1207 「おはようございます、やちよさん」 すっかり古くなってしまった家で、あの頃と変わらないままの彼女に声をかける。 返事はなくて、ただ腕の動作だけで近寄るように指示されて、だから隣に座る。 手を取って、温かい。 いつからだろうか、やちよさんはあんまり言葉を発しなくなった。変わっていく街並みの中で、私たち2人だけが置いてけぼりになっている。 今となってはもうあの頃の魔法少女たちもまばらだ。やるべきことを終えた人たちは、誰かを見送っては旅立って行った。 私たちだけ、この古い古い広い家の中に取り残されている。 いつになったら帰って来てくれるのかな、なんて。諦め混じりの言葉が出そうになって飲み込んだ。 「今日で168年目ですね」 ぴくりと反応したやちよさんに思わず笑って、それから肩に寄りかかった。 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1208 「やっちゃーん」 ソファーによく見知った幼馴染が座っている。年甲斐もなく足をぷらぷらさせ、テーブルに乗ったせんべいをリスのようにかじって頬を膨らませていた。 見ればドアの陰から上から順に鶴さなフェリでこちらを伺っており、その目は輝いている。 「へんじしてくーださい」 ぼーっとそっちを眺めている間に普段よりみふり気を増した顔が目の前にやってきていた。 みずみずしい唇が、ケアいらずの艷やかな肌が、頬張っていた饅頭より柔らかそうな頬が目に入り、なにより目を引くのはその長い銀髪だ。 「やっちゃんはこんなに美人さんになるんですね」 朝起きたら泊まっていたみふゆが縮んでいたのだ。 「やっちゃんやっちゃん、あっちのお姉さんたちも紹介してくださーい」 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1209 深月牧場名物 減塩タマキチーズ。 濃厚モモエチーズと同様同牧場の主力商品である。 …ここ神浜は東西に長く横たわる対立を越え、十数年前に発足した学生会議を母体とした市民団体により目覚ましい発展を遂げた一方、元々保養地であった北養区は開発の手を入れず保全する方針が取られ、結果地価が著しく高騰している。 同市出身の牧場主、深月氏はその高騰より前に手つかずの野山であった部分を買い取り一部を残して切り崩して牧場にしたやり手である。 今日は新進気鋭の深月牧場と、なぜ彼女が北養の山に拘ったのかについて深く追っていく。 「やっぱり、思い出深い場所だからですよね」 柔らかなロングの金髪が麗しい深月氏は、かつて山の中に思い出深い場所があったのだと語る。 「当時私には5人仲間がいて…あ、今も仲いいですよ?絵本描いたり中華料理屋やったりタレントやったりしてますね」 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1210 「snaa…」 「なにこれ」 二葉さんの頭の上に二葉さんのようななにかが乗っている。なんだろうこれ。 ちょっとしょんぼりしているようにも見える謎の生き物はさっきからしきりにすなーと鳴き声を上げている。土岐さんの仲間だろうか。 そしてこれがいるとなぜかスコットランドに向かいたくなってくる。どうしてかしら。 つついてみても表情が変わる様子はないけれど、まったく敵意のようなものは感じない。試しにいろはの薄味クッキーを与えてみたところ一口に全部食べてから二秒ほど固まって残りのクッキーをずっと眺めている。 「snaa…」 「あ、あの、やちよさん」 飼わないわよ。どうにもその言葉が口から出て来てくれない。こう、不思議な魅力があるのだ。あからさまにかわいさを重視したデザインではなく、もちっとしてころころした不思議な愛嬌がある。どうした者か悩んでいると、玄関を開いてフェリシアが飛び込んできた。 「やちよー!!ちっちぇえいろは拾っ 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1211 フェリシアがテストの答案を出そうとしていないのではないか。 ここ数日何かを隠すように持って移動するフェリシアを見て、さなと私との間で問題が浮上してきた。 困ったことに中央学園の中等部にはフェリシアの他に綾野さんしか魔法少女がおらず、ただ中央学園は神浜屈指の進学校なので、あったとしてもなんらおかしくはない…悪い点数ならそれはそれで構わないし、わからないところがあったら教えるから隠さないでほしいのだ。 