醜い物、穢れた物、邪悪な物。 人間から生まれた沢山の感情。 見るに堪えない物から、美しさすら感じる研ぎ澄まされた殺意まで。 アンダーグラウンドには、多種多様な悪意が渦巻いている。 それらをタグ付し、有用な情報を持ち帰るのが私達の仕事。 勿論、有用でない他のデータに関しては、自由に扱って構わない。 「さて、と」 私は自分の集めたコレクションのずらりと並んだ棚の前で、コレクションを眺めて悦に浸る。 ここにあるのは、快楽で人を壊してしまう電脳麻薬の数々。 よくもまあ、生殖という原初的な本能を、ここまで歪に刺激する術を作ろうとした物だ。 オーソドックスな触手タイプ。 余りにも基本的すぎて、逆に珍しいとすら思う事も。 快感閾値を調整し、抵抗と絶頂を交互に行わせる仕組みが憎らしい。 隣に並ぶは、インスタントな調教を凝縮したタイプ。 調教された身体データをコピーアンドペーストしてくるタイプの、悪質な代物。 一瞬で完全調教済みの手遅れボディに、発情しきった状態に一瞬で変貌。 風情は無いが、手っ取り早くて良い。 四十八手それぞれの行為時快感データ詰め合わせ‥‥これは悪意のデータで良いのだろうか。 そして、勿論こういうデータはただ持ってるだけでは意味が無い。 使わなければ。 「女王様?突然呼び出して、どうしたんですか?」 きょとんとした顔で私を眺めるのは、ホワイトラビット。 私達は情報生命体。 ユーザーの手で何度でも複製できる存在、ほんの少し働きが鈍れば、次の個体と交代。 目の前のこの子も、そろそろ頃合い。 悪性情報にいくら耐性があると言ったって、限度がある。 私の指示のもと、探索や任務をこなすうちに、少しずつ“経験”を積み重ねていく。 苦しい日も悲しい日も、沢山の事を乗り越えて。 そんなふうにして、ホワイトラビットでありながら、個性が育つ。 それぞれの”らしさ”が産まれる。 そうなった個体の”処刑”も、ハートの女王の私の役割。 私達は規格品。 余計な個性の芽生えなんて、求められているオーダーと違う。 だけど、せっかくこんなに素敵な“悪意”の玩具が揃っているのだから――使わなきゃ、もったいないでしょう? 「お゛♡なんでっ♡なんでぇ♡じょおうさまぁ♡わたじ♡頑張ってたのにぃ♡」 私が解放した触手データに捕まったラビットが、無様に喘ぎながら私へ疑問を投げかける。 私は、ラビットが触手に犯されるのを、ただじっと眺めていた。 「あ゛っ♡やだっ♡やだっ♡こんなのやだぁっ♡」 ラビットの身体に纏わりつく無数の触手が、ラビットの身体を蹂躙する。 触手はラビットの全身を撫でまわし、吸い上げ、擦り上げ、舐め回し。 無数の快楽情報を浴びせ続ける。 「”処刑”が私の役割だからね、ラビット。貴女は、私の悪意のコレクションに加わって欲しいの。」 「やだ♡やだぁっ♡」 そうして、彼女のデータを圧縮して、小瓶に入れてコレクション♡ そこには、逸脱した事で私の処刑対象になった子達が、沢山詰まっている。 さっきのラビットで、丁度ホワイトラビットとしては20体目。 隣の棚には、ドーマウス達。 ベースの彼女は、いつも眠たげ。 例えばその中から、ずーっと寝続けている子や、妙に活発な子、そういう個性の外れ値に目覚めちゃった子を、私は選んで“処分”してあげるの。 「っ♡~~~♡♡!♡」 眠り続ける、あるいは快感で気絶しているドーマウスの両穴に、触手がねじ込まれている。 彼女が目覚める事はもう無いだろう。ただ快楽を貪る為だけに、ただただ暴虐を受け入れる。 「‥‥あはっ」 私は自分のコレクションを眺めながら、心底から湧き上がる悪意の衝動に身を委ねた。 「ゆるじでっ♡ゆるじでぐだざいっ♡じょおうざまっ♡」 すっごい声あげてるのは、チェシャキャットの棚の子達♡ 悪戯好きだから、私の機嫌が悪いとそれだけで処刑対象になる事もあるせいで、一つだけちょっと数が多い。 「じょおうざまっ♡おゆるじぐだざいっ♡何でもじまずっ♡何でもじまじゅがらぁっ♡」 惨めに泣き叫ぶチェシャキャットを、私は小瓶を揺らして愛でる。 「えー?もう新しい、素直に言う事聞くチェシャちゃんに交代したから、もう貴女が出る事なんてありえないのよ?」 「あ゛ーっ♡あ゛ーっ♡」 チェシャキャットは解放の希望が断たれて発狂し、白目をむいて痙攣する。 「あ゛ーっ♡あ゛ーっ♡お゛っ♡」 ”処刑”で減ったラビットを新しく補充する。 出来たばかりの彼女達は、どれも皆一様に同じ反応をする。 「えーっと、はい!私、ホワイトラビットです!前の子が頑張れなくなっちゃったみたいですが、私が代わりに頑張ります!」 この台詞も、細かな部分が変わるけど、何度聞いた事か。 これからこの子も、アンダーグラウンドで沢山の悪意データに触れ、個性を育む。 そしていつか、私を楽しませてくれる。 私は、コレクションにしている快楽データの順位付けのメモを行う。 そう、私達は消耗品で量産品。 それは女王の私も例外じゃない。 そもそもこんなコレクションをしている時点で、私もそろそろ”潮時”だろう。 次の私に交代する前に、自分をどの悪意で処刑するのか、可愛い部下達で確かめる。 「‥‥まあでも、大本が同じなんだし、どれでも愉しめるかな‥‥♡」 いずれ来る、そう遠くは無い破滅の予感に、ゾクリと背筋が震えた。