テレビ局からダンツにドッキリ番組への出演依頼が来た。仕掛け人は僕と彼女の友人で、僕が事故で交通事故に遭い記憶障害となったせいでとぼけたことを思い出しては彼女に突っ込ませるというものだ。
レースを勝つ中で知名度を上げ、メディアへの露出も増えてきた彼女にとって、おそらく初めての大きな仕事となるだろう。僕は彼女のファンを増やすためにそれが必要だと思い今回の依頼を受けたのだった。
それにこれは個人的なことだが、ドッキリの内容が偉い人にお説教されるとか、そういった誰かを傷つけるものじゃないのが良い。
隠しカメラの仕掛けたられた個室で、頭に包帯を巻いてベッドに座り込む。事故に遭ったことは友人が伝えてくれているので、後はダンツが見舞いにやって来て頃合いを見て友人がドッキリ大成功の看板を持って入室するという手筈だ。
そしてパタパタと慌ただしい足音が扉の向こうから聞こえてくると、慌てた様子のダンツが部屋に入ってきた。



「トレーナーさん！大丈夫ですか！？」
起き上がっている僕の様子を見て少しだけ安心した様子のダンツは、ビニール袋に入れた見舞いの品をテーブルに起きつつ、ベッド横の椅子に座って僕の手を握った。
なんともないといった様子で僕が応えると、ダンツは胸を撫で下ろし、手に込められる力が少し緩んだ。
「ただ、ショックでここしばらくのことがあまり思い出せなくて……」
そう言うと彼女は青い顔をして、へなへなと肩の力が抜けていった。椅子から崩れ落ちそうになるのを手を引っ張って支えると、僕の肩に手を置いて捕まり、放心したような様子でなんとか持ちこたえた。
「わ、忘れちゃったんですか…？そんな…」
「いやでも、短期間だけだから、君のレースには支障もないと思うし」
思ったよりもショックを受けている様子で、とぼける雰囲気ではないしどうしたものかと、未だ登場しないネタバラシ役の友人を気にしていると、ダンツは僕の肩を握る手にぎゅっと力を込める。
「嫌です…せっかく、せっかく告白してもらったのに……」



「トレーナーさんがわたしに『付き合ってほしい』って言ってくれたんです。わたし、嬉しすぎて、上手く言えなくて……まだお返事も出来てなかったのに……」
告白した覚えはない。おそらくドッキリ番組のことをボカしながら、付き合ってほしいから予定を空けておくよう伝えたことを、勘違いしているのだろう。
しかしそのことを訂正すれば記憶がしっかりあるという自白に他ならず、ドッキリ企画を台無しにしてしまう。どうしたものかと呆然としていると、ダンツは僕に縋りつきながら潤んだ瞳で見上げてきた。
「もう遅いかもしれないですけど、言わせてください。わたしも……トレーナーさんが好きです。付き合ってください。今度はわたしから、告白しますから……」
受け入れることも断ることも出来ない状況で、とりあえず返事の代わりに彼女を抱き寄せると、ダンツが喜びを伝えるように力を込めて抱き返してくれた。
その後、ドッキリ大成功の看板を持った友人が気まずそうに入ってきたところでダンツに事情を説明すると、彼女は端から見てもわかるほど顔を真っ赤にして布団に頭を突っ込んで隠れていた。



「う～う～ん…」
トレーナー室のソファでだらけるように横になりぐったりしているダンツ。未だドッキリで間違えて告白してしまったことを気にしているようだった。
「本当にごめん、そんな深刻になるとは思ってなくて……」
「いいんです、そもそもわたしの勘違いでしたし……でもぉ～」
頬を赤くしながらソファに顔を埋める彼女の横に座り、慰めるように背中を撫でてやると、尻尾だけが動いて僕の腕に絡みついた。
ダンツのことは、女性としても好きになってしまっているのではあるが、そのことを打ち明けるわけにもいかないし、されどもこのまま恥をかかせただけではよろしくない気持ちもある。どうしたものかと思案していると、ダンツがこちらに振り返りチラりと様子を伺っていた。
「まあ…よくあるから、よくあるよくある」
「魔が差したんです……今なら勇気を出してお返事出来るって……嘘から出た真になりませんかね？」
その愛くるしい困り顔に心臓が跳ね上がった。これ以上何かあればおそらく、真になってしまうのかもしれない。誤魔化すように照れ笑いをしてテレビをつけるとちょうど件のドッキリ番組が放送されていた。



放送では、収録されたドッキリの光景がほぼほぼカットされずに使われていて、まるでドッキリ前に僕が本当に告白をしたことが事実のように進んでおり、ワイプの芸能人も黄色い声を出していた。
ドッキリとは知らずに告白の返事をOKしたダンツによって、僕が逆ドッキリを受ける、というように見れる内容に仕上がっている。スタジオの芸能人たちも「お幸せに！」等と面白がって言う程だ。
しばらくその内容に呆然として見ていたのだが、CMに突入した所でダンツが口を開いた。いつの間にか姿勢を正して隣に座り直し、僕の手を握っている。相変わらず尻尾は腕に巻き付いたままである。
「本当になっちゃいましたね…どうしましょう？」
困ったような、どこか嬉しそうな、そんな顔をしていた。
「いや…これはその…」
「よくあります、よくありますよ」
意趣返しのような雑な慰めをすると、ダンツは僕の肩に頭を預け、嬉しそうに身を寄せた。