そう思ってまた外から帰ってきてはなにかを隠して部屋に戻ろうとするフェリシアを壁際に追い詰めたのが今である。 「なにか隠し事があるんじゃないかしら」 「ねーよ!なんもかくしてねーぞテストが73点だったくらいで!これは機嫌いいときに見せたら肉食えそーだから…」 …その魂胆はどうなのだと思いつつ、さなをステルスさせ後ろから持っているものを確認させると突然にやにやしだした。微笑ましげに笑っている。 ステルスを解いて、それに気づいたフェリシアが思わず横を向いて、私にも手に持っているものがわかった。 「やちよちゃん着せ替えセット…ver:4.8」 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1212 ソファーの上に団子が置いてある。 否、あれは鶴乃だ。鶴乃の膝の上にいろはが載って両サイドから二葉さんとフェリシアがハグしている。 …おそらくそういう日なのだろう。鶴乃は満足げな顔をしており、くっついている3人も別に困った顔をしていない。 ……なんて残酷なことだろうと思う。私はたった今天を恨みはじめた。他ならぬみなもすぐそうなるだろう。 よく冷えた部屋の中で人肌は気持ちがいい。今だからこその贅沢と言える。 「ごめんなさい、鶴乃」 せめてもの情けと思い、頭を撫でながら話しかける。 「エアコンが壊れたから、みんな今すぐ離れなさい」 困ったことに、今は夏なのだ。 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1213 劇場版こねこのゴロゴロvsイザボー・ド・バヴィエール。 今季ロングラン、興行収入80億間近の超大作だ。 潤沢な予算と原作のネームバリューのみをふんだんに活かしながら自分色の作品にしてしまう監督の手によって名作人形劇はこの冬筆頭の映画となり、街の話題を独り占めにしながら合わせて入荷された原作のBlu-rayBOXをワゴン送りにして自分のディスクを売り捌いている。 「ししょー…さなが…」 「オレもうどうしたらいいかわかんねえよ」 デカゴンボールがいきなりアメコミに組み込まれてそっちが原作と呼ばれ始めたようなものだ。原作ファンは悲鳴を上げているが、マイノリティは黙殺される。か細い叫びがネット上ですら売上に押され消え始めてもう一月になり、……さながドッペルを出し続けて、今日で37日目になる。 テレビから流れ出したヒットメーカー歌手の主題歌が癇に障って、電源を切った。 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1214 あの時鶴乃がはっきり年下の甘えん坊にカテゴライズされて以来、鶴乃からのアタックは日に日に激しさを増していった。 あの辛く苦しい戦いの日々の頃は抑えていてくれたけれど、あの4人がいなくなって、どうしても空いてしまった心の穴を埋めたかったのは果たしてどっちだったのだろう。 久々に鶴乃を招いてのお泊り会のはずが、さなは水名組の方で、フェリシアは13歳組で予定がブッキングしてしまいそそくさと出かけていった。 二人きりには大きすぎるみかづき荘で、私の部屋のベッドに潜り込んできた大切な仲間を拒むには、私の心はひび割れていた。 普段から油に関わる生活をしているだろうに滑らかな肌は緊張からか紅潮していて、ほんのりと汗ばんでいる。 甘えるようにやちよ、やちよ、と声が聞こえて、私は小さく震える身体に手を添えて、胸元のピンク色の突 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1215 いやー現場は惨憺たる有様だったね。見るも無惨というか、この世の地獄というか。 まず階段の途中でフェリシアが体育座りしてるでしょ?それでずっと俯いてクーシンサイ先生に謝ってる。 いろはちゃんは上の階のベッドの中でずっとおばけ怖いって言い続けてるし。 それでさなはリビングの真ん中に下着姿で倒れてる。 ういちゃんは2回くらいさなの胸をつついてから、 「さなさん起きて!しっかりして!」 「トマトが…トマトが…」 なんてうなされてるさなを起こそうと必死になってる。 キッチンのゴミ箱にはやちよの服が投げ捨てられていて、その上にデカゴンボールウェハースのおまけカードの包装とウェハースがバキバキに砕けて落ちてた。 ふんふん…でも謎は全てこの名探偵つるたの手のひらの上だよ! 