エピローグ 「恥ずかしながら帰ってきました…」 仲間を失い悲しみの中にいた俺たちの前に、当の本人であるライトが気まずそうに現れる。 涙はうれし涙に変わり、俺たちはライトに駆け寄り抱き合う。 彼も人間に戻ることができたようだが、外見は少し変わっている。 特徴的であった竜化した右腕や翼はなく完全な人間体になっている上、髪の毛は色素が抜けてまるであの白い巨竜のような輝きのある白髪になっている。 一体何があったのかと俺が質問をすると、ライトは「僕だと上手く説明できなさそうだからちょっと代わりますね」と答えた。 ライトが一旦目をつぶり再び開けると瞳は黄金色に変わる。 漂うオーラは圧倒的に強く明らかに別人であることがわかる。 「お前は何者なんだ…?」 俺の問いかけにもう一人のライトが答える。 「我は真祖の竜が一体。名は我が友がつけてくれたがーすけとでもしておこう…」 その声は青年の様にも子供の様にも女の様にも聞こえる不思議な声色であった。 「彼の胸に埋め込まれていた人造竜宝石のせいで一部ではあるが我々は魂だけでなく肉体も融合していた。あの儀式の際に邪竜の復活を阻止するために、我が友は完全なる融合をして竜となり身を捧げることを選んだ」 「そして戦いの最中、より強い力を求めた彼は魂も完全に融合することを望んだ。それによって人造竜宝石の戒めを解くことができ、魂の完全なる融合によって彼が本来持っていた内なる光が私の魂の穢れを浄化してくれたので、この本来の姿を取り戻すことができた。我が友には感謝の言葉しかない」 「今の肉体は竜の姿が本体であるが、変身能力によって人間の姿をとることもできる。なのでこの姿はあくまで仮初めの姿ということを認識してもらいたい」 「だが我が友であり半身は人として生き続けること望んでいる。そしてその願いを叶えるために、我は彼の人格を保護し続けている…」 大分周りくどい説明だ…。つまりこういうことだろ。 「要はライトがアンタの中にいて、時折入れ替わることもできるってことだろ。別にそんなこと気にはしないさ」 「むしろアンタの浄化の力で俺もナチアタも人間の姿を取り戻すことができた。最も死んだ人間を失った肉体ごと蘇らせるなんて、聖者や聖女でも不可能な奇跡には驚かされたよ。感謝するのはこっちの方だ、ありがとう…」 事情の説明を終えたがーすけが再び目を閉じると、漂う圧の強いオーラは消え元のライトへと入れ替わった。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 「で、とりあえずこれからどうするかだが…」 人間の姿を取り戻し邪竜教団も壊滅させた。旅の終わりが近づいているのをひしひしと感じている。 「なら俺たちはここでお別れだ」 ゴウがそう切り出した。 「邪竜教団も叩き潰せたし、一番大事な人とも再会できた。お前たちとパーティーを組めたことを本当感謝しているよ」 これからどうするんだ?という俺の質問にゴウは答える。 「セレナと一緒に旅をするさ。俺たちの旅の様子を見ていた竜神様、いやリューマもまた旅に出たくなったと言い出してな。オジ=ダハーカはあの程度では完全に消滅させることはできなかったが、それでも後100年以上は肉体を構成することは不可能だろうから暇になっちまったんだと」 竜神様の巨体がみるみる内に小さくなり猫ほどのサイズへと変わる。 「じゃあな。またどこかで会おうぜ!」 ゴウはそう告げるとセレナと一緒に旅立って行った。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ ゴウたちを見送った後、俺たちも移動を始める。 とりあえずはこれほどの大事だけに付近にあるギルドか公的機関に報告をせねばなるまい。 ここから一番近い街というとモトマトーか…。気乗りはしないが無視するわけにもいかない。 峡谷を出て街道へ向かう道中で馬に乗った四人の男女と遭遇する。 「我々はレンハート王国より派遣されたこの異変への調査隊である。そこから出てきたお前たちには何を見てきたか教えてもらおう!」 