──私がふたなりであることは、誰にも知られてはいけない秘密である。                              二階堂・ヒロ  知られてしまった。  私はシャワールームの床にへたり込むように座り、みっともなく屹立した自分のそれを憎々しく睨む。  タオルは既に解かれ、露わになった下腹部。そして私の目の前には、芸術家の瞳で興味深そうにそれを眺める城ケ崎ノアがいた。  事の起こりはほんの20分前。風呂ボイコット二日目に突入したノアに正義の裁きを下すべく、私は彼女を小脇に抱えてシャワー室に入った。  私には誰にも知られていない秘密がある──だが、妹のような存在であるノアであればたとえシャワーをともにしようともこの秘密が決して暴かれることはない。そう信じていたのに。 「おー……」  うっかり滑って転んで晒してしまった私のそれを、ノアは何も言わずまん丸の瞳で観察している。  見られている。その事実が私の股座についたささやかな陰茎に羞恥と怒りの感情を送り込み、いきり立たせていた。  やがてじいと見つめていたノアは私の股間から視線を外し、こちらの方に目をやって不思議そうに尋ねる。 「ヒロちゃんは……本当は、ヒロくん?」 「違う!」  私は拳を握って否定する。こんなものがついていようと私には人並み程度の胸のふくらみはあるし、女性としての機能もきちんと備わっている。歪なのはただ一ヶ所、生まれた時から抱え続けているこの馬鹿げた性器だけだ。  声を荒げたが、ノアは私の怒りの声をさして気にするでもなく再び陰茎に目線を落とす。 「そうなんだあ。のあ、これ、初めて見たな……」 そうしてノアは、何の予備動作もなければ誰からの許可もなく。 絵筆をとるような気安さで、私のペニスをむんずと掴んだ。 「ひぅっ……!」 「おー、かたーい。ひくひくしてて、ゴムみたいだねえ」 「や、やめろノアっ、そんなところを触るな……!」 ノアは程よい強さで、にぎにぎと私のペニスを弄んでいる。 形を確かめるように手のひら全体で撫でまわされ、私は思わず声を上げた。 「の、ノア…っ、や、やめっ……うぅっ…♪」 「ヒロちゃん、ここ触ると気持ちいいのー? お顔、どんどん赤くなってるねー」 床にへたり込んだ私に、ノアは覆いかぶさるように乗ってくる。 右手はペニスに添えたまま、彼女はまたも芸術家の目で私の表情をじっくりと観察しているようだった。 「ひぐっ…!」 「ここ、弱いのかな。ふにふにってされるの、気持ちいいのかなー……」 「ううっ、んん……っ!」 ペニス全体を包み込むような刺激のあと、ノアは私の睾丸を爪先でかりかりと刺激する。 電気が走るような刺激が私の背を突き抜け、私はのけぞり、高い声を漏らしていた。 私は思わず歯を食いしばり、ノアの与える刺激に必死に耐えようとする。 だが──私のその様子を見たノアの表情が、かすかに変わった。 「……ふうん♪」 好奇心に満ちた瞳に、嗜虐と悦楽の色が加わっているのを、私は感じた。 「……えい♪」 「んんっ!?」 睾丸袋を爪を立てて強く握られ、私は急な刺激に悲鳴を上げる。 すぐに手を離されて私は思わず息をついたが、ノアはその丸い瞳を弓なりにして薄い笑みを浮かべた。 「ヒロちゃんは、いつも強くてかっこいいけど……  おちんちん握られると、すっごく弱いんだねー♪」 「ノアっ……こんなこと……ダメだ、正しくない……!」 「しーらない♪」 「ん、あぁっ!?」 再び陰茎をノアに強く握られ、私の口からまたも吐息が漏れる。 握ったり緩めたり、ノアは牛の乳を搾るようにペニスの感触を楽しんでいる。 ……あるいは、それを握られる私の反応を。 「んー……。あ、こうかも」 やがてノアは握る動きから、指を輪にして上下にこする動きを見つける。 優しいスピードで二、三度動かしただけで、私の口からは猫のような甘えた声が漏れ出てしまっていた。 「んあっ、はぁぁ…っ!」 