セレナ・クレール・アズライト [大浴場]
「ふぅ……」誰もいない大浴場に足を踏み入れて一息つく。実質貸し切りで気が楽というものだ。
今日は冒険者家業はおやすみ。工房にお願いして炉を借りて、趣味の鍛冶をしてきた。その帰りに汗を流しに来たのだ。
剣を鍛えるに足る火力は高温だ。ダークドワーフの身であるため耐えられはするが、それでも汗はかく。さっぱりしたいと思うのは当然であろう。
この汚れた身体でいきなりお湯に浸かるわけにはいくまい。頭からお湯を被り、そっと煤と汗を洗い流していく。
「……髪は、まぁ、良いか、な」
以前、丁寧に髪油を浸透させて手入れして、指通りを良く……なんて、話をしているのを横で聞いたことがある。そういった身だしなみを整えることに興味はなくはない。
でも、“見目を良くする”という行為自体に抵抗が……ほんの少しの恐れがあるのも、確かだった。
「──なさけない、ね」
独りごちて、ざぱっとお湯を被る。石鹸で身体を洗い、清めて。湯船へと向かう。
「はふぅ……」