「ですので、誕生日を一緒に過ごしてもらいたいです」
ライトオの担当になって三年が経った。ある日の練習後、明日に控えるライトオの誕生日を前に彼女がそのような申し出をしてきた。当然僕も誕生日を祝うつもりであったが、彼女からそのような要望が出てくるのは嬉しいばかりだ。
「当然そのつもりだったよ」
「ありがとうございます。では準備がありますので」
ライトオは表情をあまり変化させず、されども僕には喜んでいるとわかる程度に口元を歪め、嬉しそうに手足をバタつかせながら自室に戻って行った。
この三年間、色々あった。何を気に入られたのか、一足どころか二足飛びでプロポーズの言葉を口にする彼女をなんとか落ち着かせながら、大人となる自覚についてを説いてきたつもりだ。
そのおかげでようやく、一緒に誕生日を祝う程度の仲になることが出来た。いつか彼女がもう少しだけ大人になった時、素敵なパートナーと巡り会えた時、あの時急がなくてよかったと思ってくれたなら幸いだ。
そんなことを思いながら帰路につき夕飯を食べているとチャイムの音。玄関口には普段着に着替えたライトオの姿があった。


「すみませんトレーナー、一応風呂には入ってきたのですが走ったら汗をかいてしまいましたのでシャワーをお借りしたいです」
聞きたいことは色々あるが、とりあえずもう遅い時間なので一人では出歩いて欲しくない。寮まで送ろうとも申し出たがもう外泊届も出してあるとのこと。
外で言い争うわけにもいかず家に上げると、ライトオは勝手知ったる我が家のように靴を脱いでずんずんと入ると脱衣所に向かってしまう。
「待って待って、泊まるの！？」
「ええ、誕生日を一緒に過ごして欲しいとお願いしたではないですか」
確かに、ライトオの誕生日まであと3時間。しかしまさか前日からとは思いもよらず、いくら明日が休みだからと言っていいものかとパニックになりつつあったが、ライトオが上着を脱ぎ始めたので慌てて部屋に退避する。
無理に返すにしても彼女はシャワーを浴び始めてしまい、暗い夜道を帰して風邪を引いてほしくないとか、外泊届も受理されてるなら仕方ないとか、そんなことを考えながらライトオがシャワーを浴びる音を耳に入れないようにして、僕は新品の部屋着をタンスから引っ張り出しそっと脱衣所のカゴに入れておいた。


ホカホカ湯気を立てながら僕のTシャツとルームパンツに身を包んだライトオがやってくると、勢いよく僕の傍に座り髪をドライヤーで乾かすことを要求して来る。
長く美しい彼女の髪を手櫛で引っ張りながらドライヤーを当てて乾かすと、彼女は満足げに鼻歌を歌い始める。こういうことは一人で出来るんじゃないのと聞いても、「トレーナー天国！」とわけのわからないことを叫んでいた。
妹がいたらきっとこんな感じなのだろうか、と思いつつ、実のところ僕もこの破茶滅茶を楽しんでいた。
確かに担当ウマ娘がトレーナーの家に泊まり込むのは、世間体的にはあまりよろしくない。けれどもライトオはもうかつての彼女ではなく、僕の言い聞かせにより立派に成長したわけだし、明日は彼女の18歳の誕生日。もう大人と行っても問題ないだろう。それに外泊届も受理されていることだし。
僕の関心はそれより髪を乾かし終えたライトオと誕生日のカウントダウンまでどんなお泊まり会をするかに向けられていた。


ライトオが好きなゲームをプレイしてしばらく経って、「トレーナーが弱すぎる！」と彼女はコントローラーを手放した。
このアクションレースゲームは直進と急ブレーキしか出来ない高速のマシンが彼女のお気に入りであるが、いつも僕がコテンパンに負かされお開きとなる。
ベッドに腰掛けてプレイをしていた僕に合わせて、いそいそと床に座ってプレイしていたライトオがよじ登ってくると、隣に座り込み無言で僕の手を握り込んだ。
「あの…手…」
「手がどうかしましたか？もしかしてこちらも握ってほしいのですか？」
反対側の手も握られると、当然お互いの顔が接近し、ライトオの曇りのない真っ直ぐな瞳が僕を射抜く。僕は、何度も彼女のプロポーズを抑えているうちに、彼女のことを好きになってしまっていた。
だからこそ、この気持ちを隠し、ただの担当とトレーナーの関係になろうと、事あるごとにライトオを誤魔化してきた。その後ろめたさをまるで見透かされているかのようで、僕は視線を逸らしてしまう。
やんわり手を離すと、ライトオの姿勢を正させ、二人してベッドに座り込み時計を睨む。しかし、やがて彼女は小刻みに貧乏揺すりを始めるのであった。



ライトオはただじっと待つことは苦手だ。それなのにこうして誕生日までカウントダウンを行いたいと言ったのは、それだけ僕のことを家族のように親しんでくれているからだ。
落ち着かない彼女をなんとかしてやりたくて、大丈夫かと尋ねたところ、彼女は僕の膝に頭を預けて真っ直ぐ一直線になってくつろぎ始めた。やがて秒針が時を刻む音しか聞こえなくなっていく。
誕生日まであと30分。時折「寝言」と寝言を言うライトオを膝の上で甘やかしながら、僕は悩んでいた。このまま彼女を寝かしつけて、僕はソファか何かで寝れば、彼女には悪いが無事に夜を乗り切ることは出来るだろう。
だが、こんなにも誕生日を一緒に迎えることを楽しみにしていた彼女に、そんな自分本意な仕打ちが出来るだろうか。
「ライトオ起きて。あと20分で誕生日だよ」
「おはようございまストレート」
結局、僕は彼女を起こすことにした。ぱちりと目を開いた彼女は素早く姿勢を正すと、僕の肩にぴったりとくっつき再び時計を凝視した。


やがて誕生日10秒前。今か今かと待ちわびた彼女は落ち着きなく震えながら、カウントダウンを行う。つい一緒にいる僕まで興奮と緊張で手汗が滲む。そしてついに、日付が代わりライトオの誕生日がやってきた。
「ハッピーバースデー！」
「いただきます！」
ライトオが勢いよく僕に抱きつくと、そのまま押し倒される。何事かと呆けていると、僕の両手首を彼女が掴み、鼻と鼻がぶつかりそうなくらい顔を近づけてきた。サラサラとした髪が僕の顔に降りかかる。
「トレーナー、好きです」
「いや、前にも聞いたけど…だめ…」
「18歳になりました。大人です。もう何者も阻むことは出来ません。ゴールインRTAタイマーはここでストップ、記録は18年でした」
この状況に、僕はもうどうしようもないものを感じ取った。なので、せめてもの抵抗と言うか、伝えたいことだけは伝えておきたかった。
「ライトオ、あのね」
「なんですか、また先延ばしの言い訳ですか」
そして僕は伝えた。君を担当してから次第に君に惹かれていったことを、だからせめて、いつか君が十分な年齢になった時に、僕から気持ちを伝えさせてほしいことを。



「だから僕から気持ちを伝える日まで、まだ待っててくれないかな…」
とりあえず、今日はこれで凌ぎたかった。そしていつかその時が来た時、ライトオの気持ちが変わっていたなら、それでいいかと思っていた。だが――
「フッ遅いですね、私はトレーナーが私を好きになるもっと前から好きでした」
そのまま唇が重なると、慣れてない下手っぴなキスが訪れた。やはりあの時の視線が物語っていたように、僕のはぐらかしてきた日々は彼女に見透かされていたのであった。














