ドルフロ2の二次創作のまとめ 五枚目 前提と独自の設定 これは二次創作。本編とは混同しないこと。 この世界は治安が悪いため、敵対する個人・組織が簡単に出現する。 グリフィンの指揮官は複数人居て、人形も分散して割り当てられていた。 ヴェプリーはエルモ号に乗るまでに様々な職種を経験している。 この話は本編とは関係無い曖昧な時系列で進行している。 設定の齟齬については諦める。 なんらかのパロディが含まれている場合がある。 登場人物 エルモ号の連中 エルモ号の男指揮官……エルモ号で最も指揮が得意だが、持ち回り制で他の指揮官に指揮をさせている。 エルモ号の女指揮官……エルモ号で二番目に指揮が得意。美容に気を使い、我が強い。 ヴェプリー……戦術人形。強い。暇な時にネットで新曲を配信している。出来る範囲でアイドルらしくありたいと思っている。指揮官が結構好き。理想と現実の差に苦しむ。 元グリフィンの連中 ツインテの指揮官……車の趣味が他の指揮官達と合わない。そこそこの生活をパートナーと送れればいいタイプだが、現実は常に厳しい。 ツインテ……M14を持っている戦術人形。場数を踏んでいる為、下手な人形より強い。真面目。 クロの指揮官……メンヘラ男。指揮より直接戦闘が得意だが、あまり意味がない。 クロ……戦術人形。場数を踏んでいる為、下手な人形より強い。配信が趣味。誓約している指揮官には優しいタイプ。 元グリフィンの女指揮官……元グリフィンの指揮官達と組んでいたが、レーティングの問題でヴェプリーの一連の話に出ることはない。 新興PMCのCEOの女……エルモ号の連中と微妙に協力している元グリフィン上級職員の賞金ハンター。いつの間にか離婚している。かなり変な性格。 01 ここはエルモ号の女子向けの化粧室として使われている場所で…… ヴェプリー達は朝っぱらの化粧の真っ最中。ほら、やっぱりアイドルだからね。アイドルだよね? 「人間って老いるじゃない」「うん」女指揮官が呟き、ヴェプリーはそれだけ返す。 「電子化したら永遠の美ってのが保てるんじゃないかしら。それこそ、肉体は老いるでしょう、劣化するでしょうが」 「うーん、美ってのは老いるのと他者の価値基準も含まって成立させてると思うし、それじゃ……歴史じゃない?」 「歴史ぃ?」「地面から掘り出される遺物みたいな」「それじゃ私が土偶みたいだって言いたいの?ん?」 睨まれた。「人の美しさはぁ、心の美しさだってコルフェンは思いますよ!」と横から。確かにそうだと思い、頷く。 「あのね、今思考ルーチンの形の話してんじゃなくて物の形の話してるの」「はぁい」萎縮してる。 「ヴェプリーが言いたいのは、つまり、どの時点でどれが高評価だっていう価値基準の記録みたいなのがぁ……」 ドアを開けてツインテが入ってきた。 「ヴァリャーグの襲撃ですよ、準備して」 「まだヴェプリーの話終わってないのに!」 指令室。 ディスプレイにはギリシャ彫刻の仮面に、肉体美を強調し、バイクに乗った連中。 「この辺の勢力情報によると、あれは『ローマの美』ってヴァリャーグだ」ツインテの指揮官が呟いた。 「なんだってあんな格好してるの?」女指揮官。「あいつらは妙なんだ。身体を鍛えてるし、レスリングまでする」 「あの体、ステやってますね」とコルフェン。「俺達はナチュラルなのにな」とツインテの指揮官。 外に出ると同時にヴェプリーは片手でロケット弾を撃ち落とす。待ち伏せね、嫌なやり方をする。 「ヴェプリーのライブの時間だよ~」とクロが言う。「へへ、言ってみただけ……わ!」帽子が撃ち抜かれた。 「は!?これ結構高いんだけど!?」それから戦闘が始まる。 状況はすぐに悪化。岩陰に移動しながらの撃ち合いが連続、弾切れ。 薄手の防護服を着た筋肉男とばったり。彫刻の白い目と目が合った。カチリ、と向こうの銃の音が鳴った。 「来い」「ん」拳を構える。 美とはコンテクストで、彼らの格好は流儀の現れだ。ヴェプリーはそれに答えることにした。 