マックイーンの結婚が決まった。政略結婚である。個人の自由意志が尊重されるこの現代において、未だそのようなものが存在しているなどとは、僕は知らなかった。
親がどのような条件で我が子を差し出したのかは知らない。けれども家の意向を汲む彼女は、その結婚に従う様子であった。
学園側も在籍中の彼女が結婚することを特に口を挟まず、僕以外の誰もが"仕方のないこと"として受け取り、大事にもしない。
マックイーン本人が了承していることを誰が反対出来ようかといったところか。そして僕もそのうちの一人であった。
時計の針の音だけがメトロノームのようにリズムを刻むトレーナー室で、マックイーンがカレンダーをめくってページを張り替えている。
僕はその気配を視線の外に感じながら、どうにも出来ないもどかしさを抱えたままソファに沈み込み俯いていた。
マックイーンの結婚式がもうそこまで迫っている。本来ならこのような暗い雰囲気でいては失礼であり、それがまた僕を自己嫌悪に陥らせていた。


僕は、マックイーンのことが好きだった。出会った当初はかわいい担当でしかなかったのだが、次第に大人びている彼女に本気で恋をしてしまっていた。
その気持ちを伝えることを、お互いの立場を考え一度は諦めたはずだったのに、こうして彼女が結婚するとなると今更「伝えれていれば」と後悔をしている。しかし、例え気持ちを伝えていたとしてもこの結果は変わらなかっただろう。
「マックイーンは…」
ぐるぐると考えてこんでいるうちに、つい口から言葉が出てしまった。「なんでしょうか」と嬉しそうな彼女の声色が聞こえると、ぱたぱたとこちらに歩み寄る足音が背後から聞こえる。
「マックイーンはさ、親が決めた結婚……嫌じゃないの？」
ここまで来て引っ込めるのもばつが悪く、続けて何度目かの同じ問いを投げかけてしまう。マックイーンはいつもと変わらず、何度でも彼女の毅然とした意志を伝えてくれる。
「嫌ではありません。輝かしきメジロ家のためならば、私は喜んでこの結婚をお受けいたします」
そう答えるのは知っていた。彼女のそんな"高貴なる者の責務"を全うする姿勢が、好きになったのだから。


「トレーナーさんが、私の分までお悩みになってくださっているのはわかります」
僕の肩を優しくマックイーンの手が撫でた。みっともなく落ち込んでいるのは僕なのに、本来なら悩むべきなのは彼女なのに、マックイーンは僕を励ましてくれていた。
「確かに、親が決めた結婚というものが上手くいくかはわかりません。けれども、一度その人の妻となることを決めたのならば、私は全身全霊を尽くして良き妻となります。きっとそこに、愛情は必ず宿ると信じています」
なんて模範的で正しい答えなのだろう。その君の決意が、より僕を惨めなものにしていく。もう君の真っ直ぐな瞳を見ることは出来ないのだろうか。
感服と、自己嫌悪と、後悔。本当は彼女のためにこの結婚を喜んでやるべきなのだ。地獄とはこのことだろう。いや、地獄はこんな生ぬるいものではない。何故なら、披露宴が控えているからである。


こうして、月日は流れ結婚披露宴。僕は特等席で、18にして既婚者となる担当愛バのドレス姿を見ていた。純白のウェディングドレスに身を包み、指輪を光らせ、笑顔を見せる彼女。
親族以外は僕以外の学校関係者も来ており、理事長の姿も見える。皆、思惑はわからないが、この場の空気に相応しく万雷の拍手を送り、笑顔でマックイーンの結婚を祝福していた。
「……何か言って下さいまし」
新婦の入場が済むと、マックイーンが少し照れ隠しをしてドレスを正しながら僕の隣に座った。司会がマイクを持って挨拶を始める。
僕は――メジロ家に買われた。