　前略、お母ちゃんへ。
　元気にしていますか。私はもちろん元気です！　こっちでの生活にも慣れてきて、私はしっかり寮生活をやっています。
　同室のスズカさんにはいつも良くして貰っていて……おかげで毎日楽しくやれています。
　ところで、お母ちゃん――。

　――同室の子が左回りし過ぎて竜巻になった時って、どうすれば良いんですかぁー！？？
「スペちゃーーーーん！！！」「スズカさーーーん！！！？？」

――――
　轟々と鳴り響く風の音。飛び交う私物。吹き上がる強風。私たちの部屋の中心でうねる小型の竜巻の中には、私の同室で憧れのスズカさんがいた。

「す、スペちゃーん……！」
「スズカさんっ！　いま助け――うわーーっ！」
　スズカさんを助けようと竜巻に飛び込んでみましたが、あっという間に強い風の力で吹き飛ばされてしまいます。
「スペちゃんっ！　大丈夫っ！？」「へ、平気です！　それよりスズカさん！　これどうにか止まれませんか！？」
　竜巻に向かって大きな声で呼びかけます。強風の渦の中で今もスズカさんは左回りを続けていました。
「ごめんなさい……！　これ、全然っ……止められないのっ……！」
　ごうごう。吹き荒れる風の中でスズカさんが叫びます。
「そ、そんな……！　ど、どうしよう……これじゃスズカさんを止められないっ……！」「スペちゃん……」
　そうこうしている間にも、スズカさん竜巻はより一層その勢力を強めていきます。

　ガタガタガタ、バゴンっ！！
「あっ！　窓が！？」
　スズカさん竜巻の強すぎる風のせいで、私たちの部屋の窓は大きな音を立てて吹き飛んでいきました。巻き起こる風が、さっきまで窓があった場所へと勢いよく飛び出していきます。
「スペちゃんっ……！　なんだか、私っ……向こうに引っ張られてっ……！」「す、スズカさんっ……！？」
　スズカさん竜巻はその風の流れに乗って、どんどん外の方へと渦を巻いて進んでいきます。
「ああっ……！」
　ドーーン！
　そうして、スズカさん竜巻は窓から外へと飛び出していきました。
「スズカさーーーんっ！！？」

　外に飛び出していったスズカさん竜巻を追いかける為に私は寮の玄関から急いで飛び出します。
「スズカさーーん！！　大丈夫ですかーーっ！？」
「私は平気よーー！」
　外に出たことで先程よりも勢いを増したスズカさん竜巻が返事をします。竜巻になっているおかげで、スズカさんは窓から外に飛び出しても平気だったみたいです。
　しかし、このままではもっともっとスズカさん竜巻が大きくなって、取り返しがつかなくなってしまいます……！
「どうしよう……！　このままじゃスズカさんが……！」「――これは、まことに荒風ですね」
　スズカさん竜巻の前でどうしようと立ち尽くす私の前に、誰かがやってきます。
「あ、あなたは……！」「ヤマニンゼファー、烈風とともにありましょう」「ゼファーさん！？」
　スズカさん竜巻の風を全身で受けながら、何故か勝負服姿のヤマニンゼファーさんが私の前に立っていました。
「良い風ですね……」「あ、あの……！　ゼファーさん、どうしてここに……！？」「……風に、呼ばれましたので」「えっ、スズカさんが呼んだんですか……！？」「私は知らないわー……！」
　よく分からないけど、ゼファーさんは風に詳しいと聞きます！　もしかしたら、助けてくれるかも……！
「あ、あの……！」「――参りましょう」「……へ？」
　突然、ゼファーさんがスズカさん竜巻に向かって歩き出します。
「あ、危ないですよっ！？　ゼファーさんっ！」「お任せください」
　吹き荒れる豪風にも動じずに、ゼファーさんは静かにそう言ってスズカさん竜巻へと立ち向かいます。
　なんという自信でしょう……！　ゼファーさんはきっと、スズカさん竜巻に立ち向かう方法を分かっているのですね……！

「ふふ、これは……とても……瑞風！　この風はなんとも、素晴らし――あっ」
　ビュォーー！！
　ゼファーさんが、飛びました。竜巻に吹き飛ばされて――。

「ゼファーさんっ！！？」「ふふ、フフフ……なんとも頸風……！　フフフフフっ♪」
　ドーン。
　大きな音を立てて、ゼファーさんは地面に突き刺さりました。
「大丈夫ですかゼファーさんっ！？」「――非常に、良い風でした――」
　満足そうに逆さまで笑うゼファーさん。この人は一体何をしに来たのだろう。
「これは……正しく、“涼花風”ですね」「あの、涼花風って何ですか……？」「風はいつだって気まぐれですから……そこに意味を見出すのも私たちの勝手なのかもしれませんね」
「えっと……？　つまり？」「特に深い意味はありません」「なんなんですかそれ！？」
　ゼファーさんの掴み所のない言葉に翻弄されている間にも、スズカさんは回り続けていました。

「うぅ、スズカさん……っ……一体どうしたら……！」「――東風には南風を」「えっ……？」
　ゼファーさんが呟きます。
「涼風には熱風を……向かい風には追い風を……相対する風を以てすれば、風は交じりあい打ち消し合いやがて凪となるでしょう」「それって……スズカさんみたいに風を起こせば、打ち消しあって、スズカさんを止められる……ってことですか……？」「ええ」
　ゼファーさんは真っ直ぐこちらを向いて頷きます。なるほど……風には、風を……！　スズカさん竜巻を止めるなら、私自身も竜巻になるしか……！
「……わかりました……！　私、やってみます！」
　決意を固めて一歩前に出る。そして、スズカさんのように一心不乱に左回りを始めます。
「――風に、なるのです……！」「はぁぁあああっ……！」
　グルグルと回り続けるうちに、空気がどんどんと渦を巻いていきます。これなら……！
「スペちゃん……！」「見ていてください！　これが、私の……！　日本一の竜巻です！」
　渦は勢いを増して風を産み、そうして私は大きな竜巻になりました。
「行きますっ……！　スズカさん！」「スペちゃん！！」「はぁぁあああ！！」
　トレセン学園に巻き起こった二つの竜巻。その大きな風が、ぶつかります……！
「スペちゃーーんっ！！」「スズカさーーーんっ！！」
　風が風を切り、渦が呑み込まれる。そうして竜巻は交じり合い、一つとなって、その中心のスズカさんと触れ合う……！
「スズカさん！」「スペちゃん！」

「――……すみません、風を起こす時は逆回りで、と言うのを失念していました」「――へ？」
　こうして左回りをする私とスズカさんはより一層大きな一つの竜巻となってトレセン学園中を荒らしまわるのでした。
おわり