「なんでぶっ倒れてんの?」キャロリック。ヴェプリーは勝ったよ。 02 G&Kのドクトリンなのか経験則なのかはよくわからないけど、攻撃をする時は煙幕弾を使え、というのが定石だった。 向こうさんには旧ソ連の油まみれのDSHKがあるし、それの目に留まったら一発でバラバラ。だから理屈は合ってる。 でもヴェプリー達は光学迷彩を着て潜入しているから、煙幕なんて焚けばバレるだろう。だから今回は使わない。 TPOなんだろう。きっとそうだ。 キャロリックからゴワつく安物光学迷彩を渡され、それと自分のをバッグに無理矢理押し込んだ。何故って? さて、目の前のヴァリャーグはこの前哨基地の重機関銃手だが、剣を身体に押し込まれ、砕ける音と湿った音を立てる。 ヴェプリーはその右隣の鉄骨塔にパルクールし、もう一人の重機関銃手を殴った。ともかく血液が付くのは避けたいの。 この安物迷彩はとんでもなく繊細なくせに汚れやすいし壊れやすい。じゃあ何で使うの? それはこの前哨基地が広い上に何も遮蔽物が無い場所にあって、気付かれずに近づくのは光学迷彩以外不可能だから。 で、ヴェプリーの仕事の9割はこれで終わり。 ハンドサインを送ると、地面の上の歪んだ空気が前哨基地に走っていった。 帰路。 「ねえ、一番めんどくさい仕事をアタシ達にやらせて、アンタらは美味しいところだけ持っていってない?」 キャロリック。 「いや、射程が短い近接と散弾銃を先行させて、何かあったら射線が集中してる所に俺達がカバーするつもりで……」 ツインテの指揮官。 「危険手当って事で取り分盛れないかしら」「どっちみち重機関銃に見つかってたら全員死んでるし、同じじゃね?」 あ、ネメシスいた。「帰るよー☆何か普通に終わっちゃったし」「うむ」 「晩飯どうする?」クロ。「カレー以外」クロの指揮官。「え、ヴェプリーカレーがいい」「連日だ」「いいでしょ」 「良くないわよ、安もんの迷彩で突っ込ませてるんだから何か……」「他にやりようがあるのかよ」「煙幕とかさ」 連れている子供の一人が口を開いた。 「あの姉ちゃんと兄ちゃん、何言い争ってんの?」 何でこんなヴァリャーグの基地に来たかって、この子供達を助ける為なんだよね。 だから煙幕を使って下手に刺激したら、人質として使われそうだって言うのも今回の作戦の理由だと思う。 ヴェプリーはわかってたけど、疲れてるから助け船は出せなかったの。 03 急ごしらえの闇ブローカーのテント。ある輸送依頼の終点。 「だーかーら、マッシュルームが1シーズンに一回必要なのさ。味変よ」「キノコはつまらんよ」 「でも必要なの!」「いらねって」ヴェプリーは闇ブローカー同士が話してるのを聞いてて…… 言ってる事、全然わかんないの。 SFみたいなよくわからない専門用語、頭の中じゃ成立してるかもしれないけど外からじゃわかんない断片。 シンセが調子悪いし作曲のネタも思い浮かばないし、日々が忙しいからアイドルしたいけど出来てないの。 だから聞いてるんだけど……「順番っすよ」右隣のアフロの男に言われて、慌てて眠ってる指揮官を起こした。 「死んだ?」「いやー依頼こなしてもらって悪いんだけどね、あんたのその荷物、渡す奴がいなくなっちゃったのさ」 エルモ号。 「その電極コード付いた奴、何?」女の指揮官が聞いた。「届け先が死んじゃったから、貰っていいって」 「ふーん、売ったら?」「考えとく」「何、自分で使うの?」ふむ。 「さあ……」「はっきりしないわね、どっちかにしなさいよ」 その時試してみようかと思って、それから後悔した。 その荷物はVR機材で、ケーブル接続で人形と人間の両方でVRを実行する事も出来るの。 やめとけって居候の指揮官達は言ってた。詳細を聞くと濁すもんだから、なら試そうってなっちゃって。 完全な空間。ライブ会場があった。最前列の席にはエルモ号の皆がいて、大都市の劇場を観客が埋め尽くしていた。 それっきり、完全な空間が終わって、現実に引き戻される。