　目が覚めると俺はふわふわのぬいぐるみになっていた。身体を動かすことはあまりできないが、どうにか辺りを見渡すとそこはトレーナー室であった。
　何故か無人のトレーナー室で俺はふわふわのぬいぐるみになってしまったのだ。

「……ちょっといいかしら？」
　暫くどうしたものかと考えていた所に、アヤベがトレーナー室にやってきた。俺に用があったみたいだが、俺はぬいぐるみになっているのでどうにもしようがなかった。
「…………いないみたいね……また出直して……って、これは……？」
　アヤベの視線の先には、ぬいぐるみになった俺がいた。
「……あなた――」
　ドキリ。呼ばれただけで心臓が跳ねる。ぬいぐるみの目ではあるが、彼女と目があっている。緊張しながら見つめ合ってると、アヤベはこちらに近づいて、そして――。

「さわ、さわさわ……ふむ……」
　アヤベに触られている。少しこそばゆいような気持ちになりながらも身体は強張っていた。
「…………むぎゅ」
　……！？
　突然、身体全体をアヤベに抱きしめられる。
「これは……なかなか……。……不思議ね……良いふわふわではあるけれど、それだけでは無くて……なぜかこうしていると落ち着くような……？」
　ふわふわぬいぐるみになった俺を抱きしめながら、彼女はブツブツと何かを呟いている。

「…………あなた……何者？」
　真剣な眼差しでぬいぐるみの俺に問いかけるアヤベ。……たまに、トンチキなことするよなアヤベって。
「……まあ、いいわ。今回のところはあなたのふわふわに免じて、あなたの正体は探らないでおいてあげるわ」
　…………ぬいぐるみ相手に何をやってるのだろうか、彼女は。
「もふもふ……ん……ふわふわ……ぎゅ……」
　アヤベにもみくちゃにされながら、これからどうしようか考える。考えるのだが――。
「ぎゅぅ……よしよし、ふふ、あなたは良い子ね……ん、むぎゅぅ……」
　……アヤベの身体の感触をふわふわ越しに感じて、思考が上手くまとまらない。仕方ない……考えてもこの状況をどうにかする術が見つかるとも思えない。もうなるようになれだ。

「ん……」
　アヤベが、俺を抱えたままソファーに向かって、そのまま寝転ぶ。そうして、ぎゅっと俺を胸に抱く。
「ふわふわ……ふわふわね……それにやっぱり、不思議と安心感も……心が満たされるような、特別な充足感がこのふわふわにはあるようね」
　何が彼女をそこまで夢中にさせるのかはわからない。……わからないが、それで彼女がリラックスしてくれるのなら、いくらでも抱かれよう、と思った。
「ふふっ……不思議な気分ね……ふわふわで、安心して……どうしてこんなにも、このぬいぐるみは安心するのかしら……？」
　それは……俺にもわからない。このふわふわぬいぐるみのどこが特別なのか、まるで検討も付かない。

「……そういえば、匂いがどうこうって話を前に聞いたわね……匂いが関係してるとしたら……」
「すーぅ………………ん……？　…………はぁー……」
　ぬいぐるみの身体を思いっきりアヤベに吸われる。そんな匂いで何かが変わるのだろうか……？
「…………どうして、あなた。あの人の匂いがするの？」
「え……？」
　ばふん。
　少しの煙と音とともに自分の身体が元に戻る。

「………………」
「………………」
　……まずい、この体勢は……。変身が解けたことで、まるでソファーでアヤベを押し倒したかのような体勢になってしまった。
「……あっ、その……す、すまん！　今どくか――」
「――やっぱり、あのぬいぐるみの正体はあなただったのね」
　慌てる俺とは対照的に、アヤベは動じることはなく、まるで最初から分かりきっていたかのような態度をしていた。
「……あのふわふわから、あなたの匂いがしたもの。だからすぐに理解できたわ」
「そう、なのか…………で、そろそろ俺はどこうと思うのだけれど……」
「ダメよ」「…………え？」

「もうふわふわでは無くなったのは惜しいけれど、あなたを抱いたときの安心感はまだ味わえるわ」
　そう言って、彼女はぎゅっと俺の身体を抱きしめた。
「……！？」
「……不思議な安心感も、タネが分かってしまえばなんてことはなかったわね……」
「……それってどういう……？」
「………………」
　その問いかけに彼女が答えることはなく、ただそっとアヤベは俺の背中に回した腕にぎゅっと力を込めるのであった。

おわり