「今年もいっぱい貰ったね~、トリート」  ハロウィンの夜だった。今年も学園中走り回って、先輩さんたちに先生たち、あとトレーナーちゃんにも貰ったなぁ。よくある小さい袋に入ったやつに、タイキさんに貰ったうんと甘そうなアメリカのお菓子、手作りのカップケーキもおいしそう。 「まぁ今回はテイオー様の勝ちだったけどねっ!」 「ぶーぶー、テイオーちゃんは会長さんがものすごいくれたじゃん、ちょっとズルい!」 「ふふん、次は相手だけじゃなくていつ頃ならいっぱい持ってるかも計算に入れる事だねぇ」  戻った寮部屋の床に2人分の収穫を広げると、お菓子の雪が積もったようだった。その場にぺたんと座って、秋の新雪に触れて、包み紙が音を立てる。自分たちの手で数日分のお菓子を確保したと思うと、なんかちょっと誇らしくなった。 「今年も終わっちゃったね。ハロウィン」 「そだね」  日が短くなって、もう星たちが姿を見せ始めている。カーテンをおばけみたいに揺らす涼しい風が、今日だけじゃなくて秋の終わりを思い出させる。  めいっぱい満喫した今日を、最初から思い出していく。楽しみだった、楽しんだ、楽しかった。そんな日も、また一年待たないと来ない。 「いつかはあげる側になるんだよね、マヤたち」  両手でお菓子たちをすくい上げて、ため息をつきながらそんな事をぽろっと言っちゃった。 「それはちょっと……寂しいかも」  お祭りのあとはいつだって切なくなっちゃうし、きっとマヤだけじゃないけど。  かわいくない弱音が出ちゃうのも、テイオーちゃんは全部聞いてくれるから。  テイオーちゃんは少し考えて、 「その時はさ」  楽しさを失ってない声で。 「今日のボクたちみたいに、お菓子貰いにきた後輩たちをうんと喜ばせようよ!」  失う事ばっかり考えてたマヤを、引っ張り上げる救いの手だった。 「この部屋で待っててさ、トリックオアトリートが聞こえたらさ、怖い恰好したボクらが飛び出て逆脅かしちゃうとか!」 「あ、それ面白い!」  一つアイディアが出ると、それにマヤものっかる。本気で怖い仮装をしようか、でもそれだけじゃイヤかも。  だったら脅かし終わった後はもっとかわいいのを着て一緒に外を回ろう、とテイオーちゃん。  そうだ、もっと大人に近づけば、今までとは違う楽しいが待ってるんだ。 「まあ、とにかく」  未来のハロウィン計画を出し切ると、テイオーちゃんは小さなチョコを拾い上げて、包みを開けた。 「今は食べよっ、お菓子」  目の前に差し出されたチョコを、マヤはぱくっと食べちゃう。とっても甘くて優しい味。  マヤがはやく大人になりたいって思えるのは、この先もキミと一緒だからなんだね、テイオーちゃん。  ありがとう。