メンタルに依存が組付けられるわけじゃないの。 ただ落差のせいで……体、複合材とシリコンひとかけらって気分。 「死人みたいな顔色してますよ」死人なのよ、コルフェン。 恐ろしくて机に放置してた。次の日、エルモ号の指令室で、乗ってる全員がぐったりしてた。 一週間後、荒野。コーラップスストームが終わった後、ボロボロの車の横を通りがかった。 負傷した男。ELIDになりかけで、こんな死に方は嫌だと呟き、泣いてた。 ヴェプリーがやる事はわかってたんだけど、ふと手元にあのVR機材があることを思い出したの。 男の目を閉じさせ、見えない所で機材を繋ぎ、起動した。男は本当に安らかな顔で死んだ。 「あげるよ、それ」それから立ち去った。 04 ヴァリャーグの捕虜一人を捕まえて、ヴェプリーは尋問しようとしてた。 「酒臭っ!?」ワインの瓶を抱えた女が入ってくる。 居候の元G&Kの警備会社のCEOの女だ。最悪な事に悪酔いしている。 「私が思うに、あなたみたいな存在が産まれるのは人類が成長する事が出来ていないからなんじゃないかしら」 「何だお前!」「あの、骨折してるんですから安静にしてください!」コルフェン。彼女は空き瓶を投げ捨てる。 「聞きなさい。私達は長城列車や人形を作り出すほど技術は発展していても、精神的には全く成長出来ていないわ」 「一体何言ってるんだ!?」「今のこの事態は浪費の結果なの。ネット空間と現実空間での永遠の闘争は等価なのよ」 コルフェン、ヴァリャーグ、ヴェプリー達は目を見合わせた。助けて欲しそうな目で捕虜が見てきた。 「人類が進化しないからこんな風になってると言いたいんですか!」コルフェンが言う。 コルフェンは自分と天秤にかけて、ヴァリャーグの苦しみを優先したみたい。コルフェンらしいね。 「おい!普通に尋問してくれよ!」ヴェプリーも乗っかる事にしたの。 作曲のネタになるかもしれないから、ね。 エルモ号の指令室はバカみたいに激論になっていてもう訳がわからなくなっていた。 「大体、あなた達の言ってる事は自分が道徳的だと誇示するようなものじゃないの!?それに何の意味があるの!」 「人間の死と言うのは大切な送りものなんだ!」「違いますよ!死と生殖は付属物を切り離す免疫機構なんです!」 「ノイズに満たされる……」「あんたら何やってんの?そんな議論してどうすんのよ。捕虜の尋問しなさいよ!」 「指揮官、世代交代が起きればどれだけ教育にコストをかけてもリセットされて0からやり直しよ」 「だから!世代を超えて歌い継がれるようにすればいいんじゃないの!?」「書は燃え、言葉は歪められん……」 「お前ら尋問しろよ!」ヴァリャーグが叫ぶ! 「あなたは黙ってて!今ヴェプリー達大事な話してるの!」 荒野。 「よお」ヴァリャーグが片手を上げた。「何お前、その顔」「俺……ヴァリャーグやめるわ」「は?なんで?」 「俺達は電気抵抗で生まれる熱みたいなものなんだよ。全てはロスなんだ……」 ヴァリャーグはゆっくりと歩いていった。もう片方は、ただ立ち止まったまま…… 「は?怖~」 05 都市。 視界の端で数秒、蝶のようなノイズが荒ぶった。これはネットで人形にのみ見えるよからぬ予兆として知られていた…… らしい。本当の事なんて知らないし、ある人形が言うには単なる接触不良、単なる感染……メイリンに見てもらおう。 見てもらいたいのはやまやまなんだけど、ヴェプリーの指揮官はめっちゃ酔っぱらってるの。飲み過ぎなの。 「嘘だろ!」と叫び声。ヴェプリー達の乗ってきたツインテのトラックが傷まみれ、割れた窓にはバットが刺さる。 「お兄さん、人生ゲームやってきませんか」と男が声をかけてきた。 「ゲーム?いいね」と指揮官。「や、やめてよ、もう帰ろ?市の掲示板にこういうのついてっちゃダメって」 ビルの地下階。 パン、と音がして、血の染みがドアから漏れる。ヴェプリーもうドン引きなの。 「さ、入って」ドアを開けると、椅子に座った男と目が合った。死んでるし。 