やってしまった。気まぐれでスマホに入れたアプリ、それは自分や知人を模したアバターを架空の街に住ませて、生活を観察するゲームだった。
最初に自分のアバターを登録してみたものの、自分の姿をした自分とは似つかないそれが街の住人たちと交流しているのを眺めるだけで、すぐに飽きて起動しなくなった。
そしてある日、頭まで布団に包まって自分を抱きしめるように丸まった夜。あたしは寂しさから魔が差して、アプリを再び起動、トレーナーさんを模したアバターを作って街に迎え入れたのだ。
友人や知人のアバターを登録するのも正しい遊び方だから。そう自分に言い聞かせて、ニヤける口元を布団で隠し、トレーナーさんのアバターをつまんであたしのアバターの隣に置く。
思惑通り、二人は何事かを話し合い、友好度が上がったエフェクトが発生する。いいな、あたし、楽しそう。
会話が終わって勝手にどこかに歩いていくあたしのアバターをつまみ、再びトレーナーさんの横に配置。会話の発生は少し間を置かないとダメなのか、二人は近くにいるだけで別々のことをしていた。



この、誰にも言えない密かな楽しみは、トレーニング後、ナイトルーティーンを終えると布団を頭から被って毎晩続いた。本当は、本物のトレーナーさんともっともっと話したかった。
何が好きなんですか？一人の時は何をしているんですか？あたしと同い年の頃はどんな子供でしたか？そんな雑談でも気軽に出来たらいいのに。あたしは子供っぽいと思われたくなくて、自分から話しかけられないでいる。
その物足りなさの代償行為に、あたしはゲームの中で自分のアバターとトレーナーさんを絡ませ続けた。と言ってもアバター同士が何かをごにょごにょ喋るモーションを取って、周りに花が咲いたりハートが出たりするくらいだけど。
それでもあたしは、あたしを模したそれがトレーナーさんと幸せそうにしているのを見るのが好きだった。けれども現実と同じように、そう上手くは続かなかった。



しばらくすると、トレーナーさんは街の住人たちと話し始める。どんなにあたしが自分の近くに連れ戻してもだ。同じ相手とは何度も何度も会話をしないのだろうか。
やめて、部屋から出ていかないで。あたしを置いていかないで。そう願ってもトレーナーさんは勝手に歩いていって、NPCとお喋りを始める。
ついにあたしは、街からNPCを全員追い出した。自分でも子供みたいな癇癪を起こしていると思う。それでも、ゲームの中でくらいトレーナーさんといさせてほしかった。
けれどもシステム上、定期的にランダムで住人の入れ替わりが起きるようで、街にはNPCが引っ越して来る。意を決したあたしは、プライベートな島を作成、そこにあたしとトレーナーさんを引っ越しさせた。
誰もいない二人だけの島。お家は一つ、寝る時も一緒。必然的にトレーナーさんとあたしは何度も会話をして、一緒にご飯を食べた。
ここしばらく頭を悩ませていた問題が解決して重荷が取れたあたしは、ようやく安心できたのだった。そしてあたしたち以外に誰もやってこないよう、島の船着き場を解体して眠りについた。



ある日、トレーナーさんが居なくなっていた。引っ越しをするから元気でという置き手紙を残して。どうやら登録したアバターもオンラインに繋げているとランダムで引っ越しを行う仕様のようだった。
こういった出会いと別れ、現実の疑似体験を楽しんでほしいというゲームらしい。そんなのクソ食らえだ。どんなにアプリを再起動しても、居なくなったトレーナーさんを元に戻す方法を探しても、無駄だった。
残されたのは、船着き場がなく誰も来られない孤島に、あたし一人だけ。これが現実の疑似体験だと言うのならどんな皮肉だ。あたしはスマホをベッドに投げつけると、枕に顔を押し当てて涙を零した。



今日のシオンは暗い表情で、目元も泣き腫らしている。絶対に何かあったのだろうが、シオンはそんなことをおくびにも出さない。
けれども、なんとか彼女の心を晴らしてあげたい、支えてあげたいという気持ちはあった。トレーニング後、俯きがちな彼女に声をかけると、ビクッと怯えたような反応を見せる。
「あのさ、この後暇？ご飯でも食べに行かない？」
「えっ……いいっすけど、どうして…」
シオンは驚きと期待の表情で上目遣いにこちらを見ながら指先を遊ばせている。好感触だと確信し、更に畳み掛ける。
「なんだか今日は寂しくって、シオンともっとお喋りしたくって、ダメかな？」
そう言うと、シオンは涙を堪え顔をくしゃくしゃにする。しまった、ミスったか？と冷や汗をかいたが、その後彼女が駆け寄ってきて僕に抱きつき胸に顔を押し当てて涙を拭うので、ほっと一息ついた。
「いっぱいお話しして下さい。もう、お別れは嫌っすから……」
よくわからないが、怖い夢でも見たのだろうか。僕は彼女を抱き返しぽんぽんと背中を叩くと、別れたりなんかしないってと声をかけてやった。こちらを抱きしめるシオンの力が更にぐっと強くなった。