「うわー……ヒロちゃん、のあが聞いたことない声出してる……♪」 ノアは私の顔をじっと見つめながら、右手だけ器用に上下に動かしている。 「ヒロちゃん、もっとお顔見せて」 「い、やだぁ……、ひぐっ、んっ、んあぁっ♪」 私は力なく両手で顔を覆いながら、ノアの手の動きのなすがままになってしまっている。 緩やかなしごきが与える刺激はそれでも私に快楽を与え続け、入れるべき力を完全に失わせてしまっていた。 ノアは完全に要領を掴んだようで、にまにまと笑みを浮かべながら少しずつ動きを速めている。 「さきっぽを撫でたり、ぎゅーってしたり……」 「うあっ、やぁっ、……ひぐっ、んぁっ!」 「くちゅくちゅしたり、にぎにぎしたり……。なんだか、お絵描きみたいだね♪」 「んあっ、あっ、うっ、はぁうっ♪」 絶え間なく変化し、刺激を与え続けるノアの右手に私の頭の中はいよいよ真っ白になっていく。 力の入らない両手はノアによって容易く除けられてしまい、彼女は私と唇を重ね合わせられるほど顔を近くして私の表情に見入っていた。 「……ヒロちゃん、ヒロちゃんがこのままどうなっちゃうか、のあ知ってるよ……♪」 しこしこ、しこしこ…… 「う……や、止めるんだ、ノア……っ、君を、汚したくない……んうっ♪」 熱に浮かされたように、ノアの口からも荒い吐息が漏れてくる。 彼女は右手の動きを一層激しくし、口元を吊り上げて微笑むと私の耳元に唇を寄せた。 「……いいんだよー、ヒロちゃん。のあのこと、ヒロちゃんの精液でいーっぱい汚して……♪」 「うぅ……っ♪」 吐息混じりに囁く甘い声は、私の頭の中を塗りつぶし。 「ほらー、びゅーっ、びゅーっ……びゅーっ♪」 「うあっ、ああああっ♪ んああああぁぁっ♪♪」 痛いぐらいに反り返った陰茎はノアの手であっさりと射精に導かれ、 ひくひくと痙攣しながら、白くねばついた精液を噴き上げた。 「あ……ああ……っ、うぁぁぁ……♪」 「おー……♪」 吹き出した精液はぱしゃぱしゃと音を立て、ノアの腹部へと飛び出してはぶつかっていく。 半萎えになりながら名残惜しくぴゅっぴゅっと精液を吐き出している私のペニスを、ノアは好奇心と情欲が入り混じった目線で眺めていた。 「う……うぅ……ノア……っ、なんてことを……!」 それはノアに向けた言葉だったか、あるいは自分に向けたものか。 射精時の快楽でぴんと張った足は緊張から解かれてがくがくと震えている。 まだ上手に力を入れることが出来ず、私は目の前のノアを押しのける事さえできないまま間抜けな射精の余韻に浸り続けている。 ぺちゃ、と音がする。 ノアは手に付いた精液をしげしげと眺めていたが、やがて彼女は自らの腹部についた精液をすくって、 そして再び、私の方を見た。 「ヒロちゃんの精液、いっぱいだねえ」 そして、頬を染めてにぃーっと笑う。 「これ、のあのおまたに塗り塗りしたら……ヒロちゃんの赤ちゃん、作れる?」 「の、ノアっ!」 べとついた指を見せつけるように広げながら、ノアは妖しげに笑みを浮かべて言う。 その表情が。声が。無垢な言葉遣いが。そして、私と子供を作っても構わないとでも言うようなその言いぐさが。 私の中の正しくない性的興奮を、否応なしに高めてしまっていた。 気づけば、私は再び勃起していた。 射精したばかりにも関わらず、先程よりも固く、大きく。 「くぅ……っ!」 「んふー♪ ヒロちゃん、またおっきしちゃったあ♪」 甘えるような声で、ノアが私の陰茎を見つめて言う。 まだ立ち上がれない私をよそに、彼女はすっくと立ちあがりシャワーを手に取った。 「きれいきれいにしたら、もう一回精液だそうねー♪」 そして私のペニスを右手で慈しみながら、シャワーを当てて出たばかりの精液を洗い流していく。 「ノア、もういい、もういいんだ。だから……!」 「だめー♪ おちんちんのよわいヒロちゃんは、のあの言いなりになるしかないんだよ?」 