「これのどこが人生ゲーム!?」「ロシアンルーレットは人生ですわ」 「いいね、乗った」「指揮官!?」 「これで一発逆転だぜ」と目の前の対戦相手。 カチ。彼が引く。 カチカチカチカチカチ。指揮官が引いた。 「イカサマやってんだろてめえこらっ!」客引きが指揮官の胸倉を掴んだ。 「どうやって?」指揮官は笑いながら答える。「私はここに来たばかりなのに、どうやって細工をしたと言うんだい?」 「舐めてんじゃねえ!」弾倉を見せる。一発入っている。あの五回、綺麗に不発を引いたの?ありえない。 「もう帰ろうよ!」「ガキは黙ってろ!」「金は?」「ああ!?」「勝負に乗って勝っただろう?何故渡さない?」 客引きは奥に行った。「お願い、穏便に終わって……」ショットガンを持って帰ってきた。 何でよ。「待って!」「待たねえよ!」ヴェプリー撃つしかなくなっちゃったじゃん。 「カチコミか!?」ビルの奥から声がした。「ヴェプリー、いいかい」「何も良くないよ!」 「私は命を賭けたが、向こうは金を渡してくれないんだ。どうすればいいかわかるかな?」「わかりたくないよ!」 ミニガンを持った用心棒が出て来て、何でそんなにいるのかわからないビルの連中との撃ち合いが始まり…… 結局最後にわかったのは、向こうさんはそもそも、一発引いて帰ってくれる普通の人間相手の商売で…… シケたサルディスゴールドだけが金庫の中身…… 06 ここは某所の廃棄された都市で、人間達はここで無人機の戦闘競技をやっている。 シュヴェイクを肥大化させた奴と、金網を取り付けた見た事の無い二脚機械が撃ち合っている。 「ニーマムね。珍しい。最近の鉄血製品、イージスとゴリアテしか見てないわ……」 重機関銃の銃声と観客のヤジのどっちが大きいだろうか。今この瞬間は……人類の勝利だ。 券を握りしめた男が泡を吹いて倒れた。医者らしき男が人形と担架に載せていった。 「人形闘技場は禁止されてるって話でしょ?」「だから人格の無い遠隔操作のドローンを使うのよ」 居候のCEOの女が観客席から立ち、それについて行く。途中で女の指揮官がゴミ箱を蹴っているのが見えた。 「ほどほどにしてね」「うっさいわね!」 更に歩く。 「ギャンブルは胴元が儲かるように出来てて、参加者は勝っても負けてるようなものなのよ」「ふーん」 「警備コンサルタント以外にやれる事を模索してたら、いいアイディアが浮かんだの」「それがこれ?」 ドアを開ける。 銃を構えた闇ブローカーと賞金ハンター達。 ドアを閉めようとする。 「そこは入れよ」「嫌よ。物騒ね」 結局部屋に入った。 「クロからの伝言、あんた普通に上級代行官やればいいのに無駄に野心あるから親権も失うんだって」「怒るわよ」 「欲張りすぎなんだよお前は。二兎を追うもの一兎も得ずと言うだろうが」「で、これはどういうことかしら?」 ヴェプリーが聞きたいよ……全然文脈わかんないもん。 「敵対的買収さ。お前をグループから抜いちまった方がよーく稼げるからな。この場で死んでもらうぜ」「嫌ね」 「ヴェプリー帰っていい?」「ダメだ。エルモ号もグルになって何か企んでんだろ。お前も指揮官も……」 おっと、話が変わってきたみたい。ここで二人で同時に早撃ちした。「応戦しろ!」結局こうなるの。 「なんだなんだ」と観客達が寄って来た。「おい!悪徳賞金ハンター共とエルモの奴らが撃ち合ってるぜ!」 そうなの!助けて!「どっちが勝つか賭けようぜ!」クソ野郎! スマート跳躍手榴弾が飛んで来たもんだから、無理矢理蹴っ飛ばして起爆させ、悲鳴と共に血と肉が飛んでくる…… 数日後のエルモ号。 「それで、最終生命の無保険の治療費で私の稼ぎが吹き飛んじゃったのよ」「自業自得でしょ」クロが呟いた。 07 グリーンエリアで死体なんてそんなに見ないんだけど、今回は数十人単位でかなり多かった。 スプリングフィールドが取引の様子がおかしいと言って、ヴェプリー達を雇ったの。 ある海上コンテナの周辺で蜂の巣になった連中がどっさり。 