘惑するタイプのおねえさんではないことはご承知願いたい、学会員として」
「学会って何?」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「それを僕に聞かれても……!?」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「と言うかこの言い方だと不特定多数じゃない誘惑ならしてるみたいな……」
「うごご」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
苦しんでる……
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「違うんですよ」
「おねえさんはもっとこう」
「強くてクールな女として定評を獲得しており……」
「主に私の中で」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「えっと……学会員としては同意しますけど……?」
強くて|落ち着いた《クールな》人なのには同意する。
普段の振る舞いがほんのり胡乱だけど。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「お、おう」
「なら……良いんだけど……」
「良いか……」
「良いよね」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「良い……と、思います」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
いつも通りに、感情の読めない目。
眠たげに瞼を降ろした、二つの目。
温泉の熱で染められた肌は、本来の白に紅を差していて
その内訳を推し量ることは、カメリア自身にだって難しいだろう。
立ち昇る湯気が、互いの表情をそれとなく隠している。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
多分こちらも大差のない顔をしているに違いない。
のぼせてしまいそうなくらい、顔に熱が集まっていた。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「……その」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「はいっ」
沈黙がやや続いた後のことであり、声が上ずった。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「……良いお湯、だよねー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「そ、そうですね!凄く、良いお湯だなぁって思います!」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「また、来たいってー……思うー……?」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「そ……そう、ですね。また、来たいと思います」その質問の意図は図りかねているが、否を返す問いでもない。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「そっかー……」
「……ええと、おねえさんから……助言……と言う程でも無いんだけどー……」
「おねえさんみたいなのは割とー……例外です」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「混浴で無防備な姿を晒してる女の人がいたとしてー……」
「99%以上の確率でその人は、こう」
「寄って来た獲物を喰らう意志をその身に宿しています」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「得物を喰らう意志!?」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「アスタくんはー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
嫌がるから気を付けようね、という話かと思ったら凄い方向に話が。
「は、はい」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「鍋が白菜と豆腐と出汁と卵ともやしとその他を纏めて煮立てた状態でやってきたくらいの」
「やつー……なのでー……」
「無防備だなーって思ってもー……目を逸らすだけでー……おーけーだから」
「自分の安全に気を配りましょう」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……その」
顔を真っ赤に染めつつも。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「カメリアには、ないんですか?……その」
「得物を喰らう意志、ってやつ」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「……アスタくん」
「あの、きみ」
「けっこうすごいこと聞くねー……?」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……かも、しれないです。今、あんまり頭回ってない、かもしれない、ので……」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「まあー……じゃあー……お互い様ー……と言うことに、するけどー……」
「おねえさんはー……誰彼かまわず食らっちゃうようなー……乱射魔ではないのでー……その」
「そう言うことはー……」
「そう言うことをしても良いな―、って思った人にしか、しませんー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「ぅ、で、ですよね……」
ちょっとほっとしたような。……残念なような。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「具体的にはー……一生」
「一生……私だけを好きでいられる、人ー……かな」
「のーもあ8股。だめぜったい」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「8股とか想像もできませんが……」
なんか妙に具体的な数字だなぁ、と思った。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「まあー……そう言うー……ことなのでー……」
「…………………」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「この記憶さ」
「湯舟から出る時にー……お湯に溶かしてそのまま置いて行こー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「えっ……」
思わず凄い残念そうな声が出た。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「えっ」
「は……」
「恥ずかしくないのかいアスタ少年ー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「は、恥ずかしくはあります、けど」
「……カメリアと話したことが、なかったことになるのは……」
「……嫌だな、って思います」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
……ぐらぐらする。ちょっと、浸かり過ぎた、かな。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「…………さっきの」湯気の合間から見えた、顔を思い出して。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「は……はい」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「|食《く》」われたいの?
「ー……シーを」
「呼んでも良いかもしれません」
「上がったら……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……ええと……クーシーを……?」困惑しつつも
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「そう……あのー……」
「のぼせてるかも、しれないしー……」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「精神をー……正常な状態に持ち直す必要がー……あるかも」
だいぶ話の逸らし方が限界だったし28歳の威厳も限界だった。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「そ……そう、ですね?」
世間知らずの14歳はそんな逸らし方に容易く騙された。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
ざば、と立ち上がる。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「……アスタくんは、多分そんな気はないと言うか……」
「そう言う子じゃないのはー……短い付き合いながら研究成果を出しておりますがー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
学会で研究が進んでいた。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
しぃ、と人差し指を口に当てて。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「あんまり、良く知らないひとをー……からかっちゃだめだよー……」
「人生ってばー……一度沼にはまったら、たいへんなんだからー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「からかい……の、つもりは、ないですから」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
痛いところを突かれた。まあそうだね……
そもそも私もからかってるつもりはないんだろうけどって言っちゃったもんね……
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……よく知らない人、じゃなくなったら」
「からかいじゃない、って……伝わる、でしょうか」
湯に浸かったまま、小さい彼女を見上げるように。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「あまいっ」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「えっと……そのー……」
「人も、だけどー……あー……うー……」
「……そう言うのが、どう言うことなのか、ちゃんとはっきり分かって」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「その上で、良く知ってる人になって、それでも……なら」
なら?
