少し、私が担当している娘の話をしようか。 彼女はカレンブーケドール。名前の通り一輪のように楚々として 花園のように優雅なウマ娘だ。 自大な言い回しになるが、実にいい子でね。傍から見てちょっと 心配になるぐらいなんだよ。 思い出してきたかい?そう。その彼女だ。何度もG1の頂を目指して、 しかし残念ながら目下夢半ばと言ったところだね。 これでもトレーナーとして担当の内心は察しているつもりだった。 だからいくらかの気晴らしになればいいと思って伝えたんだ。 「自分の前では抑えなくていい、我儘であっていい。」 その時の彼女の貌は伝え辛い。安堵とも戸惑いとも取れるものだった。 だが行動は明確だった。静かに私の後ろに回ると同じくまた静かに 抱きかかえて来たんだ。 ありがちな話だと思うだろう?まあもう少し聞くといい。 私はすぐ異変に気付いた。 ──半身が動かない。のみならず、緩やかに締め込みが増している。 関節が軋む。胸郭が潰れる。反射的に立ち上がることさえ出来ない。 それこそ、私の方がよっぽどひどい顔をしていただろうね。 ………あはっ 漏れ聞こえた彼女の声は清廉さとは遠いものだった。子供が小鼠を掌で 弄ぶような無邪気と残忍を含んでいた。 そう怪訝な顔をしないでおくれ。結局何を言いたのか?だろう。 「ウマ娘をただ可憐な隣人と思ってはいけないよ」これが助言だ。 気を付けることだね。 これで話はおしまい。実はこれから担当と出かける約束なんだ。 君も良い休日を過ごすといい。