コーヒー豆は無事だったけど、豆の輸入品業者が巻き込まれてたみたい。 「中身を見てみましょう」ツインテが呟いた。中身は金庫と、書類。書類をデータリンク。 エルモ号のクルーの内数人が悲鳴を上げた。「大声出さないでよ!」「そうですよ!」 たかがジーンズで?『年代を見て!』CEOの女が言う。「200年前のだけど」 『今すぐそこから離れろ!絶対にそんなもの持ってくるなよ!』ツインテの指揮官が言った。 「どうする?クロ」「え、ジーパン欲しいじゃん」『やめて!私達全員死ぬ!』女の指揮官。 「何を言ってるんですか!ジーンズという名目で闇取引を行っているに違いありません!」ツインテ。 『馬鹿!それは絶対にジーンズだ!ホワイトエリアの連中の所有物に違いない!』 クロの指揮官が最後に。 さて、全員がアイコンタクトを交わし、どうするかを考え……持ち帰っちゃった。 エルモ号は完全な恐慌状態だ。「なんの騒ぎだ、たかが布じゃないか」と男の指揮官が寝ぼけた声で呟く。 「今すぐそのクソ金庫を元の場所に戻しなさい!」CEOの女が言う。もう遅いと皆が言う。 「あたしは闇取引だと思ってます!それを証明しましょう!」もう遅いし、どうせだからと抉じ開ける。 中身はボロ布だ。「リーダー!自決用手榴弾を配給しろ」ツインテの指揮官。「ええ?」男の指揮官。 今まで体験した事の無い攻勢が始まった。ヴァリャーグや悪徳賞金ハンターなどが連合を組み、襲いかかる。 ヴェプリー達はエルモ号の予備物資を使い切る勢いで戦い続け、何とか切り抜けていた。 ある時、攻勢が突然凪いだ。 ヴェプリーが一番戦いたくない相手はクルカイで、同一等級の人形にはあまり勝ち目がないと思ってる。 最高級光学迷彩はラグ無く消え、現れる。最高級戦術人形の部隊が全員に銃を突き付ける。 「これは返してもらいます」と、物腰柔らかな声と共に、例の布が宙に浮く。ケーブルを刺され、ログを読まれた。 「悪気は無いのでしょうが、二度とやらないでください」 それっきり、その件は終わった。 08 いろいろあってヴァリャーグなどに襲われた結果、ヴェプリー達のエルモ号はもうズタボロ。 闇ブローカーの部品が届くまで時間がかかるし、おまけにその間も赤字を無くす必要も出てきちゃって。 状況?良くないよ。総合的な環境の再構築ってすごい手間なの。 撃たれた片足がまだ痛い。無くなってるんだけど、これって幻肢痛? そんなこんなの内にフローレンスが来てくれました。イェーイ。 「ヴェプリーの脚直してよー」「うーん、材料無いから無理だね。それよりあなたに頼みがあるんだけど……」 フローレンス曰く、グリーンエリアの難病の子供の為に貴重な治療薬を積んだ輸送車両を護衛してほしいらしい。 「そのでっかい熊に護衛させたら?」「戦力は多いほうがいいでしょ?それに私急いでるから、即決して」 「クロ」「PCがEMPで吹っ飛んだばっかだから話しかけないでつったでしょ……」ビール瓶を抱えたクロが言う。 「や、やめて~」ヴェプリーはクロの襟を掴んで片足でガレージに跳んでいった。 後はツインテ達と居候の指揮官達も呼んで、車両の護衛を開始した。 それで、護衛は無事に終わったんだけど…… 病院。 「私ね、ダンサーになりたかったんだよね……」少女が呟いた。 人間の主治医によると、どれだけ早く着いてもそんなにうまくは行かなかっただろうと言うことらしい。 「命が助かっただけいいのもわかるよ、賞金ハンターや警備の人達も私の為に頑張ってくれたのもわかるの……」 両親が泣いてた。「でも私、夢を無くしちゃった……」 クロが急にヴェプリーを見た。「何?」「おいアイドル、ちょっとこの子の為にパフォーマンスでもしてやんなよ」 強いて言えば、ヴェプリーは経緯こそ違うがこの子と同じように片足が無くなってる…… 「何を見せる気?」少女が質問した。「一週間したら見せてあげる」 よし、これはヴェプリーの仕事だ。 NGシーンを載せようと言い出したのはツインテの提案で、フローレンスは義足の調達だ。 