[main] スカーレット : ぐつぐつと鍋が湧いている。そろそろ食べ頃だろう。既に周囲からは酒盛りで盛り上がる人達の声が聞こえている
こちらのテントにも、汁物を求める人たちが来る頃合いだろう。杓子を握り椀の数を数える。十分な数があるはずだ

[main] スカーレット : choice[シチュー,ビーフシチュー,ポタージュ,豚汁,肉じゃが,カレー] (choice[シチュー,ビーフシチュー,ポタージュ,豚汁,肉じゃが,カレー]) > カレー

[main] スカーレット : 2d6+5+5 料理判定 (2D6+5+5) > 8[6,2]+5+5 > 18

[main] ヤスツナ : 「こーんばーんは」
男はにこにこと笑いながらやあ、と手を振って。

[main] スカーレット : 「あら──また、来たのね」
愛想はない。業務範囲外だ

[main] ヤスツナ : 「護衛任務はまだまだ続くからね~。本日のメニューはどないかしら?」
一方こちらは愛想を無駄に振りまく。オフであろうとも。

[main] スカーレット : 「カレー。野菜がごろごろしてるやつ」

[main] ヤスツナ : 「いいね~、これから仕事なのもあってそういうのがいっちゃん嬉しいんだ」

[main] スカーレット : 「大盛?」

[main] ヤスツナ : 「もちろん!」

[main] スカーレット : 深めの皿にたっぷりと盛ってやる
「どうぞ。しばらく熱いから」
この男は確か猫舌だった

[main] ヤスツナ : 「ありがとねぇ」
にこやかに受け取れば、スカーレットの近くに座る。

[main] スカーレット : まあ、昼勤組やキャラバンの人間は寝静まり、夜勤組がたまに現れるくらいの時間帯だ。目くじらを立てることもあるまい、と何も言わない

[main] ヤスツナ : す、と視線を彼女へと向ければ、しばしその顔を見た後。
「……君、どうして“お手伝い”の方してるの?」
そう問いかけて首を傾げる。

[main] ヤスツナ : 見立て通りであれば、彼女は……自分と同等、あるいは自分よりも実力を持っているだろう。であるのに、何故護衛専門ではないのか。
ふと湧き立った、小さな疑問。

[main] スカーレット : 「ん」
その疑問に、大鍋を掻きまわしていた手を止める。

[main] スカーレット : 「そうね。理由は幾つかあるけれど。路銀に困っていないということ、私の行きたい街に都合よく行こうとしているキャラバンがあったこと」

[main] スカーレット : 「ただ、一番理由の比重として大きいのは」

[main] スカーレット : 「久しぶりに誰かに料理を振舞いたかったの」

[main] ヤスツナ : なるほどねぇ、と呟いた後。
スプーンを持って、ふー、ふーと息を吹きかけて。

[main] ヤスツナ : あちっ。

[main] ヤスツナ : 「……ん。おいしいよ、とてもね」
一口食べた後、そう言って微笑む。

[main] スカーレット : 「そう」
僅かに微笑んだ

[main] ヤスツナ : もみゅもみゅ、と食べながらヤスツナは思った。
この子は愛想はないが、多分きっと良い子なのだろうと。

[main] ヤスツナ : そして同時に。

[main] ヤスツナ : 手合わせしてえ~~~~~~~~~~。

[main] スカーレット : いいのか、今のこの子Lv9だから獲物バッドツインズだぞ。2回殴ってくるぞ

[main] ヤスツナ : うっひょ~~~~~~!!!!!!

