「ネコユニヴァースだよ」
　……目を疑った。あるいは、耳を疑った。
　目の前の珍しい色をした猫がヒトの言葉を喋った。
「トレーナー？　“同調”できている？　『ネコユニヴァース』だよ」
　やはり喋った。というか、この声は……。
「この声……もしかして、ユニヴァースか？」

　よく見てみれば金色に水色の混ざった毛並みは明らかにネオユニヴァースのモノであった。
「……！　アファーマティブ……！　交信できているね」
　間違いなく、この猫はネオユニヴァースのようだ。一体全体、彼女は何故猫の姿になっているのだろうか。そして、何故猫なのにヒトの言葉を喋っているのか。未だ疑問が底をつかない。
「――原因は未解明。気付いたのは“WKUP”。『朝起きたら猫になっていた』んだ」
「そう、か……えっと、それでなんで猫になったのに喋れてるの？　おかしくないか？」
「『わたし』と『あなた』は“完全に同調”している。“PFSY”だね。だからトレーナーには『伝わる』ができるんだ」
「そっか……となると、他の人には猫の声として聞こえてるってことかな」「アファーマティブ」
　……それはちょっと、あまり人様には見られたくない状況だな。とりあえず、トレーナー室に連れて行こうか。

「ユニ、トレーナー室に行くぞ」「“同行”するね」
　すたすたと歩いてみてふと振り返ると、彼女は何故かその場から動こうとしなかった。
「ユニ……？　どうかしたのか」「トレーナー、ネオユニヴァースは“HOLD”を“要求”するよ」
　……HOLD――ホールド……つまりは、抱っこということだろうか。ネコユニヴァースは、どうやら抱っこしてトレーナー室まで連れて行って欲しいらしい。
　彼女にしては珍しいリクエストだが、まあ良いだろう。そっとネコユニの脇の下に指を入れてそのまま抱きかかえる。

「これでいい？」「スフィーラ……とっても、スフィーラだね」「そう、よかった」
　ネコユニを抱きかかえながら俺はトレーナー室へと向かった。

――――――
「トレーナーの膝上に“TCDW”だね」
　トレーナー室の椅子に腰かけ、ネコユニを離してあげると膝上にすたりと着地しそのまま身体をあずけ膝上を占領する。

「ネコユニヴァースは『安定期』に入ったよ」「……つまり？」「此処は『落ち着く』ね」
「そっか。……ところで、俺はここからどうすれば良いんだ？　その身体、どうにか元に戻さないといけないけど……」
　不思議そうにこちらを見つめるネコユニを見やる。大変可愛らしい姿ではあるのだが、レースやトレーニングをするのには適していない姿でもある。いつまでもこのままという訳にはいかないだろう。

「指針は“ある”よ。トレーナーとネオユニヴァースのミッションは――『猫かわいがり』」「……猫かわいがり……？」「アファーマティブ」
　猫かわいがりとは……溺愛や過保護なまでに可愛がることを指す言葉ではあるが……。まさか、それを彼女にするということなのだろうか……？
「能動的な“BDTC”……“PYSC”の接触が、必要。ネコユニヴァースは『なでなで』を求めるよ」
　猫でありながら、彼女本来の無表情さを連想させるような眉一つ動かない眼差しで見つめられながら、催促をするように尻尾でぺしぺしと叩かれる。

「それが君が元に戻るのに必要なことなんだな？　……なら、うん。やるよ」
　そういうとネオユニヴァースはゆっくりとまばたきをして、より身体を沈ませてこちらに身を預ける。
「トレーナー、来て」「ああ……」

　そっと、彼女の頭に手をやる。彼女のさらさらな毛並みを手のひらに感じながら、少し、力を入れる。
「ん……」
　そのまま、ゆっくりと首の方へと手を動かす。
　なで……なで……。
「……スフィーラ……」
　俺の手のひらを、目を細めて受け入れるネオユニヴァース。その様子から問題は無いと判断して彼女へのなでなでを続行する。

　なで……なで……なで……。
　ひたいの辺りから、耳の間を通って首筋、それから背中へと。じっくりと、繰り返すように、ネオユニヴァースを撫でる。
「とても……“良い”ね。スフィーラ……♪」
　彼女の心地良さそうな声を聞きながら、手を往復させる。変化をつけるために、親指を使って頬の横を押す。そのまま、親指と人差し指で耳を挟むように耳の周りを刺激してやる。
「ふぁ……スフィーラ……」
　ネコユニはお気に召してくれたみたいだ。なでなで……すり、すり……。
「ん……すり、すり……」
　ネオユニヴァースは、俺の手の動きに合わせて顔を擦りつけてくる。より刺激を欲しているのだろうか……？　指の動きを強めて、頬や首筋などを刺激してみる。
「ふゎ……んん……スフィーラ……スフィーラ……」
　ユニの声が若干だが溶けている。耳を傾けると、ゴロゴロと喉が鳴る音が聴こえてくる。しっかり彼女を気持ちよくさせられているようだ。