先陣に立つ甲冑を着た男が叫ぶ。観念せざるを得ないかという自嘲的な笑みが俺の顔に浮かぶ。 「我が名はコージン=デ…いやミ=レンハート。元はレンハート王家に連なる者。此度は邪竜教団なる組織が世界を破滅させようと邪竜オジ=ダハーカの復活を試みた。あの精気を吸い取る暗雲も彼奴がもたらしたものである。だがオジ=ダハーカおよび邪竜教団は我々が壊滅させた!ご安心あれ!」 俺の名乗りにライトもナチアタも驚きの顔を隠せない。それはそうだろ今まで自分の素性は一切話してないからな。 特にライトにとっては自分の祖国の王子だというのは寝耳に水であろう。 甲冑の男が俺に近づいてくる。全力でダッシュして俺を抱擁する。 「まさか…こんな場所で会えるとはな…本当に心配したぞ…バカ野郎…」 「申し訳ありません父上…」 幸い周りにいた調査隊のメンバーは元PTメンバーであったため、俺についての事情は粗方知っていたようなので細かい説明をする手間は省けた。 俺たちはそのまま彼らと一緒にモトマトーへ同行することになった。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 王城にて今回の件に対すると取り調べがひとしきり終わると、俺たち三人は王の謁見の間へと連れていかれる。 さすがに刑罰を下されるということはないのであろうが、俺にとって腐腕の魔人と化したかつての過ちの罪は取り消すことはできない。 ならばいっそこの場で裁いてもらおうと俺は自分の罪を告白する。 場内は騒然となるが我が父であるレンハート王が右手を掲げ静寂にさせる。 「あれはお前であったか。いや何となくそんな予感はしていた…。カンラーク事件の後、我々は必死にお前の消息を追ったが何も得ることはできなかった。その中で現れた腐腕の魔人。勇者の勘というやつであろうか、これはお前に関係する者かと思い対峙し、そして退散することができた。お前を倒した時の後ろめたい感覚は今でも思い出すよ…。だがお前の話を聞くとその忌器に踊らされただけで、お前の意思はないのであろう。建物は破壊されたが幸い人死には出ることはなかった。つまりお前に罪はないから私はお前を許す。だから帰って来いコージン…」 俺は観念し、黙ってうなづいた。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 謁見が終わると俺の家族たちが入ってくる、皆一様に驚きを隠せない様子だ。 まずは母である王妃シュガーに帰還の挨拶をする。 彼女は軽い微笑を見せ俺の帰還を喜ぶと共に此度の働きに感謝すると淡々と述べた。 元々こういう人なのは理解してはいたが、相変わらず何を考えているのかよくわからない人だ。正直苦手である…。 続いて修行の旅に出ているラーバルとサイズの関係で入れないエアーラを除いた弟妹たちが俺を取り囲む。 妹たちは涙を流して再会を喜んでいる。長い年月が経っているので皆立派に成長しているが、面影は残っているので誰が誰なのかは辛うじて判別できた。 妹たちの輪から少し離れた場所に幼い男女が二人いる。俺が祖国にいる頃には赤子や出生前であったクルーズとソリューである。 見ず知らずのおっさんがいきなりやって来て自分の兄だと言われても正直ピンとこないであろう。 俺は彼らの元にやって来て身を屈め挨拶をする。 「俺が出て行ったのはお前が生まれる前だから初めましてだなソリュー。俺はコージン。皆の一番上の兄貴だ、よろしくな…」 続いてクルーズに声をかける。 「本当は初めましてじゃないんだ…。以前森で出会ったミレーンのことを覚えているか? あれは実は俺だったんだよ。訳あって正体は話せなかったがな。一緒にいたライトやナチアタもそこにいる、最も二人も俺と同様に姿が大分変っちまったがな…」 ライトとナチアタがクルーズに小さく手を振る。 「ミレーン兄ちゃんがコージン兄さま…? じゃあまた一緒に冒険できるのですか」 「そうだな…父上の了解が出たら一緒に行こう」 兄と一緒にしたいことが冒険とはな…。