[main] ヤスツナ : はっ。

[main] ヤスツナ : いけないいけない。
Q.僕の仕事はなーんだ。A.そうだね、護衛だね。
うんうん。

[main] スカーレット : 護衛が半護衛と戦いたがるなというわけですな

[main] ヤスツナ : くすん。

[main] ヤスツナ : 「……そういや、どっちの方から来たの?僕不思議の国の……まあ、田舎生まれだからさ。あんまり地理に詳しくなくて」

[main] スカーレット : 「ブルライト地方」

[main] ヤスツナ : 「結構名前聞く所だねぇ、どの辺りから?」
雪国から砂漠にと、特色広い地方であるとは聞いている。
まあ、当たり障りの無い程度の雑談の種だ。

[main] スカーレット : 「んー」
魔導死骸区、とは言い難い。師父と一緒に暮らしていた家でいいか
「森」

[main] ヤスツナ : 「森か……」
森って大量にあんねん。いやまあ、そう濁すって事はあんま深く突っ込まれたくないんだろうね。うん。

[main] ヤスツナ : 「僕の方は……まあ。なんだろ、この服の通り、田舎も田舎……文化もちょっと変わってるくらいの田舎から出てきたんだよね」
「最初の方は訛りもキツくて、直すの大変だったんだよねぇ」

[main] スカーレット : 奇特の目で見られる──というのはよく経験している
「辛かったでしょう」

[main] ヤスツナ : 「まー、ね」
ありがとね、と呟いた後。
「まあでも、得だった事もある。名前が広まるのも早かったし、この経歴のお陰でハクがついたってのもあるね」

[main] スカーレット : 「前向きなのね」

[main] ヤスツナ : 「取柄ですから!」
「何より、それくらいの方が生きやすいからね」

[main] スカーレット : 「……そうね。違いない」

[main] ヤスツナ : 「生まれも育ちもてーんでな分、今を楽しく生きた方が、ね」
少しばかり遠くを見た後、またカレーを口にして。
丁度良い温度になっている。

[main] スカーレット : 「………………」
所在なく、大鍋を掻きまわす。今を楽しく、か。正論だ。彼は正しい。

[main] スカーレット : 私はそうはあれない。それだけのことだ。その正しさを享受するには強さが必要だ。私にはない、強さだ。

[main] ヤスツナ : す、と彼女に視線を向けて。僅かに目を細めた後。

[main] ヤスツナ : 「ね。今度、時間あったらでいいんだけどさ」

[main] スカーレット : 「?」

[main] ヤスツナ : 「料理、教えてくれると嬉しいかも」
「僕一人旅多いからさ。やっぱ、そういう時って食事が一番の楽しみになるから」

[main] スカーレット : 「………………」
正直、彼にいくら危険がないとしても。私の方が強いとしても。それには結構、抵抗がある。だが……

[main] スカーレット : 「簡単なものなら」
さくっと教えて満足してもらうとしよう

[main] ヤスツナ : 「わーい、ありがと!」
笑みを浮かべる。安堵の混じる笑み。

[main] ヤスツナ : ──まあ、我ながらややも強引ではあるなと思うものの。
しかし、あの数瞬に見た表情は、やはりどこか心に引っかかった。

[main] ヤスツナ : 未だ割り切れない、心の奥底にしまい込んだ自分を見ているような、そんな顔。

[main] ヤスツナ : ようはお節介だし、ようはいらん世話を焼いているワケだし。
どちらかといえば自己満足かもしれない。
しかし、それでも……それでも。

[main] ヤスツナ : 正しいとか正しくないとか、それを後回しにした。
“自分が良いと思ったから、やる”。それだけの事。

[main] ヤスツナ : 「……ヤスツナ。改めて、自己紹介です」
「不思議の不思議の……ケルディオン大陸からやってきた冒険者」
「前は人多すぎたからね!」

[main] スカーレット : 「……スカーレット」

[main] スカーレット : 「昼勤終わり直後は──仕方ないわね。いつもあんな感じだから」

[main] スカーレット : 「ここは、お酒を置いてない分まだ、マシ」

[main] ヤスツナ : 「まー、それだけ憩いを求める人も多いからね」
うんうん、と頷いて。
「ああ……お酒はね……あると……ね……」

[main] ヤスツナ : 僕もハメ外すことあるから強くはいえないけどねー!の顔。

[main] スカーレット : 「他のテント前なら置いてる所もあるから。囮にさせて貰ってる」

[main] ヤスツナ : 「おとり」
まあ平和の為なら……仕方ないね……。

[main] スカーレット : 「うん」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : その時。大柄なリルドラケンが大鍋を抱えてやってきた。まあリルドラケンはほぼ例外無く大柄なのだが。