安心して!この事件の犯人がわたしだってこと以外、なんの問題もないからね!! 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1216 なにかがおかしいことになっている。 まず最初に会ったフェリシアはなんだかぽわぽわしていて、おどおどしていて、少年漫画よりこねこのゴロゴロを好んでいた。 その同室のはずのさなは朝から元気たっぷりに飛び込んで来ていろはに飛びつきすりついて甘えている。ちょっぴり油のにおいがした。 いろははいろはでクールで落ち着きがある佇まいをしていて、飛びついてきたさなを手で抑えて接触を拒否している。鶴乃はあぐらをかいて漫画を読みながら朝食をとっていた。 ……入れ替わっている。私はどうやらポジションがいろはらしく、目が覚めたら隣に兎のぬいぐるみが置かれていた。 見た目が入れ替わっているものだから脳がバグる。いやいろはの外見で私の動作をするのは正直面白いのだけれど。 さなが大型犬のような動作をしているのは鶴乃に比べても愛らしさが増しているし、おどおどしたフェリシアは破壊力がおかしい。 …しかしやはり魔法少女は魔法少女。魔女の反応に全員が立ち上がると、各々が変身して武器を構え…あっ、魔法少女服も入れ替わってるのね。 …待って。 つまりこれ、私が変身したら全身タイツに 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1217 「「こーむぎこっ」」 「「たーまごっ♪」」 キッチンから愛らしい歌声が聞こえて気分がいい。『パンケーキの歌』だ。これが聞こえるということは、三時のおやつでも作るのだろう。 「「おーさとう♪」」 「「ホーイップ♪」」 今日は甘味マシマシらしい。これはちょっと今月の摂取カロリーについて下方修正を加える必要がある気がする。とはいえ甘味とは幸せそのもの。私だって甘ったるいくらいに甘いパンケーキは大好物で── 「「メープル♪」」「「カスタード♪」」「「チョーコ♪」」「「バーニーラ♪」」「「イーチゴ♪」「「もーも♪」」「あんこ♪」」「「くーろみつっ♪」」「「フッレーク♪」」「「プーリンっ♪」「「クッキィ♪」」「バターっ♪」」「「キャンディ♪」」「「キャーラメルっ♪」」 私は震える手を抑え、二人の共通の友人である土岐さんに連絡することにした。 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1218 件の激甘パンケーキは最終的にめぐり巡って呉さんのSNSが原因だと言う事がわかり、げんなりするほど盛られたパンケーキは当然の如く五分の一すら食べきれなかった小食二人組…さなとういちゃんの胃袋に拒絶されフェリシアに胃袋に7割が、残りは私達で片付けることとなった。 「というわけで二葉さんとういちゃんは余った材料を美国さんのところに渡しに行っているわ」 「それはいいんだけどさ、なんでやちよってずっとさなのこと名字で呼ぶんだよ」 なによ藪から棒に。私だって別に壁を作っているつもりはないけれど、そもそも私がまだ距離を取っていた頃、いろはを名前で呼ぶきっかけになった記憶ミュージアムでの一件の時が多分改めるタイミングだったのだとは思うのだけど、あの時さなは洗脳されて連れ去られて、帰ってきたと思ったら鶴乃のことでいろいろあって、 「言い訳は別にいいけどさ、つまり呼び方変えるタイミング逃したんじゃねーか。ももこかなにか?」 「ももこに謝りなさい」 「まぁももこ以下だもんな」 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1219 みかづき荘の倉庫にはここが下宿だったころの名残が色濃くある。 バーベキューセットもあればキャンプ用品も転がっているし、実は広い庭を活かせるスポーツグッズもあったりする。 …するのだが、鶴乃が泊まるときはここを部屋として貸与することにしたので(当人は寂しがってリビングまで来て寝ている)、倉庫を片付けねばならなくなってしまった。 「見てししょー!懐かしいねこの漫画」 「読みたいならリビングに置いてきて。今は掃除をしなさい」 「やだよー置いといたらフェリシアが独占しちゃうもん」 掃除中の罠に引っかかりかけた鶴乃を現実に引き戻しつつ、片付けを進める。出るわ出るわ、ここに長年下宿してきた人々がわ残していった荷物の数々。