　ある朝俺はマーベラスを拾った。
「マーベラース☆」
　その生き物は、マーベラスと鳴いていた。見た目はマーベラスの顔にそっくり。饅頭のような、スライムのような、顔だけのマーベラス。そんな謎の生き物を俺は拾った。

「マーベラース☆★☆」
「……どこからどう見ても、マーベラスだよな……」
　その生き物はマーベラスとしか鳴こうとしないが、見た目は完全にマーベラスサンデーである。
「キミは、マーベラスサンデーなのか……？」
「マーベラース！」
　マーベラスが跳ねる。どうやらこの謎の生き物はマーベラスサンデーらしい。
「どうしてこんな姿になってしまったんだ……？」
「マーベラース？」
　マーベラスは身体を右に左に揺らしながら鳴く。不思議がってるみたいな仕草である。
「……とりあえず、心当たりのある子たちを探ってみるか」
　こんな不思議な事柄を起こしそうな、あるいは分かりそうなウマ娘には何人か心当たりがあった。とりあえずこのマーベラスを連れて訪ねてみよう。
「行くぞ、マーベラス」
「マーベラース☆★」
　マーベラスを抱きかかえる。……モチモチとしていて本当に饅頭のようだ。そうして俺たちはマーベラスを元に戻す為に歩き出すのであった――。

「――で、私のところに訪ねてきた、と？」
　目の前の白衣を着たウマ娘が聞き返す。ここはアグネスタキオンの実験室。訪ねた相手は当然アグネスタキオンである。
「ふぅむ、心外だねぇ。まるで私がキテレツ怪奇な現象の全ての元凶みたいな言い草じゃあないか」
　違うのだろうか。
「マーベラース？」
　日々怪しげな実験を繰り返し、よく分からない薬品を生み出すマッドサイエンティスト。それが彼女の全てだとは言わないが、それが彼女のパブリックイメージであった。
「……否定をするつもりは無いがね。でも、そう真正面から言われると少し困ってしまうよ」

「マーベラス☆★」
「……で、マーベラスがこんな姿になってしまったんだけど、心当たりはある？」
　腕で抱えていたマーベラスをアグネスタキオンに差し出すように見せつける。
「ふぅむ……」
　アグネスタキオンはマジマジとマーベラスを観察していた。が、すぐに首を横に振った。
「あいにく、心当たりは無いねぇ……そもそも、私の薬でどうにかなるレベルを超えていないかい？　ウマ娘一人をこんな謎生物に変えるなんて」
「えっ？」
　アグネスタキオンの薬ならこれくらいの芸当はできると思っていたが。
「私の薬は便利で万能な舞台装置だとでも言いたいのかい？　君は。私はあくまでマッドサイエンティスト、科学の範疇を越えることはできないさ」
　本当にそうなのだろうか。半信半疑になりながらもこの件に彼女は関わっていないというので一応納得する。

「わかった、ありがとう。突然訪ねて悪かったね」
「……まぁ、こういう時に真っ先に疑われる人間なのは自分でも理解しているよ。気にしないでくれたまえ。……ところで、その不思議な生き物、私にちょーっと調べさせて貰えないかい？」
　途端に目の色を変えこちらににじり寄るアグネスタキオン。
「マベッ！？　マママママーベラッ！？」
「駄目だよ。マーベラスも怖がってるみたいだしね」
「……ふぅん、そうかい。それなら仕方ない今回は諦めるとしよう」
　怖がるマーベラスをギュッと抱きかかえる。アグネスタキオンも渋々ではあったが納得してくれたようでよかった。

「それじゃ、次の心当たりありそうな子のとこに行ってくるよ」
　……とはいいつつも、次の候補はこの部屋の本来の持ち主であるのだが。
「カフェのところに行くのかい？　そろそろこっちにやってくるんじゃないかな？」
「そうなのか、でもどうして？」
「マベ？」
「コーヒーだよ。朝の1杯を嗜むためにね」
　なるほど……。
　俺たちはマンハッタンカフェがこの部屋に来るのを待つことにした――。

「――なるほど、大体の事情は把握しました。ですが、霊的な何かは感じられませんね……でも、なにか……異質な気はしますね」
　霊の仕業ではないと分かったが、異質とは……？
「マーベラース？」
「何でしょう……ゆｻﾞｻﾞｯとうつｻﾞｻﾞｯの狭間のような……？」
　……幻聴だろうか、ノイズが急に走って彼女がなにを言っていたのかよく聞き取れなかった。
　……だけど、とりあえず霊的なものではないと分かったので次の心当たりを当たってみる。
　最後の心当たりのあるウマ娘……すこし不思議なあのウマ娘ならばきっと……。
　そうして俺たちは学園の屋上へと向かうのだった。

