スネグラ&ユーリエ アッテンボロー親子短め怪文書 【ネクロサンタ妻】  クリスマスイブ、諸人こぞりて、イルミを見たり、ご飯を食べたり、至る所に酒も来ませり。  そんな人の楽の中において、それを提供する者たちの苦労はいかばかりか。  ここにも働くサンタが二人。 「準備できたよー母さーん!そろそろ出ないと朝までに帰れないよー!」 「オーケー!すぐ行くー!…それじゃあアンタ、今年も行ってくるよ。交通安全、祈っててね」  夫の遺影に手を振るスネグラ、そして外でソリに乗り待つその娘のユーリエ。  亡きサンタの嫁とその娘、今日は運送業でも一際忙しい聖なる夜、家族総出でその任にあたる。  良い子には良いものを、悪い子には教訓になるものを、心を込めて枕元にワープさせる。  街から街へ、時を踏みつけて跳躍する魔トナカイを用いて夜空を凄まじい速さでサンタが駆ける。 「さて、いよいよ仕事も大詰めさね。ユーリエ、私ちょっと魔術に集中するから運転頼んだ」 「オッケー、よしいくぞー皆んなー」  ユーリエの呼びかけに応え光の軌跡を生み出しながらソリが空を飛んでいく。  到着したのは墓地の上空、寿命で、事故で、戦いで、命を落とした者たちが眠る静かな場所。  スネグラ=アッテンボローはネクロマンサーである。  その能力を用いて死者への配達も行っており、どうにもならない事情で墓参りができない者の代わりを務めている。スネグラが息を吸って気を込める、上空に墓地を覆う大きさの魔法陣が展開する。 「死者亡者の皆々様!お眠りのところ申し訳ない!貴方がたの縁!運命を辿って!生者の祈りをお届けいたす!メリークリスマース!」    スネグラの声に合わせ、ソリの荷台から光が弾け、贈り物が飛んでいく。  プレゼントが墓標に吸い込まれるとき、温かな光が漏れたような気がした。 「こんなもんかね」 「おつかれー」  一仕事終えた母に娘がココアの入ったタンブラーを手渡す。   「それじゃ、ボチボチ帰ろうかね。夜も明けるし」  一服したスネグラの声に応え、トナカイたちがソリを方向転換させ、家路についた。 「そういやアンタ、まーた彼氏捕まえたんだって?懲りないねえ」 「今度こそちゃんとしたヒト捕まえるからいいんですー」 「ま、アタシはこの通りいつまでもピッチピチだし?継いで貰おうなんてこれっぽっちも考えてないけどさ」 「まーそうでしょうね」 「年末と言わず、たまには帰ってきな。父さんに顔見せにさ」 「…はーい」  スネグラがおもむろにバッグから包みを取り出す。 「はいこれ、メリークリスマス」 「ありがとう、じゃあ私も、これ」  ユーリエも包みをスネグラに渡す。 「中身はなんだい?」 「プレゼント開けるのは次の朝がマナーでしょー?」 「ふっ違いないわ、さーて帰って寝るかねー」    白んで消えていく夜空を追いかけながら、薄闇の中にソリは消えていった。