本当にお前は父上によく似ている。 最後にメロの元へ行く。 「実はお前とは以前に一度会っているんだ」 懐から聖騎士の覆面を取り出す。 「レンハートマンホーリーナイト。それが俺のもう一つの顔だ。お前を守るためとはいえ、正体を隠すために嘘をついたことを許してくれ…」 「おかえりなさいお兄様…。もう離しませんわ…」 感極まったメロが俺を抱きしめる。 今まで散々放浪して妹にさみしい思いをさせてきたんだ、それぐらい言われても仕方ないであろう。 若干言い方がじっとりしているが気のせいだろ。うんそうだな…。 こうして俺はレンハート王家へと帰還した…。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ ―――帰還の日から半年が経過した。その間とにかく色々なことがあった。 まず邪竜を倒し世界の危機を救ったとして、俺に勇者の称号を与えるという審議がされた。 俺自身は勇者の称号は求めていないし、その資格もない。 むしろあの戦いで一番の戦力になったのはライトのがーすけやセレナの竜神様であろう。 そしてあの場にいた5人が誰一人欠けていたら邪竜を討つことはできなかったので、称号を与えるのであれば5人全員に贈られなければ意味がないと答えた。 大臣や官僚の中には「勇者の一族でもない者に称号を贈るなど…」と見当違いな反論を述べる者もいたので、この話はお流れとなった。 正当な功績を正当に評価できなくなっているこの国の勇者信仰は、そろそろ変えていかねばならないと感じた。 いつか出会ったショーン=ウィン先生にでも一席講じてもらおうか…。 王子の公務として突然ライブをやらされることになった。 急ピッチで仕上げたので我ながら酷い出来だった…。 だがライブ自体はそこそこ盛り上がっていたのは幸いであったが、観客として招待したライトやナチアタからは信じられないものを見るような目つきでドン引きされたのには堪えた。 「知り合いのああいう姿ってどうリアクションしたらいいかちょっと…」とライトからはフォローになってないフォローをされたが、まぁそうだよね…。 アイドル業はもうやらないと心に誓った。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ ―――仲間たちもそれぞれの道を歩み始めている…。 まずはナチアタ。 モトマトーに来た当初は行方不明の王子がデカパイの嫁を連れて来たと盛大に勘違いされ、風評被害の火消しをするのに大分苦労させられた。 そのお詫びではないが何か望みを叶えてあげようという提案に、彼女はこの国に定住してできれば子供たちの世話をする仕事をしたいと申し出た。 その希望通りナチアタには孤児院を兼ねた王立の児童福祉施設の職員の仕事が与えられた。 聖騎士になる以前からの希望の仕事に就いたせいか、性格は明るくなり口数も本当にあのナチアタか?と思うぐらい増えていた。 ただ悪ガキやいたずらが過ぎた子には時折サカエトル弁で叱ることもあり、普段とのギャップも相まって効果は絶大だとか。 「聖騎士の仲間たちはみんなバラバラになって旅をしているから、私はこの国で誰かが立ち寄った時に顔を出してくれるような止まり木になりたいの。みんな無茶ばかりしてそうだから、アイツはちゃんと生きているぞって教えてあげる人も必要でしょ」 その中でも一番来てもらいたいのは幼い頃からの親友であったイザベルであろう。彼女は一体今何をしているのだろうか…。 ライトは数年ぶりに家族の元に帰って行った。 両親が知っている子供の頃の姿からは成長してすっかり変わってしまったが、それでも竜化の進行していた以前の姿に比べれば大分マシである。 再会の場にいた皆が涙する感動のシーンであったが、中でも一番号泣していたのは付き添いで来ていたハナコであった。 号泣というよりも嗚咽に近いぐらいの勢いだったので、ライトも「見ていたら少し引いちゃって、逆に何か冷静になれました…」と言うほどであったとか。 