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「…………」
「うん」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「わ……分かり、ました」
こくり、と頷く。
何となく……感情としては存在する、"そう言うの"。
その意味を、はっきり理解して。それから……
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……また、カメリアとお話できたらいいな、って思います」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「…………おねえさんは」
「良く、ここに……来るのでー……」
「…………お話くらい、するよ」
「研究は大切、だからー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……はい。じゃあ、学会員として」
「成果を発表できるくらいに、カメリアのことを知れたらいいな、って思います」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「ふ。ふふ」
「おねえさんちょっとー……燃えて来たかもー……」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「燃えて……?」燃える要素あっただろうか、と
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「相手より先に弱点を見極められるようじゃー……|狙撃手《スナイパー》の名折れだもんー……」
翻弄されてばかりではいられないのである。
生殺与奪の権を握るのは……私だ……!
アスタ・リースティア
[露天風呂]
どういうことなんだろう、と首を傾げている。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「ええと……頑張ってくださいね……?」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「うむ」頷いて。
「アスタくんもー……首周りを、清潔にねー……」
良く分からないことを言いながら。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「首回りを……?わ、分かりました」
「……もう少ししてから上がるので、少し待っておいてもらえれば」
クーシーを呼ぶので。
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
私ー……?
墓穴掘った?私ー……
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
「……ゆっくり、待ってるからー……」
「アスタくんのペースで、お風呂を楽しんでからで良いからねー……」
カメリア・フィーリン
[露天風呂]
そう、言い残して。
入る時は意識に無かったタオルの端を、ちょこちょこ抓んで直しながら……戸の向こうに、一足先に去って行った。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
そんな姿を見送りながら。
アスタ・リースティア
[露天風呂]
「……」
「ちょっと……落ち着く、まで」
アスタ・リースティア
[露天風呂]
浸かっていよう、と。
時間をかけてから、こちらも上がったのでした。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
からり。
無人になった露天に、ひとり。
以前来た時には、大浴場の方も心地よかったが……
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「なるほど」
入り口の少し先で、空を見上げる。
紺色の夜に煌めく星々は、自分の胸の宝石よりも一層綺麗であるように思えた。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
しかし、ずっと突っ立っている訳にもいくまい。あとから客が来れば邪魔にもなり得る。
洗い場へと歩みを進める。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「……ふぁぁ」がらり、と露天風呂の扉が開く。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「ん」話をしていれば、新たな客が────
「……」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「……あれぇ? ジェイド君だぁ」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……あ」
「ああ。そうだな、ジェイドだ」
「……ユラだな」
動揺の余り妙な確認を口にしている。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「ユラだよぉ。忘れちゃったのぉ?」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「いや。片時も忘れたことはないが」
ただ……いつもの装束と違う彼女を見るのは初めてで。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……すまない」
と言って。視線を正面に戻す。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「え~? どうして謝るのぉ?」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……その」
「女性は、あまりこうした格好を異性に見られることを好まないと聞く」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
以前、気にしなくていい、とも言われたが。それでも。
彼女が気にする可能性が欠片でもあるのなら、それを避けるべく振る舞いたかった。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「ん~? 他の人にじろじろ見られるのはイヤかもしれないけどぉ」
「わたしはジェイド君なら、いくらでも見ていいと思ってるよぉ?」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……」
いや、まあ。見たいか見たくないかで言われれば、間違いなく見たいのだが。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……そういうのは、あまりよくないと思う」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「えぇ……? ごめんねぇ……?」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「いや、ユラに謝ってほしい訳ではなく……」
「……その」
腹を括る。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……ユラのことは、とても得難い相手だと思っている」
「だから……その厚意に甘えて、踏み越えてはならない一線まで超えてはならないと、俺は考えている」
「そしておそらく、今の君のことをずっと見ていると俺はその我慢が効かなくなる、と思う」
自分でも自分の内心を把握し、言語化することに苦心しつつ。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「ん~? ジェイド君はぁ、我慢が効かなくなったら、どうなっちゃうのぉ?」
「…んー…」少し考え込む。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「……よく分からないけどぉ、ジェイド君が何かを我慢してるのは分かったよぉ」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……すまない」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「……でもねぇ。わたし、ジェイド君に無理してほしいわけじゃないんだぁ」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「それは……ありがたく、思う」
……ただ。
大切な相手に下卑た目を向けるようなことは、あってはならないと思う。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「……だから、ひとりで決めちゃわないでねぇ?」ふにゃりと微笑んで。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「ああ。……とはいえ」
「……正面から話すのは、憚られることでもある。……伝えていい、と思う時が来たら、その時にでも」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「ん~、わかった~」
「……それよりぃ、そろそろお風呂に入らない?」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「そうだな。……冷えてはいないか?」
そうなら、長話をした事を申し訳なく思う。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「んー、平気だよぉ」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「そうか。それなら、よかった」
「手早く身体を洗って入るとしよう」
と言って、ざぁっと髪に湯を被る。
手早く泡を立てて頭皮の汚れを落とし、髪を手櫛で梳いて洗っていく。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