「うぅ……っ!」 屹立したペニスをノアに強く握られ、私の身体から再び力が抜けてしまう。 温かいシャワーを浴びせられながら、自分よりもずっと小さな体型のノアに、私はなすすべなく精液を洗い流してもらった。 腰が抜けたようにへたり込む私と、その体を甲斐甲斐しく洗うノア。……これではまるで、私が幼い子供だ。 顔から火が出そうなほど大きな羞恥心に苛まれながら私が必死に顔を伏せていると、ノアはシャワーを止め。はじめからそこが定位置であったかのように私の股ぐらの間に腰を落とした。 あどけない顔の目の前に、私の性器が屹立している。 「それじゃあ、次はねえ……」 そうしてノアは右手でペニスを握り、愛おしそうに頬ずりをする。 汚らわしいものとしか考えていなかった陰茎を愛でられるという倒錯した状況に、私は戸惑いと確かな興奮を覚えていた。 そしてノアは、左手の人差し指を立て、とん、とんと私の下腹部を叩く。 快楽を与えるような強さでも、場所でもない。しかしノアはにやにやした笑みを浮かべながら、私にささやくように言った。 「ねえヒロちゃん。のあの魔法が何か、覚えてる?」 私は答えた── →【液体操作】パリーン 「……【液体操作】……まさか、ノア!」 ノアはにぃーっとした笑みを一層深くすると、とんとんと下腹部を叩きながら、呪文めいた囁き声で言った。 「せーえきさん、あつまれー……。たくさんつくって、おちんちんにあつまれー……♪」 「うっ、うぁぁっ、くふっ、んああっ♪」 とんとん、に合わせたしこしこ♪ の動きに、私の腰がびくんと跳ねる。 私の中の劣情と射精欲が急激に渦を巻き、まるで洗脳されたように私の下腹部が熱くなった。 「ヒロちゃんのよわよわちんちんが、またしゃせーしたくなったらこまるから……。  のあがヒロちゃんのせーえき、ここで全部、持ってってあげるね……♪  ふふー……、あつまれー……あつまれー……♪」 竿の根元の方からごしごしとこする刺激に、私は睾丸が縮みあがるような切ない気持ちに襲われる。 自分が自分でなくなる感覚が、怖い。もう、正義のことも何もかも忘れ、私はただ目の前の雷のようなセクシャルな刺激にただ歯を食いしばって耐えるしかできないでいた。 「ふぐぅぅ……っ、ノア、や……やめて…っ!」 「きこえなーい♪ もっと、もーっと、せーえき、いっぱいあつまれー……♪」 「んああぁぁっ♪」 とん、とんと下腹部を叩いてたノアの指の動きは、徐々に下に伸びていきやがてペニスの根元のあたりで止まる。 絶え間ない右手のしごきに射精感がこみ上げるが、精液はノアの指の所で留まり、もどかしい。 「んふー……♪ かわいいねえ、ヒロちゃん。  射精できなくってつらーいヒロちゃんのお顔、すっごくかわいいよ……♪」 「うぅ……っ、んああっ♪ ノアっ、のあ……っ♪」 私の頭の中は既に真っ白で、ただペニスから伝わる繁殖欲求に基づく快楽と、目の前でいやらしい笑みを浮かべる幼い少女の姿だけがある。 早く、早く射精したい。射精して気持ちよくなりたい。 普段の私からは考えられないほど単純で独りよがりなその欲求は、もはや私の中のすべてを支配してしまっていた。 「まだだよー、いっぱいためて、たっくさん射精しようねー……♪  まだまだ、まだまだ……」 「ふーっ……♪ うぅっ、ふーっ……♪」 陰茎を揉みしだき、睾丸を撫で、時にペニスを激しく擦り、 あらゆる刺激を与え続けるノアだが、左手の指だけはずっとペニスの根元に抑えられている。 精液はノアの魔法に操られ、そこに留まっている。私は目じりに涙さえ浮かべながら、食いしばった歯から空気の漏れ出る音を聞かせていた。 「もうちょっとだよー、ヒロちゃん♪ ……あと【3つ】数えたら、射精できるからねー……♪」 「ううっ、んん……」 ノアはパンパンに膨らんだ私の陰茎を明らかに興奮した様子で眺めており、 サディステックな笑みを浮かべながらも、彼女自身もまた熱に浮かされたように陰茎を扱き上げていた。 