「ただいま帰りましたわ」
　日が傾く時間に寮の自室に戻り、同室のイクノさんに帰宅の挨拶。しかし返事はなく、部屋はいつもよりがらんとしていました。

「……イクノさん、まだ帰っていらっしゃらないのでしょうか？」
　ふと部屋を見渡すと、なんだかいつもより綺麗に片付けられているように思えます。当然、私もイクノさんも散らかしっぱなしにするようなことはしませんが、それでもいつもより部屋の中が整っているように思えました。
「……イクノさんが掃除をしてくださったみたいですわね」
　キチンと片付けられた部屋を見渡し、後でイクノさんにお礼を言わなければと心の中で思う。それにしても、キチンと整えられている。流石はイクノさんですわね……。

「机の上のものまでしっかりと整理されてい――んん……！？」
　私の机の上に置かれているものを見て動きが止まります。こ、これは……。どうしてコレがこんな所にありますの……！？　は、早くしまわなければ……。
「ああ、マックイーンさん。おかえりなさい」
「ひゃぁ！？」
「！？　どうかなされましたか、マックイーンさん……！？」

　突然背後から声を掛けられ心臓が跳ねる。急いで振り向くと、心配そうにこちらを見るイクノさんがいました。
「あ、そ……その、おかえりなさいですわイクノさん」
「はい、ただいま戻りました。……その、大丈夫ですか？」
「お、お気遣いなく……！　ただちょっとびっくりしただけですので……」
「そうですか、すみません驚かせてしまって」
　イクノさんと向かい合いながら、少しずつ机の方へと移動する。……い、イクノさんに何か言われてしまう前に机の上の“モノ”をしまわなくては……！

「ああ、マックイーンさん。それ、ベッドの下に落ちてましたよ」
「っ！？」
　身体がビクリと跳ねる。
「あ、あの……これは、その……！」
「不思議な形の機械ですよね。これは一体……？」
　イクノさんの問いかけに喉が詰まる。……幸い、コレが何か分かっていらっしゃらないようですし……う、上手く誤魔化さなければなりませんわ……！
「こ、これは……その…………そう、健康器具ですわ！」
「……健康器具、ですか……？　マッサージ器みたいなことでしょうか」
　……何をしているんですの私は……！　これでは誤魔化せていないも同然ですわ……！？

「マッサージですか……これをどう使うのでしょう？　タコのような脚が先についていますが……」
「そ、その……頭とか尻尾とかに当ててほぐして貰うといいますか……そ、そんな感じですわ」
「なるほど、すこし前にメタルシャワーなるものが流行っていましたが、それみたいなものなんですね」
　ご、誤魔化せたでしょうか……？　いえ、なにかもうほとんど自白してしまっているような気もしますが……。

「ふむ……」
　興味深そうにその“マッサージ器”を見つめるイクノさん。……どうやら誤魔化せたみたいですわね……。一時はどうなることかと思いましたが……。
「……試しに使ってみても？」
「へっ！？　え、ええ！　勿論ですわ！」
　……な、何を言ってるんですの私は！？　不意をついて出た許可の言葉に頷き、イクノさんが頭にマッサージ器を当てる。
「ふむ……このような感じでしょうか……？」
　器具の突起を頭に差し込みいくらか往復させるイクノさん。
「……ふむ？　すこし刺激はありますが……あまりマッサージと呼べるほどのものではない気もしますが……」
「……その、スイッチを押して電源を入れて使うのですわ」
「ああ、なるほど。これですね」
　不思議そうにマッサージ器とにらめっこをするイクノさんに思わず助言してしまう。

　ブルルル……。
「わ、震えるのですね。なるほど……これを頭に差し込むと」
　そう言って、好奇心半分という表情でおそるおそるマッサージ器を頭に当てるイクノさん。しっかりと突起に差し込まれるとイクノさんの表情が変わる。
「ふぁ……っ……な、なるほどこれは確かに……マッサージになりますね……」
　目を細めて頭部の刺激に耐えるイクノさん。刺激が心地よいのか、イクノさんの手がマッサージ器を自然と動かし頭部をマッサージしていますわ。
「……っ、ふぅ……ん……この震える刺激がちょうど良いですね。ほぐされるようで……んっ……なかなか……」
「き、気に入って貰えたのなら良かったですわ」