クロの携帯の前で、あまりに飾りっ気のない練習用のスポーツウェアで、失敗を繰り返した。 三分間の動画が出来上がる。それを彼女に送信した。あまりに多くの失敗も添えて。 それから時間が経ち、返信の三分間の動画が届いた。そう、彼女はうまくやれたんだ。 09 カフェ。 「ですから、私もズッケロもそういうものではないんですよ」スプリングフィールドは呻いた。 「周りを見なさい。フランチャイズよ。チェーンを拡大し、契約と履行の連鎖を作り上げ、資本の還流を引き起こすの」 シャークリーにエルモ号の方から来た者と名乗ったこの女が得体の知れない投資話を持ち掛けて何分経ったかな? 「消費者には快適性、労働者には約束を提供。高度労働に対する賃金は金が金を生むサイクルで釣り合うわ」 「ここ最近の野蛮な企業紛争に加担したくてズッケロを建てたわけじゃないんですよ」 一週間も前から老若男女がスケボーや車で限界速度で走行しまくり、轢かれかける事例が多発中。 シャークリーが骨折したのもそのせい。 「模倣子はロ連の神経節に潜んで……」「ヘルペスってこと?」シャークリーが口を挟んだ。「違くて」 「あのですね!そういう風に20分以内の配達の強行とかをやっていたら、大変なことになりますよ!」 「ハハハ、どうなるっていうのかしら?」 少年が無反動砲を店の前で構えたのが見えた。幻覚かな。 「直通路が出来たぞ!ここを通って配達しろ!」 「こうなるんです」 グリーンエリアの都市が人為的な力によって整地されていく。 不可能の達成。契約の成就。幸福の渇望。人類の動作原理。時としてハックされ、利益が抽出される…… スプリングフィールドがエルモ号に来て、指揮官はどこですかと言った。 「集団訴訟?」「ズッケロがボロボロになったので、損害賠償の請求もしなければならないんです」 保安局の男がエルモ号に来て、指揮官はどこだと言った。 「強制執行?」「奴らはフリーランスの事業者が勝手にやった事だと言っているが、通らんよ。それは……」 企業の人形がエルモ号に来て、指揮官はどこ?と言った。保安局の男の死体が横にある。 「私を拉致?」「あなたを適切に複製し、企業戦争の尖兵に加工し、量産手順を確立したいのです」 「お前は何を言っているんだ」「今からやることの予告です」鳩尾に拳を突き刺し、彼女は指揮官を担ぐ。 ヴェプリーが来たのはその時だ。いや、マジか?って思いながら、足元に向かって散弾を速射した。 それから端子にメモリを突き刺し、データを抜いた。 「いつもこうなの?」スプリングフィールドに聞いた。 「彼、よく拉致される癖があるんです」 10 早朝。 「次!」テントに車椅子を押し込んで入る。彼女はもしもの時の指揮官代わり。 「お、エルモのか、調子はどうだ?」「この人は怪我してるけど、ヴェプリーは普通」「ミイラみたいだ」 イエローエリアのあるテントでヴェプリー達は話し合ってる。ヴァリャーグからの護衛の件だ。 「モゴゴ」何?くぐもってて聞こえないよ。 「余剰の適切な再配分が行われなきゃ、困窮した人間は略奪でそれを回収するってよ」「何でわかるの?」 「だってこいつ、ちょっと前にふらっとここに来て、酔っぱらいながら的外れな事グダグダ言ってたんだぜ?」 「セーフティネットの概念じゃないの?イエローエリアには欠落してるけど」ヴェプリーは首を傾げた。 「バカ、経済とか収支とかの問題じゃなくて、奴らは略奪それ自体を楽しんでるんだよ、ヴァリャーグなんだぜ?」 そんなことあるのかな?長期的には持続可能性が無くない?って思ったけど…… 人は理屈を作ったけど、その理屈を駆動してるのは結局人の獣性そのものなんだ、とふと思い至った。 「奴らが来たぞ!」叫び声。 「新鮮なエモノでイッパイだぜ!全員ぶちのめして全部奪ってやる!」 彼女に神経読取ゴーグルを被せた。『何故話せる手段があるのに使わないの』「話したくないから」 『クロがいれば勝手が違うんだけど。