時にウマ娘にはアイドル的側面も併せ持つ。走ることが本分ではあるが、ファンの声援なしに活動を続けることは出来ない。そんな自分を支えてくれるファンたちに感謝を返すための活動というものも、トップウマ娘には必要である。
今回担当のシュヴァルに持ちかけられた話もそんなファンサービスの一環であると僕は受け取っている。大手企業からの直々のお誘いが来た時は、シュヴァルと一緒に慌てふためいたものだが。
先方から持ちかけられたのはシュヴァルの声に着目した音声作品の制作である。贔屓目に見てもシュヴァルの声は美しく、確かに魅力ではあると思うが、如何せん声の何を売るというのか僕にはさっぱりわからない。
結局詳しい話は直接聞かないとわからないということで、僕とシュヴァル、そしてお相手の担当さんとの説明会が行われることとなったのだ。
テーブルを挟んでソファに腰掛け担当のプロデューサーから説明を受ける僕達。プロデューサーはシュヴァルの優勝インタビューを聞いて熱心に企画を進めてくれたという熱意ある方だった。


企画としては、シュヴァルが本人として出演し視聴しているファンの"あなた"を朝起こすというシチュエーションボイスの収録、そしてそれの自社プラットフォームでの専売というものである。
僕は詳しくないが、このようなシチュエーションを聞かせて楽しませる音声の販売というものは昨今じわじわと人気を博しており、声優やアニメ、ゲームのボイス販売は珍しくないという。
しかしアイドル的人気を誇る現役ウマ娘のボイス販売というものは昨今例がなく、今回はそこも目玉に大々的に販売したいとのことらしい。
プロデューサーがテーブルに広げてくれた企画書《シュヴァルグランASMR～あなたを優しく起こしてくれるウマ娘～（仮）》には台本の草案も載っており、ぱらぱらとめくって確認もさせてもらった。
憧れのアイドルが自分とお話してくれるというドキドキ感を得るものというのはわかった。僕自身としては、ファンへの感謝として、そしてシュヴァルの新たな挑戦として受けてもいいと思う。
しかし決めるのはシュヴァルである。


この説明会の前に、シュヴァルに伝えておいたことだ。今後も、こういったレース以外の仕事の話も貰うことはあるだろう。それらをこれからはシュヴァル自身が判断し、契約を交わさなければいけない、と。
今日同席したのはあくまでもサポートであり、最終決定権はシュヴァルにある。僕は台本から目をシュヴァルに移し、彼女の言葉を待つ。シュヴァルもこちらを見つめ、無言で頷いた。
「お受けしたいと思います。……初めてで、上手く行かないかもしれないけど、僕を選んでくれた気持ちに応えたいです」
しっかりと自分の意志を伝え、プロデューサーと握手する彼女の姿を見て、少し涙腺が刺激された思いだ。出会った当初よりも成長した姿に、きっと僕がいなくなってからも彼女はやっていけると確信した。
その後シュヴァルとプロデューサーは連絡先を交換し、具体的な収録スケジュールなどを話し合った。ここから先は彼女にすべて任せる。けれども僕も収録の送迎くらいは手伝わせて貰いたいな、なんて思っているうちに、その日の説明会は終了となった。



スタジオから帰りの車を走らせる。助手席のシュヴァルが疲れているにも関わらず、嬉しそうに今日の収録について話してくれた。
自然なシュヴァルの声を撮りたいため言いやすいように好きに変えていいと言われたとか、そのために台本はあまり決まっていないとか、環境音や効果音は後から編集で入れるため、そこにあるとして喋らなくてはいけないのが難しかったとか、相手の返事を想定するシーンは『間』の取り方が大変で何度かリテイクしたとか。
きっと疲れよりも楽しさ、興奮が勝っているのだろうなと思いながら、彼女の思い出話に耳を傾けつつ帰路についた。
これから編集作業を行い最終チェックをシュヴァルと済ませると発売される。おそらく来月になるだろうとのこと。既にSNSや雑誌では発売決定の告知がされており、僕からしてもファンの期待が高まっていることを肌で感じる。
まるで僕も一人のファンかのように、その発売を今か今かと待ち遠しく思うのであった。



『おはようございます……朝です。ふふ、起きて下さい、トレーナーさん』
PCから聞こえるシュヴァルの声に思わずむせてしまう。横ではシュヴァルが顔を真っ赤にしている。発売されたシチュエーションボイスを購入して聞いてみたが、シュヴァルが話しかけているのは"あなた"ではなく僕だった。
以降のトラックもすべて僕に話しかけているシチュエーションとなっている。シュヴァルが僕を優しく起こし、僕の身支度を整えてやり、僕に朝食をあーんして食べさせている。
「あの…上手く演じられなくて、トレーナーさんのお世話を参考に演技をしてたらついうっかりトレーナーさんって呼んじゃって…でもプロデューサーとか監督もそれがいいって言ってくれて…」
わたわたと取り繕うシュヴァルに負い目を感じさせたくなくて、全然悪いことではないよと言ってしまうが、僕の内心はファンがこれを聞いてどう思うかと心配一色であった。
だが、心配に反してシュヴァルのシチュエーションボイスは売れに売れ、プロデューサーから既に第四弾の打診まで来ているとのことらしい。そんなバカなと思いながらサイトのレビューに目を移す。


☆☆☆☆☆：ゾクゾクする美声！リアルなトレーナーとの同棲生活を見事にASMR化してくれました！
☆☆☆☆☆：お二人の日常生活が浮かぶようです
☆☆☆☆☆：ゆうべはおたのしみでしたね
何がリアルな同棲生活だしたことないよ！という叫びのようなツッコミは隣にシュヴァルがいるので飲み込む。この場においてこれでいいものかと思うのは、どうやら僕だけであった。
そしてその僕も、シュヴァルが何かよくないことをしてしまったと思わないように、これでいいこれでいいと肯定せざるを得ず、結果的に《シュヴァルグランASMR～トレーナーを優しく起こしてくれる愛妻ウマ娘～》はプラットフォームの売り上げランキングを総なめし、いつまでも人目につくようになってしまったのだった。