使い道がわからないもの、当時の流行りのアイテム、束になった古雑誌(私のスクラップだ。祖母だろうか)等多々ある。 あれ?という声が聞こえそちらを見やると、鶴乃がカードの束を手に取っていた。 束にはメモ帳が添えられており、そこには、 「だれでもできる!魔法少女安名メル式・タロット占いメソッド」 そう書かれていた。 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1220 「今日さー、あやめがオレの胸揉んできたんだよ。わしづかみしてきて痛かったからビンタしてやった」 …曰く。フェリシアって胸でけーよな!といきなり掴んだそうな。 三栗さんのことなので胸でけーよなとは胸でけーよなという意味なのだろう。 一緒にいて一部始終を目撃した夏目さんがふらつきながら帰っていったというのは気になるが、今はフェリシアの話だ。 「実際さ、戦ってても邪魔なんだよなこれ。やちよはちっちゃくていいよなー」 は? 「肩も凝るし…かっこいい服着れねーし。武器振るときも邪魔だし。やちよとかいろはみたいにちっちぇえほうがよかったよ」 は? 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1221 「今日で1680年目ですね」 最近ますます動かなくなってまるで樹齢4桁越えの木かなにかのように感じるやちよさんに声をかける。 返答はない。片目を開いて、それから閉じて…私がそばに近寄るとそっと手が伸びてきた。 綺麗なままの手を取って、隣に座る。やちよさんの膝の上にはあの兎のぬいぐるみがいて、机には6人で撮った写真の複製が飾られていて、もう他にはなにも残っていない。 年月はとても残酷なもので、残念ながら…えっと…そう、みかづき荘…みかづき荘だったかな?たぶんあってる…は、魔力による補強を入れても耐えきれなかった。 それでも、私たちはずっと耐えている。あの4人が帰ってくるのを、変わらなくなった日々の中で待ち続けている。 ……いつものようにただやちよさんのそばに座っていると、珍しくテレパシーが飛んできた。それは他愛ない思い出話なのだろう。私とういちゃんが大好きだった、だった── (ごめんなさい、こねこのゴロゴロって、なんでしたっけ) だった、もう忘れてしまったなにかの話だった。 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1222 街はクリスマスムードに浮かれている。ここに来た頃はまるで乗り気じゃなかったフェリシアとさなも、今となっては私たちと一緒に心から楽しんでくれている。 「もうこれで8回目のクリスマスですね」 「オレもう待ちきれねーぞ」 またerror年前のようにプレゼント交換がしたいわね、とそう思う。私も1回目のクリスマスの時は19歳で、その頃はフェリシアも13歳だった。 今となっては私ももうError歳で、前々回のクリスマスなんてみふゆと一緒に幼児退行する羽目になったのだ。 今思うと恥ずかしいが、済んだ話だ。 ……なにかがおかしい気がする。なんだろう。会ってはならないことが起きている気がする。 「フェリシアさん」 「おう」 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1223 クリスマス当日、予約していたケーキを忙しいやちよさんに代わって宝崎から引き取って帰る道中。 いろはさんがまだいた頃、環家が特別な時にだけ買いに行っていたらしいあのお店のケーキはとても美味しいもので、一緒に来ていたフェリシアさんと帰路につく途中、彼女がコンビニのチキンに目を吸い寄せられていた。 「だめですよ」 「んだよさな、まだなんもいってねーぞ」 まだ、なんだ。買う気満々のフェリシアさんにちょっとだけ困りつつ、私自身惹かれるものがあった。 …当然二葉家にいた頃の私に買食いなんて許されるはずもなく、やってみたい衝動もあった。でも、 「…みんなの分も買って帰りましょう。みんなで食べる方がずっといいです」 おう!と元気よく返事して納得してくれたのでチキンを4本買う。限定のクリスマスボックスに入った状態で渡してもらえて、テーブルの雰囲気にも溶け込んでくれるだろうな…なんて温かな想像をして…幸せな気分のまま歩いて、いよいよみかづき荘の玄関に手をかけたところで思い出した。多分フェリシアさんも今思い出したのだろう。顔が青ざめている。 