「――ピっピピ……」
　SFウマ娘のネオユニヴァースは屋上で何かと交信をひていた。
「……あの、ちょっといいかな」
「……『突然の来訪』、ネオユニヴァースになにか用……？」
「実は……」
　そうして、俺はネオユニヴァースにこれまでの経緯を話した。
「事態はネオユニヴァースの“衛星軌道に入った” ね。……その“UMA”に『接触』してもいい？」
「わかった、いいよ」
「マーベラス☆」

　そうしてネオユニヴァースはマーベラスを抱えるとおでこ同士をくっつけた。……何かを読み解こうとしているのだろうか……。
「――ん、『わかった』よ」
「本当か？　よかった！　どうすれば元に戻るか教えてくれないか？」
「……ソレは、“RMSL”の産物。『アースアルファ』の存在だね」
　…………なるほど。まったくわからん。
　よくネオユニヴァースのトレーナーはこれを理解できるものだ。

「マーベラース☆」
「『マーベラース』」
　……マーベラスとユニが共鳴している。俺はそのすこし不思議な光景を眺めていた。
「……それで、元に戻せるの？」
「ネガティブ。“同位体”に“UNDO”は『存在しない』ね」
「そっか……よくわからないけど、ありがとうネオユニヴァース」
　彼女にお礼を言ってその場を立ち去る。……しかし、困ってしまった。このままではマーベラスサンデーを元に戻すことができない……。
　もう、心当たりのある人物には全て訪ねてしまった……。どうしたものかと頭を抱える。

「マーベラース？」
　マーベラスがこちらを見つめていた。
「マママ、マーベラース☆★☆」
　これは……励ましてくれているのだろうか。
　やはり、この子はマーベラスサンデーだ。彼女の優しさにすこし目頭か熱くなる。
「そう、だよな……！　諦めちゃいけないよな！　俺、頑張るよ！　キミを元に戻す為に！！」
　マーベラスに励まされ、気合が満ち溢れる。
　絶対に諦めてなるものか！　さあ、マーベラスの為に頑張るぞ……！！

「――あれ、トレーナー。トレーナーだ☆★　んんんん〜〜〜おっはよ〜〜☆★☆　マーベラース★☆★」
　………………目を疑った。
「あれ、どうしたの？　どうしたの！？　トレーナーが抱えてるソレ！　アタシみたい☆★　未知との遭遇っ☆★☆　マーベラースっ☆★☆★☆」
　マーベラスが、ふたりいる……！？
　……えっというか、目の前に本物のマーベラスがいるんだったら、この……謎の生き物は……？？

「マーベラス☆★」
「〜〜〜っ！　あなた、マーベラスって鳴くんだねっ☆　それじゃあアタシも……マーベラース☆★☆」
「マーベラース★☆★」
『マーベラース☆★☆★☆』
　意味がわからない、マーベラスが分裂した。いや、この生き物はそもそもマーベラスじゃなかったのか？
　頭を抱えている間にも、マーベラスの輪唱は続いた。
「せーのっ！　マーベラース☆★☆」「マーベラースっ★☆★」「マーベラース★★★」「マーベラス☆☆☆」

　……ん？　なんか、いまやけに鳴き声が多くなかったか？
ふと、あたりを見渡すと、そこには――。

　――大量のマーベラスな生き物がいた。
　その生き物は跳ねる、鳴く、揺れる、転がる。
　無数に増えたマーベラスサンデーが輪唱する。
『『『マーーーベラーーース☆★☆★☆』』』
　そこで俺の脳はマーベラスの許容限界を越えて気絶したのであった――。

――――――
　………………目が覚める。今のは……そうか、夢……か。
　何とも形容し難い、摩訶不思議な夢を見たものだ……。まだ眠気の残る頭のまま、コーヒーでも飲むか……と起き上がろうとした……その時。

「…………マーベラース……」「！？」
　小さくはあったがハッキリと聴こえた、あの夢の中で何度も聴いたあの言葉が。
　恐る恐る、声のした方――ベッドの中を覗き込む。
　頼むから、あの謎生き物が夢から出てこないことを祈りながら……。
　……そうして、ベッドの毛布をめくると、そこには――。

　――――ただのウマ娘のマーベラスサンデーがいた。

　……なんだ、良かった。夢は夢のままだった。そうして俺はホッとしてコーヒーを淹れに行く。
　良かった、本当に良かった。あの謎生物がいたらどうしようかと思ったけど。本当に良かったな。
　心の底から安心しながらコーヒーを一口飲む。
　すこし苦い目覚めのコーヒーが頭をクリアにしていく。今日は散々な夢を見たが、良い一日になりそうだ。
　そうして俺はモーニングコーヒーを飲み干すのであった。

　――……あれ、そういえば……なんで、マーベラスが俺の部屋で寝てるんだ……？
「んんん〜〜〜っ！　マーベラーースっ☆★☆」

おわり