大魔女様。 大魔女様。 どこにいらっしゃるのですか。 「メルル様、メルル様」 「あ、はい? どうしました、ゴクチョーさん」 今回も大魔女様を探す裁判は終わり、皆さんにはなれはてになっていただきました。 もう何百……何千? 万まではいっていないでしょう。 それだけの繰り返しを経ても、大魔女様は見つかりません。それどころかただの一度も、手がかりすらありませんでした。 今、大魔女様はどちらにいらっしゃるのでしょうか……。 「あのぉ……こちらに反応しておいてすぐ物思いにふけるのやめてもらえます?」 「え? あ、ご、ごめんなさい」 「最近のメルル様、ぼーっとしすぎですよ。お陰でまーた、裁判の途中で吊られちゃってますし」 「うぅ……ごめんなさい……」 最近はどうにも調子が悪いみたいです。 ちょっと前までは裁判にも慣れて、疑われることもほとんどなくなったのに。 ここ十何回くらいは、疑われて、■■されて、その度に看守さんに対処してもらって。 ちゃんと魔女にして大魔女様かどうか確かめないといけないのに、これじゃあ無駄に……………………。 「せめて顔と名前を一致させる努力くらいしませんか? 昔は出来てたのに、どうして出来なくなったんですかね」 「……ご、ごめんなさい……」 でも、顔と名前が一致しないのは、仕方ないんです。 だって、最近は人の顔を見れなくなって。見ると、それだけで胸が締め付けられて。 靴で人を判別しようとしても、名前もなんだか曖昧になってきて。 この前なんて、少女たちの資料を見るだけでなんだかお腹が気持ち悪くなっちゃって。 私はしっかりしないといけないのに、なんで、こんなことになってるんでしょう……? 「別にいいですけどね。メルル様が何もしなくてもこの牢屋敷は機能出来てますし」 「……え?」 ゴクチョーさんの言葉は、まるで心臓に氷が突き刺さったようでした。 「私、もしかして何もしなくていいんですか?」 「は? まあ、メルル様が何かしてもしなくても囚人たちは普通に殺し合いますからね。その後魔女裁判を行うには私と看守がいればどうとでもできますし」 「私は、必要ありませんか?」 「システムだけ考えると……そういうことになっちゃいますかね? 最近では足引っ張ってますしむしろ邪魔って言いますか……」 ゴクチョーさんは嘘は言いません。私が主なのに事実をズケズケと言ってくるのがゴクチョーさんです。 だから、わかってしまいました。 この牢屋敷に私はいらなくて、邪魔者で、必要なくて。 きっと、だから大魔女様も、私の事を―― 「い、嫌っ……」 変な考えが、頭をよぎる。大魔女様に限って、そんなことあり得ないはずです。 なのにどうしてか、嫌な想像がぐるぐる、ぐるぐる頭を巡って。 心がとっても寒くなって、痛くて、痛くて、痛くて。 「……ッ!」 勝手に治癒の魔法が発動していました。どこも怪我をしていないのに。 けれどその魔法は穏やかで、心の寒さを和らげるように暖かく広がって。 そして、それから。 「……ゴクチョーさん、エマさん覚えてますか?」 「はい? ああ、そんな囚人もいましたね」 「いい子でしたよね」 「まあ、そうなんじゃないですか?」 「いい子でしたよ」 優しくて、頼りになって、友達思いだったエマさん。 何故、今思い出せたのでしょう。私の魔法は記憶を思い出させる効果なんてないはずなのに。 もうとっても遠くの出来事なのに。今さら遅いのに。 エマさんだけじゃありません、他にもいい子は沢山いました。 それを、この牢屋敷が、私が。 「ゴクチョーさん、今から屋敷の一切をお任せしてもいいですか?」 「ええ? どうしたんですか、いきなり」 「私は、私にはもう、この牢屋敷の管理が、出来なくなっちゃったみたいです」 「でも、大魔女様は見つけたいです……だから、お願いします、ゴクチョーさん。私の代わりに大魔女様を見つけてください」 「まあ、主がそう言うならそうしますけど……メルル様はどうするおつもりで?」 「私は……ちょっと長いお休みにつこうかと思います。長い長い……」 「起きれるかどうかはわかりません。けど、大魔女様が来たらきっと起こしてくれると思うんです、だから」 私が主人としての命を伝えるとゴクチョーさんは大きくため息をつきました。 「まあ、主がそう命じるならそうしますけどね。上司が職務放棄とか酷い職場ですねここは」 「……ごめんなさい」 もう何回謝ったかわかりません。けど、これほど心が穏やかになる謝罪は初めてでした。 いつも涙が出てたのに、心がぎゅって苦しくなったのに。 何故だか今は顔が笑ってるのが、自分でもわかっちゃうんです。 それから、私は作りました。人が昏睡状態に陥る薬を。 魔女である私にどれほど効くかはわかりませんが、起きたらまた使えばいいんです。 これで私はもう、殺さなくていいんですね。 「んっ……」 薬を一飲みしてから、倒れるならそう、お花畑がいいです。 牢屋敷は暗くて怖くて嫌な思い出ばかりですが、あそこならいい思い出がいっぱいありますから。 牢を出て花畑へ。どの方の魔法か、花は咲き続けて散ることが無くて。 横たわると綺麗なお花の香りと共に眠気が襲ってきます。最近は気絶するように寝ていたのでこんな穏やかな眠気は初めてで。 幸せな思い出に、踏みにじった思い出に包まれながらゆっくりと瞼が落ちていく。 大魔女様、せめて夢の中では会いに来てくれますか? BAD END