「……さーん♪」 「んんっ、ううっ……うああっ」 しこしこの速さが、さらに上がる。今にも爆発してしまいそうな射精欲は、私の脳の血管を焼き切ってしまいそうだ。 「はぁ……はぁ……っ、にーい♪」 「うああっ、ノア……! ノアぁ……♪」 彼女自身も無意識のうちにか、幼気な顔をペニスに近づけている。 息を荒げ、鼻をすんすんと動かし、今にもキスしそうな距離で彼女は私の陰茎をこすり続ける。 「あぁ……っ、ヒロちゃん……♪ ……いーち……♪」 「うぅ……! ノア、ノア、ノア……っ!」 夢中になってペニスを扱く彼女の口元から、涎が一筋垂れる。 それはペニスに絡んでくちゅくちゅといういやらしい音を一層激しくした。 「……【ゼロ】♪♪♪」 瞬間、彼女は左手の指を解き、待ちかねたように両手でペニスを一気に扱き上げる。 「うあっ、あああああっ♪ のあのあっ、のあぁぁぁっ♪♪♪  出るっ、んんっ♪ うあぁぁっ、出るぅぅぅ……っ♪♪♪」 「ヒロちゃん、もっとっ、もーっとぉ♪ ほらほらっ、のあにかけてっ、  ヒロちゃんのえっちなとこ、もっとのあに見せてっ♪ んっ、んぁぁっ♪」 それは、例えるなら魂ごと持っていかれるような射精だった。 解き放たれた精液はたぱぱっと高く飛んではノアの顔に、髪に、身体に降り注ぎ、汚していく。 ノアはうっとりとした顔で精液の飛び散るのを見つめながら、彼女自身もひくひくと小さな体を震わせつつ、私の精液を身体全体で受け止めていた。 永遠に続くかと思われた射精はほどなくして収まり、私はちかちかと明滅する視界のなかかろうじて意識を保っている。 今度こそ、腰が抜けてしまったのかもしれない。この陰茎が繁殖欲求をまき散らすようになってから初めての、圧倒的な快楽の波と、根こそぎ持っていかれるような量の吐精。 もう起き上がることも出来ないほどの疲労感の中で。 ぺちゃ、ぺちゃという、何かを舐めとるような音が、かろうじて私の耳に届いていた。 ◆ 「ノア、やはりあんなことは正しくない」 「えー。ヒロちゃん今になってそんなこと言うんだあ……?」 片づけを終えて、シャワー室の入り口付近。 着替えたノアに私は腕を組みながら言った。ノアは……どこか呆れたような表情で言う。 「……そもそも、魔法をあんなことに使ってはいけない。  君の魔法は……もっとこう、優れた絵を作るためだけに使うべきだ」 「うー……」 間違っても私の男根のために使うべきではない──とは、流石に続けられなかったが。 だがノアはそんな私の言葉に唇を尖らせ、不満げに唸る。 「……ねえ、ヒロちゃん」 「うん?」 ノアが口元に手を添えるので、私はしゃがみこんで彼女に耳を寄せる。 周りに聞こえないように、彼女は囁き声でこういった。 「ノア、さっき魔法なんて使ってないよーって言ったら……ヒロちゃんは、どうするのかなあ?」 「なっ……!」 私の顔が一気に赤く染まるのが分かる。 もし、それが本当だとすれば── あのシャワー室で、ノアに自らの射精をコントロールされていた私は。 魔法で射精させられたわけでもなんでもない、ただ欲望のままにノアを汚しただけの存在になってしまう! 「ノアっ!!」 「んふー♪ またいっしょにおふろで気持ちよくなろうねー、ヒロちゃん♪」 声を荒げる私に潮時と見たか、ノアはてってけと走って逃げだす。 どっと疲れた私はしかしノアを追う気も起らず、怒り肩で逃げる背を見つめながら──小さく溜息をついた。 まだ、先程の吐精の余韻がほのかに残っている。 「また一緒に──」というノアの言葉は、私にとって抗いがたいほどの甘美な誘惑を含んでいた。 「……うぅ……」 下腹部にじんわりと熱が集まってくるのを必死で散らしながら。 私はなんとなく、明日もノアと一緒にシャワーを浴びに来るであろうことをあさましくも予感するのだった。