邪竜教団に拉致されたため小学校も出ていないという話を聞いた父上は、ライトを勇者学園の特待生として入学させることにした。 学科は問答無用で勇者コース。 しばらく経った時に偶然出会ったので学校生活はどうだ?聞いたら「えらいとこに来てしまいました…」と一言ぼそっと告げ、それ以上は何も言わなかった。 一体何があったのか…。 ゴウとセレナはおそらく今も旅を続けているのであろう。 意外であったが父上はゴウとは面識があったという。 なのですんなりと褒賞を賜ると称しレンハートに来るようギルドを介して各国に通達をしたのだが、未だになしのつぶてだ。 しかし10年近くも離れていた二人がようやく再開できたのだから、それを追跡するのも野暮というものである。 彼が言ったようにまたどこかで出会える日も来るだろう…。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 深夜2時、モトマトー市街の中心にある王立公園。 中心街のランドマーク的な場所ではあるが、さすがにこの時間帯には人っこ一人いない。 その中を一人の男が歩いて行く。かつてミレーンと呼ばれていた男、この国の第一王子コージンである。 公園内でひと際目立つ勇者ユーリン像の近くまで来ると彼は認識阻害のスキルを解いた。 そこには待ち合わせの相手である人物、艶やかな白く長い髪が特徴的な少年ライト=シャインがすでに来ていたからである。 しばらく見ない間に身長も顔つきも大人びてきており、少年から青年へと変わりつつあるのを感じさせた。 「まさか本当に来てくれるとはな…。家とか学校とかは大丈夫なのか?」 コージンが話を切り出すとライトは世間話でもするかのように軽く答える。 「家の方は大丈夫ですよ。また旅に出ますって、ちゃんと書置き残しましたし。それに両親も若い内は親のことは気にしないでどんどんチャレンジしろ!って言ってましたから」 「学校の方はねぇ…。先生も良くしてくれるしクラスメイトも楽しい連中が多いけど、どうも学校って空間に馴染めなくて…」 多分お勉強に付いていけないんだろうなぁ…と即座に理解したけど、俺はあえて言わないでおいてあげた。 ライトは話を続ける。 「王様の口利きで入った学校だし辞めます!というのも失礼だろうから、飛び級で卒業させてもらうという方向でお願いしたんです…」 何それ?!無謀すぎない?! よくOK出たな?出てないかもしれんけど! 「卒論なんて書いたことないので、とりあえず僕たちの旅の出来事を全部書き起こしてまとめたのを学園長のとこに持って行ったんです。で、読んでもらって卒業させて下さいってお願いしました」 無謀を通り越してある意味勇者だよ。でもあの魔学王が許すわけないだろ…。 「そこから面接みたいな感じになっていきなりこう言われたんです『素人質問で恐縮だけど、この論文はほぼ君の日記帳みたいなものですよね。これで一体何を論じようというのか教えてもらえますか』って」 そりゃそうだろうね。むしろよくキレなかったな魔学王。 「で、僕は答えたんです。『それは世界の救い方です。経緯成果はその中にちゃんと書いていますし、実績は王様の折り紙付きです。僕はいずれ勇者になりますから、この学園で足踏みしているわけにはいかないんです。お願いします』と」 「そうしたら学園長がいきなり笑い出して『確かに。世界を救った英雄に凡夫の我々が何を教えるのか?ではあるな…。この学び舎は君には狭かったようだ。よろしい卒業を認めよう』と言ってくれたんです」 多分それ卒業という名の退学だよ…と思ったけど、俺はあえて言わないでおいてあげた。 余談ではあるが後年学園長ダマテロに話を聞いたところ、卒業はちゃんと認められており勇者コース初の飛び級卒業生ということになっている。 あの日記帳のような論文も学園の特級資料として厳重に保管されているらしい。 学園長曰く「なにせ世界を救った『勇者』の書いた論文ですから…」と。 ちなみにこの経緯は勇者学園では半ば伝説のような武勇伝となっており、年に一人二人は真似をする生徒が現れるという。 