甘い予感がする……! (廊下の背景) 「今ならいっぱいいるアルトリア達の目はありませんね……よし」 「マスター、マスター……こちらへ(やけにコソコソした小声)」 【どうしたの?】 「実は、えっとあの、その、お渡ししたいものがあって……」 「うぅ……なんか妙に緊張するというかそわそわギクシャクしてしまうというか…… ええいもう!これをどうぞ!!バレンタインの!チョコレートです!」 『礼装が表示される音』 「えへへ……アルトリア達のいない隙を見計らって、いつもキッチンにいるあの赤い人から指導を受けて手作りしました 初歩的も初歩的ですが、はじめてお菓子を作った割には、そこそこいい感じな見た目だと我ながら思うのですよ それにしても現代のお菓子っていいですよねえ!種類があって!保存性ばかりを気にすることも無く!初心者が作る溶かして固めたやつでも可愛く仕上がっちゃう! カラースプレーとか銀色のアラザンとか星の形のチョコチップとか……他にもいーっぱい!はしゃぎすぎてついつい乗せすぎちゃったんですが…… だいたいチョコなんて美味しくて栄養価の高い物ブリテンにはなかったので!」 【すっごく嬉しい!ありがとう!】 「どういたしまして!喜んでもらえたら光栄です! ……よく考えたら私、こうした浮かれたイベントで、家族以外の誰かにこうした思いを込めたプレゼントを贈ったことなんてなかったなぁって、今更ながら思っちゃいまして。 アルトリアとマーリンは家族だし、ケイもまぁ、最初こそ私へのエサやり係みたいなのとはいえ一緒に旅をして……ほぼ身内ですし、あれ?私身内以外の殿方と関わった事ないな? 殿方だけじゃないね、アルトリアが王になってからは身内バレを避けるために人前じゃ顔を隠す兜を徹底して被ってたし、ほぼ常に酔いどれてたアル中だったから他人との交流もあったもんじゃなかったなあ……」 「はっ……すみません!こんな楽しい日に水を差すような思い話ばかりして申し訳ないです。 でも、生前は確かに色々しんどい事もあって身体もきつかったですけど、最愛の妹と過ごせた沢山の時間は紛れもなく幸福だったと誰に対しても胸を張って言えますし サーヴァントとなってある種第二の人生を得た今は、顔も素性も隠さずに、理解ある善きマスターにも恵まれ、なぜか沢山いる妹達や、新しい仲間たちと心通わせることも出来て…… 自分の世界が広がっていくのが、嬉しい事や幸せな事が増えていくのをひしひしと感じております。 だから、本当にありがとうございますという感謝を、拙いながら込めさせていただきました」 「そうそう、チョコですがくれぐれもマイルームとか、アルトリアの目の届かない所で食べてくださいね? あの子ってば根本的に負けず嫌いで、何ごとも一番最初にやったり、ご飯も一番最初に食べないとへそを曲げる所があるので 私のチョコを最初に食べられないと知ったら、きっとお口をへの字に曲げちゃいます。 それに……これは私とマスターだけの秘密なので。 秘密を共有するっていいですよね、ふふっ」 【わかった、俺/私と貴女だけの秘密だね】 「…………ぁっ」 (第一再臨の兜を被った姿になる) 【どうして兜を被り直したの?】 「……すみませんちょっと今の私の顔は……なんだかお見せできない気がして…… 酒精が変に回ってしまったようですマスター、変に顔が火照って熱いのです…… だってそうでないとおかしいじゃないですか、口説き文句でもなんでもないのになんでこんな……。 「あっこら!兜を外そうとするのはダメです!めっですよめっ! つま先立ちしてもだーめーでーすー!」 礼装名『初心者でも簡単!はじめてチョコレート~トッピングマシマシ~(ノンアル)』 ぽこじゃか増えた妹達の目をかいくぐりながらキッチンの守護者の指導者の下で子供でも出来るかんたんレシピで作った溶かして固めたチョコレート。 テンパリングがベストなタイミングで出来なかったのか、うっすら白くなっている所もあるが、衛生や品質に問題がない事は赤いアイツのお墨付き。 作ってるうちにテンションが上がったのか、カラースプレーやチョコペンなどがやや過剰にかかっているのはご愛敬。 洋酒の類は一切不使用だがチョコレートの匂いの他に、不思議とほのかに花やいで甘く芳醇な、優しい匂いがする。 念押しのように『アルトリアには秘密ですよ?』と書かれた手書きのメッセージカードが添えられている。