「失礼します、先日助けていただいたナウマンゾウです」
トレーナー室に入っても返事がないものだから下げた頭を起こして見ると、トレーナーはこちらに見向きもせずソファに座ってお辞儀をしていた。
いやお辞儀をするように身体を前に倒し、両腕を伸ばしてスマホを垂直に構えていた。頭頂部にカメラを向けられたスマホがセルフタイマーでシャッターを切る。
面白そうな予感がしたからトレーナーからスマホを奪い取ると、そのカメラロールには無数のつむじの自撮りが残されていやがった。何してんだコイツ。こんなの万が一職質されてスマホの中身でも見られたら……。
『キミ、この無数の写真はなんだね！』
『フヒヒ…ボ、ボク…つむじが好きなんだナ……』
『本部、応援願います、緊急逮捕で死刑判決。了解、射殺します』
やべえなこれ、ぜってぇコイツを有罪なんかにさせねえ、アタシが弁護してやるからな。弁護士バッジどこやったっけ。ダメだ見つからねえ、あとでアタシのエロ自撮りでも混ぜて中和しとくか。



「大丈夫、アタシは例えトレピッピが変態性癖でも見捨てないからよ……」
哀れみの目で見つめていると手の中からスマホをひったくられる。トレーナーの隣に座るとアイツはアタシとケツが触れないよう半歩分離れて座り直した。
「何勘違いしてるんだよ、自分のつむじを撮ってただけだよ。なんか、日に日に大きくなってる気がしたから記録として」
え？何だそれオマエ、もしかして……。
「ハゲ……」
「ハゲじゃないよ！ちょっとつむじが大きいかもって思っただけで全体的にフサフサだよ！」
いやいや、オマエのその慌てて否定する感じがもうアウトじゃねえか。とは言え別に毛の量も薄い感じじゃねえし、けどてっぺんからハゲ始めるってのもあるしなぁ。
「気にすんなよ、確かに若ハゲってだけで恋愛対象から外れるらしいし、もうモテねえかもしれないけど気にすんなよ！手頃なとこで探しとけよ！」
「気にしてないし若ハゲじゃないよ！それに今は君のことに集中したいから別にモテたいとかも考えてないしどうでもいいよ」



ふーん、アタシのこと好きすぎだろ。まあそう言われちゃゴルシちゃんも悪い気はしねえし、少し可愛そうだから慰めてやってもいいんだが。
「ワカメとか食えば？」
「海藻類はハゲには効き目がないんだよ。ちなみに頭皮の毛穴の詰まりとか血行とか関係なくハゲる時はハゲるんだよ」
「めちゃくちゃ気にして調べてんじゃねえか」
あーあ、トレピッピはすっげえいいヤツで、ノリが合って、顔もアタシの好みで、なのにこの歳からハゲを気にしちまってるんだよなぁ。
でもつむじが大きくなったのってやっぱり、アタシがふざけて頭に噛みついたり、頭に顎を乗せて後ろから抱きついたりしたせいだったりするかもしれねぇ。
ケツを半歩分近づかせて座り直して、トレーナーの肩に肩を触れてくっついてやると、これ以上離れようがないのかアイツはそっぽ向いてそのままだった。




ゴールドシップが慰めてくれようとしているのはわかるけど、僕は別にハゲてないからそんなもの必要ない。こうしていじけてる子供らしい自分が嫌になってくるだけだ。
彼女の言うように、気にしないのが一番なのかもしれない。そもそも、僕には彼女をトップウマ娘に育てたいという夢があるのだから、こんなことに悩んでいる暇も本来はないはずなんだ。
「まあよかったじゃねえか、アタシがハゲでもイケるオンナで」
背後から腕を回して、僕を抱き寄せて彼女はそう言った。まったく、こんな年下の子に気を遣わせるなんて、僕はどうかしていた。
「ありがとう」
そう言うと、彼女は珍しく顔を少しだけ赤くして、更に力強く僕を抱きしめた。
「よし、気分転換に飯でも食いに行こうぜ、いっちゃん強え焼き魚定食を見つけたやつが優勝だ！」
「鰆の西京焼きでしょ」
「オマエやっぱ、いいよな」
いつものように振る舞おうと意図的にテンションを戻すと、ゴールドシップがにかっと笑って僕を抱き上げ、廊下に出る。
「麗しのサブリナ号発進～！」
廊下にいる他の生徒たちに見せつけてからかうように、ゴールドシップが意気揚々と僕を抱きしめながら走った。