ジェイド君の隣に座る。椅子に腰掛けると、桶にお湯を汲み、まずは肩からゆっくりと掛けていく。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
のんびりとした彼女とは対照的に、手早く髪の水気を絞った後。
上から順に身体を擦り布で擦り、垢を落としていく。
最後に、隣の彼女に湯がかからないよう、少し距離を空けてから湯を被る。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
タオルに石鹸を泡立て、腕から肩、背中へと丁寧に洗っていく。時折、眠たげに小さな欠伸を漏らしながら。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
こちらが洗い終わった頃、上半身を洗っている彼女を見る。
……まだタオルを着けていても問題ない部分だったようで、少し安堵しながら。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「先に入っている。……ひとりで大丈夫だろうか」
やや過保護の色が出ていた。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「あはは~、大丈夫だよぉ」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「そうか。……いや、大浴場はリビィもブーちゃんもいないからな」
「見ておけるのが俺しかいないので、少し心配になってしまってな」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「ジェイド君はやさしいねぇ。大丈夫だよぉ。何かあったらジェイド君を呼ぶからぁ」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「ああ。その時は、遠慮なく頼ってくれ」
それだけ言い置いて、ようやく湯へと向かう。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「……ふふ」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
大浴場で使った際は屋内だったこともあり、湯気が籠って温度もそれなりに高かったが。
露天は吹く風で体感温度もそれなりに下がっている。
やや冷えた身体が、温かい湯を求めている感覚がある、と踏み出そうとして……笑い声が耳に入り。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……?どうかしたか」
と、問いかける。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「んー? 別にぃ……」
最後に髪を洗い、泡をしっかりと流す。濡れた髪を軽くまとめると、もう一度全身にお湯を掛ける。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「そうか。……それなら、いい」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「よし、これでおっけー。ジェイド君、お待たせぇ。そっち、入ってもいいかなぁ?」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「ああ。十分広いし、距離も取れる。問題ない」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
十分広いにも関わらず、ジェイド君の隣に座る。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……その。ユラ」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「……ふぁぁ……あったかぁいねぇ……」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
いいのか、ここで。
という問いは、その言葉を前に容易く搔き消えた。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……ああ。とても、暖かくて心地いい」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「……んふふ。ジェイド君とこうしてると、なんだか落ち着くねぇ」満足そうに目を細める。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……ああ。とても、落ち着く」
目を細めれば、そのまま意識を落としてしまいそうなほどに。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
実際に触れ合う訳ではないが、湯を通じて互いの動きが僅かでも伝わる距離。
そこに彼女がいると分かるだけで、心が安らぐ。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「……ジェイド君はぁ、最近、よく眠れてるぅ? 無理してない?」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「ん。……無理をしているつもりはないし、睡眠は必要な量を十分に摂っている……が」
「……君といない日は、君といる日よりは、眠る時間は短いな」
「調子は、君といた日の後の方がいい」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「そうなんだぁ」
「じゃあ、今日はぐっすり眠れそうだねぇ」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「ああ。……君といた日は、いつもそうだ」
「ユラは、どうだろう。よく眠れているだろうか」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「うん、眠れてるよぉ。こんな様子じゃ説得力ないかもだけどぉ」小さく欠伸をしながら。
「でも、わたしもこの間ジェイド君の隣で眠った時の方がよく眠れたような気がするんだよねぇ」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「そうだったか。……そうか」
ユラもそうだった、ということに。小さからぬ喜びを覚える。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「それなら────」
と、その喜びのまま口にしかけて。脳に残っていた理性が、全力でブレーキをかけた。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
よくよく考えれば成人した男女が同衾するのは……あまりいいことではないのではないだろうか。
そしてそれを男の側から提案するというのは……!
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「それなら……な~に~?」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……えぇと」
……それでも。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……俺も、ユラと共に眠るとよく眠れる、から」
彼女への。抑えきれない感情が、溢れてくる。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……また、一緒に眠りたい。……君が良ければ、だが」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「……えへへ」
「よかったぁ。また変なことを言ってジェイド君を困らせたんじゃないかって思ってたんだぁ」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「いや。……俺は、ユラに困らされたことは一度もないから、安心してほしい」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「じゃあ、今日は一緒に眠ろうねぇ」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「ああ。……その、ユラ」
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「なぁに?」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……ありがとう」
拒まれてしまうのは、恐ろしいが。
踏み込むのも止められない。
どこまで進んでいいのだろう。どこまでが許されるのだろう。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
暖かな暗闇の中で、明かりもなく歩いているような。そんな感覚。
それが、ユラの一言で氷解していくような気がするから。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
「……ありがとう」
と、もう一度繰り返す。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
ジェイド君の頭をそっと撫でる。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
されるがままに、撫でられている。
ユラ・モリオン
[露天風呂]
「ふふ、こちらこそ、ありがとねぇ」
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
こうされていると……とても、落ち着く。
できることなら、ずっと彼女の傍に在りたいと思う。
ジェイド・アストラム
[露天風呂]
……どこかで、言葉にして伝えたいと思いつつも。
今は、ただ。
言葉のないこの時間に、甘えてしまう。