「……そういえば、尻尾に当てるとも言っていましたね。ふむ……どのような感じなのでしょう」
「えっ」
　イクノさんはそう言って、おもむろにマッサージ器を尻尾に当てる。
「んんっ！」
「イクノさんっ……！？」
　マッサージ器の突起に尻尾を差し込むと、イクノさんの身体がピクっと跳ねる。
「こ、これは……中々の刺激ですね……んっ」
　イクノさんの美しい尻尾を私のマッサージ器具が襲い震わせる。
「だ、だめですわイクノさん……！」
「え、だ……ダメなのですか……？　刺激にもだいぶ慣れてきたのですが……」
「そ、そうですの……？」
「はい、ん……揉まれほぐされる感じで中々、心地よいですね」
　平気そうな顔でマッサージ器の刺激を楽しむイクノさん。
　良かったですわ……尻尾に使われたときはどうしたらと思いましたが……。このまま普通にマッサージしてくださればそのまま誤魔化し通せそうですわね……。

「……そういえば、この他のボタンは何でしょう……？　押してみましょうか」
「――え？」
　止める間もなく、イクノさんがマッサージ器のボタンを押す。

　ヴィイインン！
　マッサージ器が激しい音を立てて震える。
「っ♡♡　はっ――♡？♡」
「イクノさん！？」
「んンっ♡♡　ぁっ……！？♡」
　急いでイクノさんに駆け寄り停止ボタンを押す。
「だ、大丈夫ですの、イクノさん……！？」
「――は、はっ……♡　……っ……？　な、なんですかいまのは……っ……？？」
　イクノさんがすこし蕩けた表情で宙を見つめる。これは……ま、マズイですわ……。

「これは、一体……っ……？」
「え、えっとそれは、そ、その……」
「あ、あんな……そ、その……強い刺激をされるものなのですか……？　び、ビックリしました……」
　……どうしましょう……！？　これでは言い訳できなくなってしまいますわ……！？
「…………そ、その、それは普段使ってませんのよ？　ただのマッサージですから……！　こんな、刺激が強すぎるものなんて、ええ、全然……！　使ってませんよ？？」
「な、なるほど……マックイーンさんが避けている理由も分かります……あれは、とても……その……刺激が強かったので……」
　むしろそちらの方しか……とは口が裂けても言えませんわ……。

「…………その」
「な、なんでしょうイクノさん……？」
「もう一度試してみても……？」
「は、はしたないですわっイクノさん……！」
「えっはしたないんてすか……！？」
「あ、いえ……そんなことは……な、なんでも無いですわ！」
　思わずついて出た言葉を誤魔化します。
「それでは……もう一度試してみても……？」
「……あっ、その……はい好きなだけ良いですわ」
　カチっ。ヴィイイン！
「はっぁ♡♡　んんぅ……っ♡」
　イクノさんが目の前で甘い声をあげる。わ、私は一体どのような気持ちでこれを見ていればいいんですの……？
「〜〜っ……♡　し、刺激がつよすぎて……これは……んんぅっ♡」
　蕩けた表情で尻尾を刺激するイクノさん。声は上擦っていて、何とも蠱惑的で……。

　かちり。イクノさんが自らボタンを押してマッサージ器を止める。
「……っ……♡　ふ、ふぅ……っぁ……♡　……こ、これはやはり……長時間の使用には耐えられそうにもありませんね……」
「……最強マッサージモードですので、当然ですわね……」
「なるほど……おそろしいですね、最強マッサージモード……」
　荒い息を整えてイクノさんが呟く。
「あ、あの……そろそろ返していただいても……」
「……！　これは失礼いたしました……はい、どうぞ」
　そう言って、マッサージ器を手渡される。…………これが、さっきまでイクノさんの尻尾に……。って、何を考えてるんですの私は……！？
「……その。私てっきり、なにかいかがわしいものかと思っていました。ベッドの下の奥の方にあったので」
「そ、そそそそそんなことはありませんわ！？」
「ええ、実際に使ってみて、ただのマッサージ器具だと分かりました。……その、最強モードは幾らか……だいぶ、刺激的でしたが……」
「そ、そそ、そうですわよね！　正真正銘ただのマッサージ器具ですわ！」
　図星を突かれて声が震えつつ、なんとか誤魔化しますの。
「そ、それではこれは片付けておきますわね……！？」
「ええ。はい、どうぞ」

　な、なんとか誤魔化し通せましたわ……！　後半だいぶ……だいぶ怪しかった気もしますけれど、何とかイクノさんには誤魔化せましたわ……！
「……あ、そうだマックイーンさん」
「ひゃい！？」
　突然声をかけられて振り返ると、すこし顔を赤らめながらイクノさんが言葉を続ける。
「…………その、また今度、挑戦してもよろしいですか？　最強マッサージモード」
「………………はい、どうぞご自由にお使いくださいまし」
　……断ることもできず、私はただイクノさんの言葉にどうぞと返すことしかできませんでした。

おわり