正直に言うとよ、店を完全に畳んじまおうと思ったこともあったのよ。俺ももう歳だからな。老兵は何とやらじゃねえが、蕎麦打ちは手先が命だ。中途半端な蕎麦ぁ出すようになるぐらいなら、潔くやめちまうのもありかもしれねえってな。  「ここのお蕎麦が食べられなくなるのは寂しい」?ハハ、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。料理人冥利に尽きるぜ。まあ聞いてくれよ、話はここからなんだ。  俺ぁ旅に出ようと考えてるのさ。この店の味を受け継いでくれるやつを探すための旅にな。俺が探してるようなのが本当にいるのは分からねえんだがな、あんたら師弟を見ていたらよ、俺もちょっくらこの重い腰を上げて、できることはやってみなくちゃならねえと思ったのさ。  覚えてるかい?嬢ちゃんが嬢ちゃんの師匠に連れられて、この店に顔出すようになった頃をよ。その頃の嬢ちゃんはぴーぴー泣いてるばかりでな、今だから言うが、こいつは本当にものになるのか?なんて思ったりもしたんだ。でもよ、そうこうしてるうちに、嬢ちゃんは師匠から色んなことを学んで、気が付けば立派な弟子になってた。まあ、要するに、アレだ。俺も嬢ちゃんみたいな弟子が欲しくなっちまったってわけさ。  つうわけでしばらく店は休みになっちまうんだが、いつか必ず、また開けるつもりだからよ。嬢ちゃんが立派な煽りピエロになってからも、この「そばの村本」を贔屓にしてくれよな、コエンサの嬢ちゃん、それにジョーさん。