「当たってる……」「え、何が……？」「と、トレーナーさん……当たってます……」
　ヒシミラクルが声を震わせながらスマホの画面をこちらに見せる。そこに写っていたのは宝くじの当選番号。
「この前の、宝くじ……1等じゅ……10億円……当たってました……」
　……え……？
「……えぇーーーっ！？」

　――ヒシミラクルが宝くじを当てた。あのクリスマスの日、何気なく買った宝くじを。ヒシミラクルは当てたのだ。
「……と、いう訳で。買いましょうか、億ション」
　あの日彼女は言った。もし1等が当たったのなら億ションだって買えてしまうと。それはただの夢物語……の筈だったのだが、現実になったのだ。
「当たったら、トレーナーさんと山分けって話でしたけど……億ション、買っちゃって良いですか？　良いですよね？　もう、両親からの許可は貰えましたしー。あとはトレーナーさん次第ですよ？」
「…………よし、やっちゃえ」「……！　はーい！　億ション購入決定ーっ！」
　ぱちぱちぱち。ヒシミラクルは嬉しそうに拍手をする。
「えへへ、じゃあこれから一緒に内見しちゃいましょうか」「え？　これから？」「はい！　実はもう、OK貰える前提で準備しちゃってましてー」
　ふむ、急な話ではあるがまあ良いだろう。そうして俺は彼女の内見についていくことにしたのだった。

「――こちらがリビングになります」「おおー、広ーい！」
　トレセン近くの高級マンションの一室。まだ何も無い広い部屋で俺たちは案内を受ける。
「流石億ションだな……」「外綺麗〜中もぴかぴか〜！」
　寮とは比べ物にならないほど一室が広く、部屋数も多く設備もしっかりしている。文句の付け所がない。先程見せて貰ったマンション内施設もどれも素晴らしい物だった。
「ここに住めちゃうんですよ？　凄くないですか？」「やばいな……」
　ここならトレセン学園も近い。通学も容易で立地としても申し分無いだろう。
「お気に入りましたでしょうか？」「はい！！　とても！！　トレーナーさんも、良いですよね！？」「ああ、百点満点だな！」「ですよね！？　うん、うんっ！」
　ヒシミラクルはテンションが上がっていた。それもそうだろう。俺だって心が踊っているのだ。実際に住む彼女の喜びは計り知れない。
「あのっ！　買います！　ここにします！　良いですよねっ！？　トレーナーさん！？」「ああ！」
　設備は最高。資金も充分。彼女の即決に異議など無かった。

「それではここにサインを」「はい！」
　案内さんが出してくれた書類にヒシミラクルはペンを走らせる。気合の入った彼女の様子を眺めていると、なぜか彼女はこちらを振り返りペンを渡してきた。
「うん？」「ほら、トレーナーさんもサインしてください！」「え、俺のも必要なのか？」「何言ってるんですか！　当然ですよー！」「よく分かんないけど、そっか」
　彼女に言われるがままペンと書類を手に持つ。よく分からないが、同行者のサインも必要なのだろうか。
「おっくションっ♪　せっれっぶ〜♪」
　楽しげに歌うヒシミラクルを尻目に、書類に書かれたヒシミラクルの名の下にサインをするのであった。

　――内見を終えまだ時間があったので俺たちは近くの家具屋を訪れていた。
「ソファー、ソファー……いいですよねー……ゴロゴロできて……うん、やっぱりソファーにはこだわりたいですよねー」「……あんまり良いソファー過ぎると、一日中ソファーに居そうだな」「……そ、そんなことないですよ」
　年がら年中ダラダラと良質なソファーに寝転がるヒシミラクル。想像に難くない。
「そんな自堕落なことしませんから！」
　むーっと怒るヒシミラクルにはいはいと適当な返事を返す。
「……ソファーと来たらテレビは欲しいですね。うん」「テレビは家電屋かな。キッチン周りとか、あと洗濯機とかも必要だし、後でそっちも見ないとだな」「そうですねー」
　店内を適当に歩きながら、良さげな物を見繕う。先程見た部屋を思い出しながら、家具を並べて億ション生活を二人で想像するのは中々に面白い。
「テーブルは広めにしてー、友達呼んでパーティしちゃったりとか？」「大きさを変えられるテーブルもあるみたいだな」「えー、そんなのあるんですか！？　いいですねー」

