「……え、スイーツ食べ放題……？」
「ああ、この前のバレンタインデーのお返しにね。スイーツ食べ放題のペアチケット、友達と楽しんでおいで！」
　そう言ってチケットをヒシミラクルに差し出す。ヒシミラクルなら喜んで飛びつくだろうと思ったが、しかし予想に反して彼女は戸惑い気味な反応を返してきた。
「えっ？　ちょちょ、どうしたんですか。いいんですか……？　私に食べ放題チケットなんて渡して」
「んん、まあ……最近は結構頑張ってるしな。一日くらいならまあ、良いんじゃないか？　楽しんできておいで」
　そう彼女に伝えると、ヒシミラクルは困惑顔から徐々に表情が明るくなっていき、目に輝きが浮かび上がる。
「えっ、じゃじゃあ……ホントのホントに良いんですね？？　後で怒ったりしませんよね？？　スイーツ食べ放題楽しんじゃっていいんですね……！？」
「……ああ！　男に二言はない！　友達と青春を楽しんでおいで！」
「やっ……やったー！！　えへ、えへへ……スイーツ食べ放題……♪　しかもこれ、結構評判良いとこのヤツ……！　どうしよ、誰誘おっかな？　ペアチケットだしぃー」
　見るからにテンションが上がっているヒシミラクルを見てなんだか心が温かくなる。喜んでくれて良かった。

　ヒシミラクルは普通の学生ではなく一人のアスリートとして生きる道を選んで、ここまで頑張ってきたのだから。一日くらいはハメを外して、普通の学生の青春を謳歌して欲しいという気持ちもあった。
「ふっふっふーん……♪　スイーツっ♪　食べほーだいっ♪」
　楽しそうに歌うヒシミラクルを笑顔で送り出す。彼女が青春を満喫できますように。俺は彼女の楽しげな背中にそっと祈るのだった……。

――――――
　あれから一週間、そろそろヒシミラクルも友達とスイーツ食べ放題を堪能しただろうかと思っていたところで、暗い表情のヒシミラクルに出くわした。
「………………トレーナーさーん……」
「……どうした、そんな暗い顔をして……」
「………………相手が」「うん……？」
「ペアチケットの相手が！　全然見つからないんですっ！！」「えぇーーっ！？」
　まさか、そんな。彼女には仲の良い友達がけっこういた筈だ。だというのに、どうしてそんなことになってしまったのだろうか……。

「その……なんだかんだでみんな忙しそうで、予定合わなかったり……それに、ペアチケットだからいつもの3人だと1人あぶれちゃうし……」
「なるほど……それで中々決まらなかったのか……」「はい……どうしよう……これじゃあ食べ放題が……」
　……ううむ、これはすごく難しい問題だ。ペアチケットにしたのが失敗だったか……？　いやでも……お友達と楽しんできて欲しかったし……。ううむ…………。

「…………あっ、そうだ」
　突然、ヒシミラクルは声を発する。

「これ、トレーナーさんといけば良いのでは？」「えっ……？」
「だって、元はといえばトレーナーさんがくれたものだし」「それはそうだけど……俺でいいのか？」
「……まあ、そうですね。このままいけないくらいなら全然。それに、トレーナーさんとスイーツ食べ放題もけっこう楽しそうじゃないですか〜♪」
　そう言って、手を合わせてこちらを見るヒシミラクル。その瞳はキラキラと輝いていて……。
「……わかった。いいよ、今度一緒に行こうか」
「やったー！　ありがとうございますっ！　……あ、お小言はナシでお願いしますよ……？」「わかってるって」
　そうして、俺とヒシミラクルはスイーツ食べ放題に行くことになったのだった。

――――――
「わぁ〜！　スイーツいっぱ〜いっ♪」
　ヒシミラクルが幸せそうな表情で並べられたスイーツたちを眺めている。
　どれにしようかな、これにしようかな、とせわしなくスイーツの前をいったりきたりする彼女を微笑ましく見守る。
「これと、これと、あとこれとー……はぁ……ここが天国？」「よかったなヒシミラクル」「えへへ、本当にありがとうございます〜トレーナーさんっ♪」
　そうしてヒシミラクルはいくつものスイーツを皿に乗せ、自分たちの席へと戻っていった。俺もいくつかスイーツを乗せて席に戻る。

「えへへ、いただきまーすっ♪」
　パクり♪
　ヒシミラクルが幸せそうにスイーツを口に頬張る。
「ん〜〜っおいし〜〜♡」
「俺も食べるか。……ん、美味しいなこれ」「ですよねっ！」
　結構良い店だとはプレゼントする前のリサーチで知ってはいたのだが、実際に食べてみるとやはり違った。想像以上の美味しさに舌鼓を打つ。