もちろんそんなことをしてきた奴は問答無用で留年させられるらしい。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 「僕のことよりもそっちはどうなんですか? せっかくの王子様生活なのに…」 ライトの疑問に俺は答える。 「あのまま居続けたらなし崩し的に王様にさせられそうでな…。一度国を捨てた俺がやはり王になるべきではない」 「後、妹が、メロが何か怖い…。こう湿度が高いというか距離感が変に近いというか…。何か妙なこと計画しているような話も聞くし…」 「ひょっとして命狙われているんですか?! 跡目争いとか?!」 「むしろそっちだった方が全然ありがたいよ…。継承権放棄しますで済むだけの話だから…。もうこの話はこれ以上言いたくないから話を元に戻すぞ」 「最後の理由は俺の中にある忌器だよ。がーすけによって闇は払われたが忌器自体は健在なので、いつまた魔族のような姿や腐腕の魔人のような姿になるか分からない。だから今度こそ確実に破壊しなければならないんだ」 人間に戻ったのはあくまでも外見だけで、魔族並みに強化されたフィジカルや魔力は健在である。 そして頭の中の聖女たちの声も未だに聞こえる。 闇が払われたせいでクリアに聞こえるようになったが、内容がとても下世話なものだと分かり知らなきゃ良かったと思うだけであった…。 「じゃあ、お互いに後顧の憂いはないってやつだな…」 俺が話を仕切りなおすとライトも答える。 「じゃあ、行きますか!ミレーンさん!」 「やっぱりお前に呼ばれる名前はそれじゃないとしっくりこないな」 「王子様とかコージン殿下とか呼ぶのって、何か違うなー感ずっとありありだったんですよね。体がこそばゆくなるっていうか…」 「早くしないと夜が明けるから急がないとな。ある意味お尋ね者になるから夜が明ける前に国境線を抜けないと…」 俺のオーダーに応えるようにライトが背中から純白の竜の羽を広げる。 今のライトの肉体はあくまでもがーすけが人間の姿に変身したものなので、竜化せずとも羽や刃を出したり強靭な膂力を引き出すこともできるらしい。 「それじゃ一気に飛んで行きますよ。しっかり掴まってください!」 俺がライトにしがみつくと一気に上空に駆け上がり飛んで行く…。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 王立公園を見下ろす望楼の屋上に一人の女が立っていた。 一糸まとわずその姿は均整が取れながらもどこかなまめかしく、頭部に生えている猫のような耳が印象的であった。 飛んで行くコージンいやミレーンとライトの様子を見て彼女はこうつぶやく。 「良き旅を…」 そう言うと彼女はモトマトーの夜の闇の中に消えて行った。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 「寒い!痛い!もうちょっとスピード落としてくれ!!!」 風による急激な温度低下と風圧に耐え兼ねミレーンは思わずストップをかける。 「あんまりチンタラしてると朝までに国境線抜けれませんよ。とりあえず方角はどっちにしますか? 今は東に向かって進んでいますけど」 ライトの質問にミレーンが答える。 「東か…東には極東の国があると妹のスパーデが言っていた。生活も文化もこちらとは全然違っていて面白いらしい。だがその前に北東に向かって飛んでくれ」 「そこには何があるんですか?」 「マスグラだ! そこにはまだお前に紹介していない弟がいるから会わせてやりたいんだ!」 新たな旅立ちを切った二人を見て、ミレーンの中の聖女たちが祝福をする。 「コーライいいですわね…」 「やっぱりここに帰ってきますわ…」 「キテル…」 自分の脳内で始まった下世話な会話に、ミレーンは思わず口を出す。 「うるせぇ!」 ミレーンが突然叫び出したので、ライトは心配して問いかける。 「どうかしましたか?!ミレーンさん!」 「大丈夫だ!さっさと飛ばしてくれ!」 「止まれだの急げだのせわしない人だなぁ…。じゃあ行きますよぉ!!!」 終