正月旅行としてダイヤちゃんとアメリカに行った時のことである。都会から離れたアメリカは夕刻にもなると人の気配がまったく失われる。
車も通らない南西部の道路沿いは民家と牧草地しかなくはるか彼方まで見渡せる広大な景色が魅力的だ。時にはこうして日本の喧騒を離れ何も考えないで道を歩くこともいいかもしれない。
ホテルからこっそり買い物に出るだけでもまるで歩き旅をする気分である。薄暗くなり始めたので早くホテルに戻ろうとか考えていた時、それは起こった。
突然辺りが眩い光に包まれ、目の前にまるで野球スタジアムの照明でも立っているかのように光る物体が現れたのだ。その物体は僕の頭上に回ると、クレーンゲームのアームのようなものを伸ばし僕の体を持ち上げていった。



気がつくと僕は、まるでショッピングモールの中のような、吹き抜け構造の巨大な空間にいた。目の前には、全身タイツ姿の少女が立っている。
その少女は、緑色の全身タイツにすっぽりと身を包み、顔に当たる部分だけタイツから外に出している。顔は僕の愛バダイヤちゃんに瓜二つであった。ウマ耳に当たる部分までタイツで隠され、触角のように長々と伸びている。
『突然申し訳ありません、どうかお話を聞いて下さい地球人さん』
脳に響くような透き通った声は、まるでダイヤちゃんそのものであった。僕に降りかかるすべての状況が、まるで彼女は宇宙人であると思わせている。
『やむを得ない事情があり、貴方をここにお呼びしました。どうか私に力を貸してほしいのです』



彼女の説明では、彼女はかつて高度な文明で栄えた宇宙人であるようだが、その結果生殖能力が衰え、今は種としての存在を維持できない程に数を減らしているらしい。
滅びを防ぐため、遺伝子情報の近い種を求め宇宙を旅しているらしく、この度僕に白羽の矢を立てたらしい。なぜ僕なのか、と問うと、彼女たちは文明人故に個としての感情や自由意志を尊重しパートナーを選んでいるとか。
「それって、つまり……」
『一目惚れ、です』
地球人の言葉に直すとそうなるのだろうか。僕は決して彼女に対し嫌だとかそういうマイナスの感情はない、されど協力してあげられなかった。
「ごめん、話はわかったけど、心苦しいんだけど、僕には無理だ」
『………』
「僕には、心に決めた人が地球にいるんだ」



そう告げると彼女は、僕の腰に抱きついてきた。それが僕のよく知っているダイヤちゃんのようで、思わず抱き返しそうになる。されど、その手を宙に浮かせたままなんとか堪える。
『貴方に愛されている人が羨ましいですね』
顔を上げた宇宙人は、どこか嬉しそうだった。彼女は何度も貴方は悪くないと告げ、僕達が出会えたことを喜び、突然連れ出したことを謝罪した。
僕も種の存続という大きすぎるスケールの話を個人的感情で断ることの申し訳無さを伝え、彼女のパートナー探しの無事を祈った。
遠くで手を振る彼女の姿が眩い光に包まれたと思うと、気がつけば僕は星あかりの中、牧草地に倒れ込んでいた。



「ああ！見つけましたトレーナーさん！」
遠くから暗視スコープをつけたダイヤちゃんが駆け寄ってくる。僕は体を起こすと、そこはまるでミステリーサークルのように牧草が折れ曲がっていた。
宇宙人と同じように腰に抱きつき、心配していたと何度も言いながら頭を擦り付けるダイヤちゃんを抱き返し、宇宙人へと告げた断り文句を反芻していた。
あんなことを言ったのだから、もっとちゃんとしなくてはならない。決意にも似た何かを胸に感じ取っていると、夜空のはるか彼方に、真っ白に光る点がジグザグの物理法則を無視した軌道を描き、地平線に飛んでいった。
あれダイヤちゃんの変装じゃなかったのかよ。