真横から雪が吹く。リベラリストは空き家の前に立ち、その中から現れる者を待つ。 暫くすると空き家の中から人影が現れる。デイジー・ベルだ。 ベルは背中に簀巻きにした華歩を背負っていた。 「Alice、Mercy。こうして君の顔を見れるのは嬉しいものです。どうです、少し話でも…」 ベルは無言でデジタルデュエルディスクを構える。 「そういう気もない、ですか。Alice、君のMercyに対する愚痴を聞くのは、いつも面白かったのですが…」 「…リベラリスト、生憎ですが貴方に付き合う時間はありません」 そういってベルは振り返り、空き家の壁を駆けのぼる。 「そうか、ならば無理矢理にでも!」 リベラリストは姿を変え鎌を振り抜き── 「強制展開!デュエルフィールド!」 ──同時に鎌から半透明の空間が広がる。それは町全体を覆い、山の頂上の大穴で止まった。 「君も分かっているはずだ!このフィールドはどちらかが倒れない限り─」 「─お互いを閉じ込め、出られない。いいでしょう」 「「コンバット・デュエル!」」 ──────────────────────────────────────────── "コンバット・デュエル" 決闘者の軍隊同士が争う際に使われた、変則デュエルの一つ。 公式の記録上では900年以上前の争奪戦争を最後に行われてはいない。 「コンバット・デュエルでは先にフィールドを展開した者が先行となる!私のターン!」 「私は手札から"BF-幻耀のスズリ"を召喚!その効果によりデッキから"BF-無頼のヴァータ"を手札に加え、自身の効果により特殊召喚!」 このデュエルはデイクヤードで最も野蛮で過激と言われた。それは何故か。 「そして無頼のヴァータの効果を──」 「"鎖よ、飛べ"!」 効果を発動しようとするリベラリストに向かって、鎖が飛ぶ。その鎖は彼の手足と口を封じた。 「…!」 「コンバット・デュエルです。黙って見ている訳がない」 このデュエルは、物理攻撃であり魔術であれ何であれ、妨害は何でもあり。 「口を封じれば効果の宣言は出来ない。そしてお互いのターンは20秒、それを過ぎれば強制的にターンは終了される。そこで大人しくしていてください」 その言葉にリベラリストはニヤリと笑ったように見えた。 リベラリストは僅かに動く指先で鎌のボタンを押し、そして次の瞬間には鎖は全て消え去る。 「スキルコード・リベラリズム。私は縛られるのが苦手でね。ヴァータの効果を発動!来い、"ブラックフェザー・ドラゴン"!」 黒鳥が飛び出し、リベラリストを背に乗せる。 「カードを二枚セット!20秒経過、ターンエンドだ!」 カウントダウンはエンドの宣言の時点で始まっている。 「私のターン、ドロー!手札から"M∀LICE OF CAROL"を発動!M∀LICEトークンを三体特殊召喚する!」 「そしてM∀LICEトークン三体をリンクマーカーにセット!召喚条件はM∀LICEモンスター含むコンスター二体以上、サーキットコンバイン!」 ベルの装備が輝きを纏う。 「君の装備は…!」 「リンク召喚!"M∀LICEWHITE BINDER"!」 ベルは、自らをモンスターとして場に顕現させた! 「効果によりデッキからM∀LICE罠カードをセットし、バトル!」 ベル、WHITE BINDERは空に舞うと、他のモンスターを無視し、上空から一直線にリベラリストを狙う! コンバット・デュエルと普通のデュエルで最も違う点は戦闘だ。 場にモンスターがいたとしても、直接攻撃できる。 「迎え撃て!ブラックフェザー・ドラゴン!」 その攻撃にプレイヤーがモンスターの攻撃にモンスターを対応させられたならば、それはそのモンスターに対する攻撃となる。 「罠カード、"M∀LICE<C>DRH-01"」 「…消えた!?」 「この罠カードの効果により、このターンのBP中、貴方は効果を発動できない」 (声はする…何所に行った?) 「そしてこのターンの間、M∀LICEモンスターの攻撃力は600アップする」 (この効果は、間違いなく再び攻撃を狙ってくる──) 「──後ろ!」 突如として背後に現れたベルが、再びリベラリストを狙う。 (ブラックフェザーは間に合わない──ならば) 「受け止めろ、スズリ!グゥッ!」LP4000→LP2500 「おや、間に合いましたか」 「そのトリック…どうやったんですか?」 「M∀LICE罠カードはM∀LICEモンスターを除外する事で、セットされたターンにも発動できます。そしてWHITE BINDER…私が除外された時、私自身の効果によりLPを900払いフィールドに特殊召喚し、カードを一枚ドロー出来ます──長々と説明してる間に20秒が経ってしまいました。ターンエンドです」 「そういう事ですか。私のターン、ドロー!バトル!」 ブラックフェザー・ドラゴンがリベラリストを乗せ、逃げるベルを追う。 「君の装備はコンバット・デュエルに特化している!私はまんまと嵌められた訳です、ヘドニストも考えましたね!しかし!罠カード"ブラック・ストライク"!」 ブラックフェザー・ドラゴンは加速し、一瞬でベルの目の前に旋回した。 「デッキ・手札・墓地からBFモンスターをそれぞれ一体ずつまで除外し、その除外した数だけブラックフェザードラゴンは追加攻撃と黒羽カウンターを得る!」 「これによりブラックフェザードラゴンの攻撃力は下がるが、更にセットされていた速攻魔法"ブラック・ノーブル・バースト"!フィールドの黒羽カウンターを全て取り除き、その数だけフィールドのモンスターの攻撃力を700上げ、相手フィールドのカードを破壊する!」 ブラックフェザー・ドラゴンから射出された黒羽が、ベルの装備を弾き飛ばす。 「くぅっ…!」 もはや、ベルを守る物はない。 「そう言えば君は昔からデュエルが下手くそでしたね」 「だから、嫌だったんです。貴方の様な強者の相手をするのが」 「ならばさっさと終いにしよう。ノーブルストリーム!」 ブラックフェザー・ドラゴンの熱線がベルを貫く。 「けれど、少しは楽しみだったんですよ──」LP3100→LP0 ──────────────────────────────────────────── 「うぅ~ん…はっ」 華歩は目覚めると、猛吹雪の中を真っ逆さまに自由落下していた。 「えっ!?何!?動けない!?」 全身を簀巻きにされ、何も出来ないまま落ちてゆく。 「誰か助けてぇぇぇ!!!!」 「ブラックフェザー!」 ブラックフェザー・ドラゴンが華歩と同じ速度で落下し、背後にいたリベラリストが彼女を掴む。 「たすかっ…ぁぅ…」 目覚めて少し経った華歩は、リベラリストの異形の顔を見てすぐに気絶した。 「はぁ…人の顔を見て気を失わないでください」 ため息をつきながらも、リベラリストは華歩を背中に背負う。 「AliceとMercyはあの状態からならば…」 周囲を見渡す。少しすると下から衝撃音がした。 「地面に落下した所ですね」 リベラリストがそう言うと、ブラックフェザー・ドラゴンは落下地点へと飛んで行った。