　ぺし、ぺし……ぺし……。
　ユニヴァースの尻尾が俺の太腿を叩く。一定のリズムを刻むその尻尾には、リラックスしていることや彼女が感じている心地良さが伝わってくる。
「気持ちいいか？　ユニヴァース」「アファーマティブ……スフィーラ、だよ……とても……」「そっか、良かった……」
　なでなで……。
　静かな時間が流れる。

　ネオユニヴァースを撫で続けてどれほど時が経っただろうか。不意に、脚の上のネオユニヴァースが立ち上がる。
「……？　どうしたんだ、ユニ」
　そのまま、ぴょいと。彼女は脚から飛び降りて床をすたすたと歩き出す。
「トレーナー、“こっち”だよ」
　導かれるままに歩いてみると、ネオユニヴァースはソファーの上に飛び移った。
「トレーナー。“ここ”だよ」「ソファー……？　どういうことなんだ、ユニヴァース」「トレーナー、ここに“着陸”して」
　着陸、とは……？　ひとまず、座ってみる。
「…………ネガティブ」
　どうやら違うらしい。うーん……？　首をかしげる。

「トレーナー、『横になる』を求めるよ」「ソファーで寝ればいいのか？」
　俺のそばでネオユニヴァースはコクリと頷く。言われた通りに横になってみる。とは言っても、ソファーにそれほど横幅が無かった為少々はみ出してしまったのだが。
「“JSTF”だね。その位置だよ」
　横になる俺の邪魔をしないようにソファーの背もたれの上に避難していたネオユニヴァースは、満足そうにこちらを見下ろしていた。
「『失礼』を、するよ」「え……？」
　ネオユニヴァースはそう一言呟くと、ひょいとこちらに飛び乗ってくる。
「う……」「……『重力』は大丈夫？」「……うんまあ、ちょっとびっくりしただけだから、平気だよ」
　ネオユニヴァースは俺の胸の上に飛び移り、ふみふみと肉球で胸の上を踏む。

「“JYVE”……ん……ここが“良い”ね」
　そう言ってネオユニヴァースは俺の胸の上に座り込む。
「あの……ユニヴァース……？」「……トレーナー、ネオユニヴァースは『なでなで』を求めるよ」「あ、ああ……」
　言われた通りに彼女を撫でる。
「“SISR”……。満ち溢れるね……」
　満足そうにネオユニヴァースは目を細める。また、ゴロゴロと喉を鳴らして心地良さそうにする。

　……こうしていると、ネオユニヴァースの熱が胸のあたりから伝わってきて、不思議な感覚になる。
「“熱伝導”……コネクトできてるね。とっても、スフィーラ……」「ああ……」
　彼女の熱を感じながら、ゆっくりと手を動かし撫でる。ゆったりと時間は流れて、その感覚はあやふやになっていく……。
「…………『うとうと』するね」「……寝るのか、ユニ」「…………うん」
　とろんとした彼女の声色を聴きながら、自分のとこにも睡魔がやってくる。
「『おやすみ』……トレーナー……」「ああ、おやすみ、ネオ……」

　そうして、俺とネオユニヴァースは互いの温もりを感じながら、ソファーの上で静かに眠りにつくのであった……。

――――――
　――不意に、重さを感じて脳が少しずつ活性化していく。
　目を開くと、金色の美しい髪が視界に入る……。
「ユニ……？」「……ん、『おはよう』……トレーナー……♪」

　呼びかけに応えるように、ネオユニヴァースがこちらに顔を向ける。
　優しげな、温かな表情をした彼女としばし見つめ合う……。
「……ん、元に戻ったんだな」「アファーマティブ。目覚めたら『元に戻る』をしていたよ」
　そうか、と一言告げて、また押し黙る。

　………………。
　……ネオユニヴァースに抱きつかれながら考える。彼女はいつまでこうしているつもりなのだろうか……？
「……なあ、ユニ。もう元に戻ったんだし、そろそろどいても……」「…………ネガティブ」
　提案は拒否されてしまった。
　…………それならば、仕方ない。このまま、抱かれていようか。

　そっと、彼女を抱き返し頭を優しく撫でる。
「スフィーラ……トレーナー……♪」「ん……」
　そうして、ふたりソファーで横になって互いの熱を感じながら、彼女の本来の重さを感じながら、俺たちは静かにそっと抱き合い続けるのだった……。

おわり