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「お待たせ。そろそろ空になる頃合いのはずだがね」

[main] スカーレット : 「……店長。お店、いいの?」
意外な顔に驚きつつ──笑った

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「おお、君が当番だったか。いやよくはない。よくはないが、ギルドからの頼みだからね」

[main] ヤスツナ : 「こーんばーんは。……おや、お知り合い?」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「俺の店はギルドの経営だ。こんな大掛かりなキャラバンとなると炊事係もそれなりのが必要だからな」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「しばらく店は休みさ。仕方ない」

[main] スカーレット : 「以前、この人のお店で飲んだことがあって」

[main] スカーレット : 「なるほど。大変だね」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「おう。こんばんわ。このキャラバンの飯は俺の担当だ。味わってくれ」

[main] ヤスツナ : 「おおー、なーるほどねぇ」
「いつも美味しく味わって食べさせていただいております」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「ふー………。昼の番と、夜の番。一手に担うというのもなかなか楽じゃないな」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「一服してもいいかい?」

[main] スカーレット : 「どうぞ、灰は地面に落とさないでね」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「そいつはよかった。ちゃんと美味いなら重畳だ」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : と言いつつ。煙管に煙草の葉を詰めて火を点ける。美味そうに痛飲した。

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「ふー………。いやはや。それにしてもこんな大商隊と帯同していると昔を思い出すなぁ」

[main] スカーレット : 「従軍経験でも、あるの?」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「軍隊所属ではなかったよ。俺は傭兵団の出身なんだ」

[main] ヤスツナ : そういやこの人も相当腕が立ちそうな。
いいなぁ。てあわせしたいなぁ。

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 昔と比べると衰えたからなァ。

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : ああ、そういうふうな目で見ているならなおさら隻翼であることに気づくだろう。

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : リルドラケンなのに翼が片方ない。

[main] ヤスツナ : そういえば、とそちらに視線が行く。
リルドラケンの翼は本来双つ。双方あって初めて飛ぶことができるはずのものだが──。

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「ん………。ああ、こいつかい?」

[main] ヤスツナ : 「……あ、申し訳ないね。あまりジロジロ見るものではないのはわかってるけれど」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「いやなに、俺も元冒険者だったのさ」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「数年前に窮地に陥ってね。その時喪った。魔法による治療や再生にもいろいろと制約や時の運があるらしくてね。治らなかったんだ」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「で、冒険者稼業は引退することにしたというわけさ」

[main] スカーレット : 眉が下がる。痛ましい傷の話は、好きではない。さりとて、その道程を勝手に否定していいわけでもなく。

[main] ヤスツナ : 「なーるほどね……」
傷の、しかもその後に関わる話はどうしても他人事に思えず。
……一寸先は我が身かもしれない、そんな話だ。

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 男は酒番の店主だった。客席への視野が広い。いや冒険者だった頃からそうだったのだろう。スカーレットが居心地悪そうにしているのもすぐに察知した。

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「ん……悪いな。面白くない話だったかもしれない」

[main] スカーレット : 「あ、えっと。違うの、その」

[main] スカーレット : 「……………………。えーっと。私、力にはなれないから……」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「ん?………ふは、はははは!」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「お客さん……いや今はキャラバンを共に護衛する仲間だが、あえてそう言おう。お客さん、名前は?」

[main] スカーレット : 「スカーレット……」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「俺はブロネフ。ブロネフ・ローヴェンタールだ」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「うん。そうかスカーレット」

[main] スカーレット : 「……うん」
なんで大笑いしたんだろう。今こそ居心地がちょっと悪い

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「スカーレット。今の俺は冒険者家業をやめざるをえず、酒場の店主などやらざるを得なくなり、こうして今はギルドの要請に応じてキャラバンの飯炊きをしている」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「不幸に見えるかい?」