私SG一体だけを指揮するのって苦手だわ』 「元グリフィン上級代行官なんでしょ?ヴェプリーをうまく指揮してよ」『待って……OK』ファイルを受け取る。 音楽がメンタル内で再生され始め、不思議とストレス値が減少した。 『この件はあなたの指揮官と共有しておくわ。やはりアイドル系人形は音楽を流すと調子が上がるのね』 今日は絶好調。 逃げ遅れた子供二人をテントに押し込む。「わああ!ミイラだ!」『嫌ね、子供って嫌いだわ……左右から来るわ』 リズムに合わせて振り返り、ショットガンを片手撃ち。それから手榴弾を背後に投げ、一瞬で四人を片付けた。 増援が来る。 「おい!人形の動きがいいってことは指揮者が近くにいるはずだ!三角法で位置を特定しろ!」 マガジンを使い切る。「いたぞ!」テントにヴァリャーグが一人入るところ、サイドアームの早撃ちで頭を抜いた。 「やるじゃねえか」と闇ブローカーがテントから出てきて、一発撃った。 「どうも?」背後のヴァリャーグが倒れた。 11 ツインテ達がタコツボの中で待機する中…… ある廃劇場に入り込む。救出と情報収集を同時に実行しなきゃいけない。 「何だてめえは?」とヴァリャーグが聞く。「こっちは助手、彼女はドクター」 助手はヴェプリーです。見事なくらいヴァリャーグの服装です。 「そのマスクを脱がせてドクターとやらの髪を見せろ」 緊張感と沈黙は、ガスマスクから深い青色の髪が出た途端に消失した。 「よし、フローレンスじゃないようだな。入れ!」 この潜入作戦が終わった後にコルフェンを宥めるのがヴェプリーの仕事だ。 一人の男が廃劇場の舞台の奥で両手を広げた。このあたりのヴァリャーグのリーダーだ。 「俺には力がある。俺達の部隊だ。部隊の力は……あの指揮官を捕まえたことで証明できるだろう?」 「うおお!」「そして戦術核だ!」「うお……」叫びはざわめきに変わり、そのうちに消沈した。 沈黙で満ちた舞台にはガイガーカウンターの音だけが聞こえる。本物だ! 「核はやべーでしょ……」「俺この族抜けるわ」「政府が本気でかかってくるって……」 「何だお前ら!そこは俺を称賛するところだろうが!」「う、うおおー……」 街の屋台で何かを食べてる最中に、馬に乗ったヴァリャーグに縄をひっかけられた気分はどうだろうか? 馬って言っても、厳密にはダイナーゲートの一種だが。 従業員向けエリアでPCのハードドライヴを引っこ抜き、やがて牢屋に辿り着いた。 「やあ」指揮官。「やあじゃないでしょ」コルフェン。「助かった、縄を解いてくれないか?」 「ねえ、何でブリーフ一丁?」「凄い格好ですね」「奴らの趣味だ。いいから私の服を取ってくれ」 クロがいなくて良かった。絶対に撮影してたから。 「気をつけろよ、あのボスは心臓が止まったら核兵器を起爆するようにセットしてあるんだ」 どこかで聞いたような話だ。 問題はヴァリャーグなんてどれも同じようなヘルメットばかりで、脱出最中の混乱した状況じゃわからないこと。 騒ぎを察したツインテがタコツボから銃口を出したころ、ヴェプリーは四輪車を奪い取ってアクセルを踏み込んでいた。 目的のハードドライヴは手に入れた。指揮官も救出した。何かを忘れてる気がする。 バックミラーに映ったリーダーは赤いヘルメットを着けていて、その頃ツインテは赤いヘルメットを撃ち抜いていて…… 12 ある企業がヴァリャーグを雇って他の企業を襲っている証拠を手に入れた次の日の朝…… 「このUSBで……サーバーを破壊……」「喋らないで!」フローレンス達が男を担架に乗せてエルモ号に入ってきた。 「誰?」「企業のお偉いさんの精神を電子的に複製する仕事を請け負ったってSEよ」ヴェプリーは目を回した。 「SF小説を読みすぎたの?フローレンス」「こんな風に大怪我してるなら本当でしょ……」 酷い銃創。輸血してもいつまで持つかはわからない。 「つまりどういうことなの?