「なあ、今日確かにみふゆも来 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1224 クリスマスイブの深夜。いよいよ明日の夜が本番なので、みんなが寝静まった夜にわたし達の最終確認が始まる。 わたし達のプレゼントボックスの中には愛とか夢とか希望とかそういうものがたくさん詰まってる。 わたし達はずっとそうだったから気づかなかったけど、外に出てみればここのみんなには今日が特別な日だってわかるから、天使たちの寝顔を見るたびにこれがずっと続けばいいなとそう思う。 「……よしっ、どこからでも侵入れそうだね!」 相棒を顔を見て、にやりと笑った。 防壁を潜り抜け、世界の壁を乗り越えて、きっとたどり着いてみせる! 「あの日星を飛び出してから、わたし達はずっとあなた達を見てきたんだよ」 辛いことばっかりの、わたし達の元になった天使たち。けれどずっと諦めないで、へこたれないで戦ってきた彼女たちに、笑顔を届けたい! 電子の海から、トナカイサンタが今行くよ── 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1225 クリスマスイブの朝なんて案外静かなもので、子供たちもそわそわしつつも普段通りの生活を送っている。 サンタクロースを無邪気には信じなくなったのはいつからだったろう?信じなくなった側には信じる側の夢を守る責務があると思う。 ……そんなわけで、年少組の夢を守るためにも…… 「だからよー、さなが透明化して待ってたら絶対サンタ捕まえられるって」 「ダメですよ…サンタさんだっていろんなおうちを回らないといけないんですよ?」 「でもさなだってサンタ見たいだろ!去年はオレんとこ来てくれなかったから文句いってやりてーし」 「私も来たことはないですけど……そういわれると気になってきました……」 今となっては歴戦の魔法少女である二人の手をなんとか掻い潜り、枕元にプレゼントを置かなくてはならない。 「話は聞かせてもらったよ!!この最強の魔法少女も協力するからなんとかしてサンタを捕まえよう!!」 ……もう無理かもしれない。 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1226 みんなが寝静まって、クリスマスの夜が終わった。 冷めきったチキンを温め直しながら、2ピースだけ残したショートケーキと親友が待つテーブルへ、隠しておいた偽装シャンパンの瓶を置く。 2人で顔を見合わせてくすくす笑って、グラスにそれを注ぐ。ぶどうのいい香りがする。 単なる儀式だとも思う。けれどちょっとだけ身構えて、乾杯、とグラスを打ち鳴らした。 喉を抜けていく芳醇な香りと甘みは、それだけではない未体験の臭気も孕んでいる。 「……おいしいですね、やっちゃん」 「あら、あなたは体験済みだと思っていたわ」 「アレはオレンジジュースですよぉ」 さすがに子どもたちの前で飲むわけにも行かなくて、こうして夜中にひっそりとはじめての飲酒を嗜むことにしたのだ。 20歳。それが魔法少女(わたしたち)にとってどれだけ重い年齢かは言うまでもない。 「…お酒、呑めるようになれちゃいましたね」 誇らしいような、それでいて寂寥も加えた笑みが目の前にあって、私はただ微笑んで…… 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1227 クリスマスが過ぎ去って、数日限りの敬虔な教徒たちが仏教徒への鞍替えをはじめたころ。 私たちは2階のさなとフェリシアの部屋を見ながらため息をついた。 まるで境界線を引いたかのように左半分は整然としたさなの領域であり、ゴロゴロのグッズやみんなの写真、絵本やネタ帳、スケッチブックに刑罰の歴史7巻と彼女らしい…… …? ……見なかったことにしよう。 それはそれとして右半分は雑然としている。食べかけのお菓子や読みかけの漫画が床に置かれており、半面机の方は逆になにも置かれていない。椅子の脚にはホコリが溜まっている…つまり座るために動かした形跡もなく、ベッドだけが大好きなぬいぐるみと共に聖域のように整えられており… 「フェリシア」  「年末だからって掃除はしねーぞ」 今日のフェリシアの夕飯は豆腐と白湯にしよう。そう思った。 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1228 さなが珍しくため息をついている。