[main] スカーレット : 「…………見えは、しない、けど」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「うん。そういうことだ」

[main] スカーレット : 「でも……辛くないなんてことは、ないと思う」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「そうかもしれないな。だがそれはどんなことにも付きまとうことだ」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「新しい道に進めば捨てなければならないこともある。けれど新しい道に進んだから得られることもある」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「辛くないなんてことはありえないが、快くないことがないなんてことも大抵はない。いやたまにあるやつもいるが、それは不幸というやつだ。俺には該当しない」

[main] スカーレット : 「うん……ごめんなさい」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「いいんだ。それは君の若さというやつだ」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「俺はね。今こうして君たちに料理を振る舞うことがとても楽しいよ」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「美味いだろ?俺の料理」

[main] スカーレット : 「……うん」
それは私も同じだったから

[main] スカーレット : 「美味しい」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「おう。そいつが何より嬉しいことだよ」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「スカーレット。冒険者というやつは自由なんだ」

[main] スカーレット : 「自由……」
言われた言葉を反芻する。初めて聞いた言葉だとでも言うように

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「生きるも死ぬも自由だ。生きるように力を尽くせば明日があるかも知れない。自棄っぱちになって死ぬように振る舞えば死ぬようにできている。たまにそれでも死ねないやつがいるが、それはごく少数だ」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「そいつはつまり、自分が信じたように生きていいということだ。だから俺は冒険者を辞めたあと、冒険者たちの居場所を作る仕事を選んだ。俺は冒険者どもが好きだからな」

[main] スカーレット : 「自分が信じたように……生きる……?」
これはいよいよ、不明な概念だった

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「うん。今は分からなくてもいい。というか、若い冒険者でそいつを分かっているやつなんてほとんどいやしない」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「だよな?伊達男の旦那」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : と、着飾った男に目配せし、ウィンクした。リルドラケンなのであんまり愛嬌はなかったが。

[main] ヤスツナ : 「……そーねぇ。だーって、僕ですらようやく掴みかけた頃なのだから」
「でも少しずつ、それこそ」

[main] ヤスツナ : 「それを見つける為の旅を、僕達はしているのだろうねぇ」

[main] ヤスツナ : 「と。ヤスツナ、僕はかわいいヤスツナさんです」
ウィンク返し。

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「ありがとう、ヤスツナ。とまれ、そういうこった。俺は早めに辿り着けただけのことだ」

[main] スカーレット : 「──うん」
脳内には、疑問符が浮かびっぱなしだ。彼らの言葉を咀嚼するには、あまりに私にとって不理解が詰まってる

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「要するにだ」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「お前さんが何に迷っているかは知らんが、迷っていること自体は正しいということだ。迷うということは正しい方向へ進みたいと願っているということだからな」

[main] スカーレット : 「………………」
何も、言えなかった

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「悩んで、こいつはおかしいんじゃないか、間違っているんじゃないか、と戸惑って、それを形にする。悪いことじゃない。突き詰めていいんだよ。俺も若い頃はそうだったしな」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「ふー。思ったより一服の間に長く居座っちまったな。夜番の交代の連中向けにまた煮込みを作らにゃならん」

[main] スカーレット : 「……うん、頑張って」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : 「おう。お前さんも交代するときは遠慮なく代われよ。冒険者次第じゃ遠慮すると役目を押し付けたがるようなやつもいるからな!」

[main] スカーレット : 「うん、大丈夫。分かってる」

[main] ブロネフ・ローヴェンタール : わはは、と笑ってリルドラケンは空になった鍋をさりげなく持って去っていく。

[main] スカーレット : 「……ヤスツナ」

[main] ヤスツナ : 「んー?」

[main] スカーレット : 「店仕舞い」

[main] ヤスツナ : 「うん、りょーかい」
「丁度食べ終わったしね」

[main] ヤスツナ : 「……ごちそうさま。美味しかったよ」

[main] スカーレット : 「……お粗末様」
今度は、笑わなかった

[main] ヤスツナ : 一方の男は目を細めて。
そうして手を振って去っていく。今宵も夜勤、これから仕事だ。

[main] スカーレット : 誰もいなくなったから。桶に貯めた水を焚火にぶちまけた

[main] スカーレット : 消火を確認したらふらふらとテントへ入った

[main] スカーレット : ──迷っている?
──おかしいんじゃないか?
──間違っているんじゃないか?