　想像に華を咲かせているうちにリビングやダイニングに置くものはだいたい見終わってしまった。となると次は部屋に置くものになるが……。
「個室、個室ですかー……棚とデスクは必要ですよねー。……うーん、トレーナーさんならあと他に何買いますー？」
　自分なら……。もし、自分も億ションを買って個室に家具を置くとしたのなら……。何を置くか……。
「……うーん、本棚とか？　あー、あとはオーディオとか置いてもいいかもなー」「なるほどなるほどー。んんー私はどうしよっかな……って、あ……」
　歩いているうちに、ベッドコーナーに辿り着いた。ベッドも置くとしたら部屋だろう。いくつか種類はあるようだがはてさて。
「……あー……その、ベッドは流石に……二つ必要ですかねー……」
　歯切れ悪くヒシミラクルは呟く。
「……うん？　二つも必要か？　ベッドは一つで充分じゃないか？」「…………あっ……そう、ですか……？　あの、その……まあ……トレーナーさんが良いなら、良いですけど……」
　……？　ヒシミラクルは何故か言い淀みながらそっぽを向いてしまった。客人用のベッドでも考えていたのだろうか。しかし、いくら高級マンションとはいえ一人暮らしの部屋にベッドは二つも必要ないだろう。持て余すに決まっている。
「……じゃ、じゃあこういうベッドが良いですかね……？」
　そう言ってヒシミラクルは大きなサイズのベッドを指差す。ふむ、結構場所は取りそうだが、部屋を見た感じスペースは充分確保できるだろう。
「まあ、いいんじゃないか？」「そ、そうですか……」
　――そんなこんなで、家具を一通り見終えた俺たちは購入予定の家具の検討をつけつつ帰路につくのであった。

　――それからしばらくの月日が経って……。
「えへへ、遂に引っ越しですね……！」
　ヒシミラクルの引っ越し当日、マンションの一室にて。彼女の引っ越し荷物が運ばれて来るのを俺たちは見守っていた。
　この幾日彼女の億ション購入に立ち会ってきた身としては、いよいよヒシミラクルが億ション暮らしになるのかと思うと何だか感慨深い物を感じる。本当に、我がことのように胸を踊らせてきた。彼女の億ション暮らしを夢想する日々は非常に楽しいものだった。
「家具屋さんと家電屋さんで買ったものはもう置いてありますから、完全に今もう住めちゃいますよね。えへへ」「あとは自分の部屋の物だけだもんな」
　引っ越し業者がダンボールを運んでくる。中にはヒシミラクルの私物が入っているのだろう。寮暮らしだったのでそんなに数は多くないようだった。
「あ、終わったみたいですね。お疲れさまです、ありがとうございました〜」
　声をかけてきた業者の人にヒシミラクルはそう言って見送る。

　これでいよいよヒシミラクルの億ション暮らしが始まるのだ。
「新生活の始まりだな。頑張れよ、ヒシミラクル！」「もー、なに他人事みたいに言ってるんですか〜トレーナーさんも一緒じゃないですかー！」
　…………うん？
　なんのことを言ってるのだろうか？
「ところで遅いですねー、トレーナーさんの引っ越し屋さん〜」「え？」
　俺の引っ越し屋……？　俺は別に呼んでいないのだが。
「え？　荷物自分で運んで来たんですか？」「……うん？　なんの話をしているんだ？」
　……？　話が上手く噛み合っていないのか、彼女の言ってることの意味がよく分からない。
「いやいやいや、だから、トレーナーさんの引っ越しの話ですよー」「え、俺が？　どこに？」「どこに？　って、ここしか無いでしょー！」「え？　俺が？　ここに？」

　いやいやいや、まさかそんな。
「いやいやいや、何言ってるんですか。トレーナーさんも住むんですよ、ここに」「いやいやいや…………え？」
　え？
「その為にずっと一緒に内見とか書類にサインとかしたんじゃないですかー！」「いやいやいや……え？？」
　確かに、この数週間の間に彼女とともに行動をしてきて、ヒシミラクルに言われるがまま一緒にサインしたりなどもしたが……。え？
「家具も一緒に選んだじゃないですかー！？」
　……確かに、自分のことのようにあーでもないこーでもないとヒシミラクルと一緒に家具を選んだが。……え？
「言ったじゃないですか、1等当たったら山分けだって。一緒に億ションに住もうって」
　……確かに、あのクリスマスの日、一緒に住めますよ、とは言われたが。え……？
「……というか、もう私とトレーナーさんでこの部屋契約しちゃいましたし。トレーナーさんもサインしましたよね？」「………………マジ？」「……マジですよ」

「――――…………」「…………その、今更私を一人にする気ですか？　……こんだけ二人で準備しておいて……？」「…………マジか」「マジですよ」
　じとりと、ヒシミラクルに見つめられる。その後ろには、二人で作り上げた億ションの部屋が広がっている。
「……今更、逃げるなんて……無しですよ……？」「…………ああ」
　……どうやら、腹を括らなければいけないらしい。
「……とりあえず、荷物まとめて帰ってきてください……！」
　そうして俺は引っ越し業者に急いで電話をかけるのであった。

おわり