なんでも学校で竜城さんから「莉愛さんと同じ匂いがしますね!」と言われたそうな。 それだけで終わっていればよかったけれど、阿見さんとその後魔女結界で一緒に戦って出てきたところを目撃されてしまい、今まさに誤解のジェットコースターが竜城さんに速度を乗せている。 ……そもそもなんで同じ匂いがするのかというと、私が使っているシャンプーをさなが使っているからである。 「……はぁ……私、ちょっとだけ竜城さんが苦手です」 確か以前も竜真館の合宿を断っていたような覚えがある。さなは自分のペースを乱されるのが苦手なタイプだろうからしょうがない。それはそれとして… 髪に触れるとぴゃ…と消え入るような声がしてさなが縮こまった。真正面で顔を見合わせる形になるが仕方がない。壁際で体育座りしているのが悪い。 「私は直毛だけど、さなは癖っ毛だものね。この気にあなたにあったシャンプーを探すのはどうかしら」 「………顔の良さ自覚してます?」 してるに決まってるわ。私モデルよ? そのまま私は顔を近づけ 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1229 モデルのみならずタレント方面にも手を伸ばすようになってからというもの、帰りが遅くなる日が続いている。 これでさなが締め切りに追われて缶詰の時は、同室のフェリシアは少し所在なさげにしていた。 ……今日もすっかり遅くなってしまって、玄関のドアをこっそり開けるとリビングの側からお帰りとテレパシーが飛んできて、ついで香ばしさが鼻をくすぐってくる。 見れば普段2本のテールを1本にまとめてエプロン(当然のようにドラゴン)を身に着けたフェリシアが後ろ姿で鍋を見ていた。 「そろそろ帰ってくると思ってさ。最近さみーから」 …実はフェリシアは料理ができる。ベースこそ万々歳だが火や調理道具の扱いは鶴乃が厳しく教えたらしく危なっかしいところはない。そしていろはがいた頃に薄味も慣らされているので、案外味のレパートリーが広いのだ。 一口、冷えた身体にスープが染み渡る。…優しい味だと思って、ちょっと緊張しながら隣に座っていたフェリシアをぐいっと引き寄せて頭をわしゃわしゃと撫でてやった。 「なんだよー。はずいからやめろよー」 言葉とは裏腹に抵抗はなくて、その顔は緩んでいた。 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1230 最近クレセントハウスの方のファイアウォールがなにものかに攻撃を受けているらしい。 私たちがみかづき荘に戻ってからもう長く、最後にあそこに立ち入ったのはあの事件が終わった後の佐鳥さんくらいなもので、当然彼女歯犯人ではなかった。 里見のカスタマーによればアクセスログは鶴乃とフェリシアのスマートフォンからになっているらしいが、当然当人に事情を聞いてもなにもしておらず、端末を踏み台にされたりもしていなかったらしい。 「佐鳥さんが言うにはあそこには私たちをもとにしたAIがたくさん残ってるらしいわね」 「えーあい」 「あっ」 ……そう言えば、以前二人をもとにしたAIが飛び出して、私たちにプレゼントを贈ってきたことがあったような。 ……まさか…まさかね…… 続きはCrescentMoonBOXへ💚 1231 いずれ来たる日がとうとうやって来た。今年ももうすぐ終わるのだ。 路地裏に、物陰に。潜んでいた魔女たちもめっきり見かけなくなった。 はじまりのあの日、いろはと出会ったあの日々を含む年が終わって、これからを夢見られるようになった私たちの、あの子たちだけがいない年が始まろうとしている。 はじまりを迎えるための終わりの日。寂しくなってしまったみかづき荘。 やがて残った4人もバラバラになるのかもしれない。逆にずっと一緒にいられるのかもしれない。 クリスマスからこっち、ふと未来を考えるようになった。 帰るべき場所があるのはきっと幸せなことで、その場所に大切な人がいるのも素敵なことで。 都度都度、私たちはこの喪失感と戦っていかないといけないのだろう。 手が震える。笑顔で別れて送り出したけれど、私は何年耐えられるだろう。 これからの未来が、長い長い過去になっていく。 いずれ来たるのは、私が耐えられなくなる日だろうか。耐え抜いてまた出会う日だろうか。長い長い日々を、終わるまで続けていく。 CrescentMoonBOXは更新終了となります。ご愛読ありがとうございました💚