　一方、ヒシミラクルの方を見てみれば、山盛りのスイーツをしっかりと堪能していた。
「これも美味しいですねっ！　あっこっちも〜♡　えへへ、幸せ〜♡♪」
　パクパクとスイーツを頬張る彼女の、幸せそうな顔をしばらく眺める。
「……？　何見てるんですかー？」
「あっ、いや……その」
「――あっ、わかった！　一口欲しいんですね〜いや〜、これ美味しかったですし、トレーナーさんも気になっちゃいましたっ？　えへへ」
　彼女は早とちりをしてしまってるようだ。
「えっ？　いや、別にそういう訳じゃ……」
「いいんですよ、遠慮なんかしなくても！　ほら、あ〜ん♪」「っ！？」
　ヒシミラクルは、俺に向けてスイーツ付きのフォークをこちらに差し出してきた。しかも、“あーん”までしようとしている。

　……戸惑いつつも、差し出されたものを拒否する訳にはいかないので、彼女のされるがままその差し出されたスイーツを頬張る。
「えへへ、どうです？　美味しいでしょ〜」「……う、うん確かに美味しいな」
　……教え子にあーんして食べさせて貰うのは、果たして許されることなのだろうか。内心頭を抱えていると、不意にスイーツを食べようとする彼女のフォークの手が止まった。
「…………あ、あれ……？　これ、食べたらもしかして間接キス……？　というか、さっき……トレーナーさんにあーんしちゃった……？？」
　ボソボソと何かを呟くヒシミラクル。……どうやら、先程の行いを自覚したらしい。

「あっその……！！　い、いまのはその、なんていうかっ！　いつもの友達のノリでやっちゃったといいますかっ！？」
　慌てて弁明する彼女に、そういうこともあるよな、気にしないで、と返してやる。
「は、はい……」
　すこし顔を赤くして恥ずかしそうにしてるヒシミラクル。その姿を見て、友達といるときの彼女の姿も見て、なんだか心がほんわかと和む。思わずニコニコしてしまう。

「ちょっ、何笑ってるんですかトレーナーさんっ！　も、もうー……」「あはは、ごめん」
　そう笑って謝ってから、俺は自分の皿のスイーツを食べる。ヒシミラクルもスイーツを食べようとしているのだが、その寸前で止まっている。どうしたのだろうかとそちらを見てみると……。
「…………これ、食べたら……トレーナーさんと、間接キス……」
　……何かぼそぼそと俯きながら呟いていた。
「……なんて？」「っ！？　な、なんでもありませんっ！」
　パクっ！　ヒシミラクルがスイーツを頬張る。
「美味しいか？　ヒシミラクル」「………………」
　彼女は何故か俯きながら、そのスイーツを長い時間をかけて味わっているのだった……。

――――――
「今日はとっても楽しかったですっ！　本当にありがとうございました！」
「いやいや、こちらこそ。君が誘ってくれたおかげでとっても楽しめた！　ありがとうヒシミラクル！」
　帰り道、ヒシミラクルが感謝の言葉を伝えてくれた。こちらとしても、青春を楽しんでほしいという本来の目的とは離れてしまったが、ヒシミラクルが俺を選んでくれて、一緒に楽しんでくれて、嬉しかった。

「えへへ、いっぱい食べましたね〜」「そうだなー」
　そう言われて思い出す。あの大量に盛り付けられたスイーツの皿たちを。あの店がウマ娘用の食べ放題店で良かった。本当に。
「トレーナーさんもちゃんと食べました？」
「ああ、お腹いっぱいになるまで堪能しつくしたぞ」
「にしては、私に比べて全然食べて無かったですしー」
「いや、ウマ娘と成人男性を一緒にするな！　あれが一般成人男性の限界なの！」「あははっ冗談ですよ〜♪」
　軽口を飛ばし合いながら帰路につく。

　今日は本当にいい一日になった。ヒシミラクルもそうだったら、いいな。幸せそうに隣を歩く彼女にそっと声をかける。
「なあ」「……なんですか、トレーナーさん……？」
「ヒシミラクル……俺、お前に言わなきゃいけないことがあるんだ」
「…………えっ、あ……えっ……！？　な、なな、なんですかっ……！？　そんな、急に……その、あの……っ！」
「なあ、ヒシミラクル」「っ……ひゃいっ！！」

「…………明日から、プールトレーニングな」
　――何故か全力で蹴られた。解せない。
おわり