[main] スカーレット : 違う。
違う!
違う違う違う違う違う!!!

[main] スカーレット : 私は迷ってなんかいない。私は今必要なことをしている。私がこれからを正しく生きていくために避けては通れないことを為そうとしている!

[main] スカーレット : ──自由?
──自分が信じたこと?
──見つけるため?

[main] スカーレット : 知らない。そんな生き方は知らない。スカーレットの生はいつだって恐怖に縛られた生だったから

[main] スカーレット : 師父は──師父はきっとわかっていた。けれど、スカーレットがそれに耐えられるだけの強さをまだ得られていないと手を付けられなかった

[main] スカーレット : 「私っ……わたし、は!」
震える身体を抑えつけて立ち上がるには、それ相応の決意が必要だ

[main] “名無し(ラセリア)” : そうとも。お前の行いに間違いなどない。正しいのだから。

[main] “名無し(ラセリア)” : スカーレットが引き籠もったテントの外で足音が聞こえた。

[main] “名無し(ラセリア)” : ややあって、立ち去った。

[main] スカーレット : 音に、びくりと震えて。

[main] スカーレット : 怯える身体を叱咤してから外に出た。

[main] スカーレット : 周囲を見渡す。エルフの目には夜でもよく見通せた。

[main] “名無し(ラセリア)” : エルフは夜目が利く。水場が近いものであろうとそうでなかろうと、それだけは変わることがない。

[main] “名無し(ラセリア)” : 極めて───極めて、静かな足音だった。曲芸師もかくや、という足さばきだった。それをかろうじて感じ取れたのはスカーレットの身体に流れる血の御業だったかもしれない。

[main] “名無し(ラセリア)” : その感触のままに飛び出したスカーレットを待っていたのは───暗闇だけだった。何かの直感に導かれるままに飛び出した相手は忽然と消えていたのだった。

[main] スカーレット : 「………………ご飯、食べに来たのかな」

[main] スカーレット : 「悪いこと、しちゃったな………………」

[main] スカーレット : 私は。

[main] スカーレット : こんなことすら満足にこなせない。

[main] スカーレット : 未だに、恐怖に縛られているせいで。

[main] スカーレット : こんな理不尽を──何故、受け入れなければならないのか。

[main] スカーレット : そうだ。やるんだ。やらなければならない。

[main] スカーレット : 心に憎悪の炎を灯す。

[main] スカーレット : しっかりしろ、スカーレット。お前の苦悩を理解できるのはお前だけで。お前を救ってやれるのもお前だけだ。

[main] スカーレット : その炎を滾らせようとする度に、心のどこかで誰かが泣いてるような気がした。

[main] スカーレット : 気付かない振りを、した。

[main] スカーレット : だって、そうしなければ、私は立てなくなってしまう。

[main] スカーレット : 自由だとか。何が正しいのだとか、迷うのだとか。

[main] スカーレット : そんなもの。

[main] スカーレット : 全部全部。

[main] スカーレット : 私の中の恐怖がなくなった後で無ければ、考える余裕なんてない。慮る暇なんてない。

[main] スカーレット : ──取り返しが付かなかったら?

[main] スカーレット : 「違う!」

[main] スカーレット : 「そんなことはない。そんなことはありえない!」

[main] スカーレット : ありえては、いけない。

[main] スカーレット : 「だから、だから──!」

[main] スカーレット : 「私はあなたを──!」

[main] スカーレット : 心のどこかが悲鳴を上げている。

[main] スカーレット : 私は今日も、それから目を逸らした。