……電化…床暖房…在来浴室…オートロック。やはり生活水準を上げるとそれだけ家賃も高くなる。しかしどれも諦めたくはない。
当たり前のことに頭を悩ませながらブツブツと賃貸サイトを読み上げつつ眉間にシワを寄せていると、担当のファインが背後から遊ぶように肩をなぞる。
「何を見ているの？」と問われ口を滑らせたのがいけなかった。近々行われるトレーナー寮の解体に伴い仮住まい、もしくは長期の住まいとなるマンションを探しているのだと説明すると、ファインは目を輝かせた。
キミのために家を用意してあげると嬉しそうに宣言すると早速SP隊長に業者に連絡するよう取り次いだ。止める間もなくSP隊長と二人でどこかに行くファインの背を見送ると、レザーチェアに深く腰掛ける。
まあ、いいか。ファインが僕のために何かしてくれるというのなら、好意は受けておこう。そんな甘さがあったのだ。


3ヶ月後、トレセン近くの空き地に一軒家が建った。ファインが建ててくれた僕の家だ。彼女に見せたいものがあると案内された先にそれが待っていた時、血の気がさっと引いていくのをハッキリ感じられた。
担当になんてことをさせてしまったのだと後悔するも、今までよくわからないドラゴンのセットやラーメンの厨房を突然用意してきたことを思い出し、きっと彼女にとっては奮発したプレゼント程度のものなのだろうと思い直し、頑張って好意を素直に受け取ることに努める。
「大丈夫安心して、防犯も内装もちゃんとしてあるから！」
まったく心配していないが、気にしているのはそこではないが、とりあえず平静を装い彼女の案内に付き従う。ドアノブを彼女が握るとロックが外れる音がした。
「静脈認証なの。後でキミのも登録しないとね。今は私ので開けるからついてきて」
振り返れば門の裏に小さな守衛所があり、黒服のウマ娘が座ってこちらを見ている。流石に悪いので家を明け渡してもらった暁には帰って貰って物置にでもしよう。


家の中は2LDKの、一軒家としてはこじんまりとした間取りだった。てっきりファインのことだから思いつきで豪華なものにして、僕一人で持て余すことになるかと危惧したが杞憂であった。
しかし床暖房、在来浴室と僕が悩んでいたポイントは抑えてあり、いつしか僕は罪悪感から吹っ切れワクワクした気持ちでファインの後をついて行っていた。
各部屋は静脈認証によるオートロックであり、防音も備え、ウマ娘でも壊せないという謳い文句の強度とのこと。
彼女の王族感覚でとんでもない間取りになっていると危惧していたせいか、家一軒を建ててしまったことはとうに忘れ、僕は"一般人にとって"贅を尽くした内装に仕上げてくれた彼女に感謝すらしていた。
しかし最後に案内された寝室は違った。巨大なベッドだけが置かれ、開けることの出来ない埋め込み窓だけの部屋。一室丸々寝るためだけの部屋だった。
ベッドにはこれまた巨大な天蓋が備えられ、垂れ下がった幕の向こうには二つの枕が鎮座していた。
「ここはこだわったんだ、私って枕とかが違いすぎると眠れないかもしれないし」


ファインは、ここで寝るつもりなのだろうか。僕の寝室は……。そんなことを尋ねると、彼女は面白いジョークでも聞かされたように手を口に当ててクスクスと笑うと、ぽんぽんと軽く拍手をした。
拍手に合わせて寝室の証明が薄紫に変わる。静かにこちらに歩み寄るファインが僕の肩をそっと押すと、僕は羽のように柔らかなベッドに倒れ込み、彼女がその上に覆いかぶさる。
「二人の寝室だから」
いたずらっぽく笑みを浮かべるとファインの視線が僕を射抜く。ここに来てようやく、僕は盛大なボタンのかけ違いに気付いたのだ。
「それにトレーナーが望んだんだよ？ああ愛しの我がファインと共に住みたいですって」
そんなこと……言っただろうか。状況にドギマギしながらもない頭を必死に絞って思い出そうとしていると、ファインが体を起こし僕の上に跨ると髪留めを外し、結った髪を解いた。下から見上げるファインは天蓋を背にとても美しかった。
ああ、思い出した。似たようなことを言った。誤解させるようなことを言ったのだ。これはきっと、彼女を思わせぶりにした僕が悪いのだ。


ファインの体が再び倒れ込んでくる。長くなった髪が肩からこぼれ落ちて僕の体にかかる。体重を預けられふにふにと柔らかい肉体が変形を始める。彼女の尻尾が僕の手に絡まる、
「それに、防音だしみんなも入ってこないし、今なら誰も見てないから素直になってもいいんだよ？」
頬に軽い口づけをされると、ファインが完全に僕に重なった。せっかく僕はファインへの恋心を封印し消し去ろうとしていたのに、これがトドメとなった。いやきっと彼女にはとうにバレていたのかもしれない。
こうして僕は、自らの迂闊さと問題を先送りにする性分のせいで、毎日がファイン尽くしの……オール殿下生活を始めたのだった。