わかるように説明して」 「ブラックマーケットの論文で間に合わせの仕事をしたら成功してしまった……彼は今やサーバーの中の魂だ……」 「ヴェプリー頭おかしくなりそう」「もうとっくにアイドル脳でしょ」コルフェン。 「今彼は証拠を隠滅して、自分を唯一の存在にして優位性を保とうとしている……頼む、僕を保護してくれ」 「何でそんな奴の為に働こうと?」「僕は専業主婦の妻と子がいる失業者だ……それより企業サーバーの座標は……」 エルモ号の壁が吹き飛んだ。 彼は即死した。 遥か先の地平線、シルエットが見える。 戦車がそこにいる。 「何でそうなるの……何で戦車まで……」 武器庫から無反動砲と対戦車地雷を取ってきて、光学迷彩を起動してから車外に出る。それから接近する。 大雑把な機銃の薙ぎ払いが飛んできた。車にはいいセンサーが積めるものだ。だから時々迷彩の効力が薄れる。 ここ最近の企業のシェア争い、強烈なノルマによる過剰労働の横行、武力紛争の類は一つの特異点が原因なんだろうか。 それもどうだろう。人間のやることだ。電子化された人間がやるようなら、本物の人間でもやれることはやれるだろう。 理由のある悲しみが溢れてきたが、浸ってる場合じゃない。この戦車を何とかしよう。それと原因の人間もだ。 コルフェンはいい迷彩を使っている。火力が低い分、偵察に徹してもらう方が有利だからだ。 彼女に無線で迂回ルートと射線情報を提供してもらう。ネメシス達がRWSを狙撃したのと同時に飛び出す。 背面に砲弾を撃ち込んだ途端、ドライバーがハッチから這い出した。両足を撃ち抜き、踏み付ける。 「地雷を中に放り込まれたくなきゃ出て来なさい!」 尋問は速やかに終わった。 ともかく、問題の企業と、そのサーバーの位置はわかった。 グリーンエリアに、アサルトアーティラリーの足音が響く。 『民間人は下がって!戦闘に巻き込まれますよ!』ツインテの声が響くが、スマホを持った人達はお構いなし。 「めっちゃロ連じゃん」と市民が呟く。「死ぬかもしれないから下がってー」クロが手を振る。 「企業ビルにいる犯罪者を逮捕するって名目で警備は通してくれたけど、いいのかな」 「メカが暴れまわるより、問題の企業の警備員だけが撃たれる方が安いからでしょうね」グローザが囁く。 「これで指揮官を狙ってくる連中が減ればいいわね」「無限って減るの?」 警備はメカを見たら降参すると思ったけど、無反動砲を持ち出した。 彼らはプロだったが、熟練者が乗ったメカに勝てる奴は稀だ。 企業ビルの奥深く、どうやってか搬入したマンティコア二機とニーマム一機、高級戦術人形一体がフロアに陣取る。 旧式の鉄血兵器は30mmの壁抜きで数秒で大破した。 だが人形は銃弾を避けながら刀を振るい、ヴェプリーの左腕を切断した。 刀をメンタルコアから逸らせたのはキャロリックとの戦闘経験があるから。 それから人形の手を掴み、30mmが当たるよう動きを止めた。 サーバールームは意味もなく豪奢で、それが気に障った。 モニターに電源が入り、老人が映る。 「監視カメラの映像をずっと見ていたぞ。ワシに雇われる気はないか?」 「随分呑気ね、ヴェプリーはあなたを消しに来たのに」「何故だ」 「あなたが雇った戦車で、ヴェプリーの前で人が死んだんだよ」「ああ、その件か……で?」 「何でそんな他人事みたいな……」 「どうでもいいからだよ、ヴェプリー君。今、人類をワシの作る経済に統合するプロジェクトで忙しい……」 「何の意味があるの?」「面白さかね……肉のワシとは厳密には同一とは言えんかもしれんが、好みは同じでね……」 迷いが消える。 男が死ぬ前にフローレンスに渡したUSBメモリをポートに刺した。 「やれやれ、あの男が一枚上だったか。君たちもあの人形をよく倒せたものだ。ワシの完敗だよ」 それっきり、サーバーは唸りを止めた。 何か変わったか?指揮官を狙う奴はいる。企業紛争は終わってない。レッドエリアの核は今も見つかっている。 何も変わってない。けど、ヴェプリーは食べれてる、歌も歌える、今日の所はよく眠れてるから、それで十分だったの。