「げほっ……ごほっごほ」
　トレーナー寮の自室でひとり、咳をする。
「うぅん……はぁ……」
　額には既にほどよく熱を吸い温められてしまった水タオル。止まらない咳と節々の痛みと非常に重い倦怠感。俺は重たい風邪に罹ってしまった。
　もう既に学園には連絡をしてあるし、担当のネオユニヴァースには自主練かもしくは休みで良いと伝えてあった。

「流石に……キツいな……」
　背筋が凍るような悪寒と、うだるような身体の熱と、止まらない汗。頭がクラクラとして水分を欲するが……身体は言うことを効かず、どうにか水道水を飲むので精一杯。
　本来ならスポドリか経口補水液を飲むべきなのだが、手元にはなく……買いに行くこともできない。ただただ、今はこの苦しみを耐えていくしかない……。

　終わらない風邪症状による責苦にうなっていると……。
『3……2……1――』
　どこかから、見知った声のカウントダウンが始まる。
「ぅぇ……？」

　パッ。
　突然部屋に光が満ちる。そして、その光の中から……。

「――『コネクト』したよ。トレーナー」

　担当のネオユニヴァースが現れた。
「……！？　ゆ、ユニヴァース……！？」
「座標は“トレーナーの部屋”。到着したね」
「えっ……！？　なっ……っ……！　だ、駄目だろこんなとこに来ちゃ！？」
　ユニヴァースが突然現れたことに最初は驚いたが、それはいつものことなので良いとして……。だがそれよりも、今この部屋に担当が来てしまったことの方に反応してしまう。
「……なにか、“不都合”？」
「……げほっ……げほ、げほっ……！　っ……！　は、早く出ていって……っ！　風邪が君にうつっちゃうから……！」

「……それなら、『問題はない』よ。だからトレーナーに……“GIVU”」
　そう言って、ネオユニヴァースが袋を差し出す。
　――これは……。
「“経口補水液”と『冷えピタ』だよ」
「……あ、ありがとう……わ、ゼリー飲料まである……」
「トレーナーが“発熱”したから、必要なモノを『届ける』をするよ」

　そう、か……ユニヴァースは俺の為に……。身体が弱ってるからだろうか……その優しさが、あまりにも沁みて……すこし、涙が出てしまった。
「……？　大丈夫……？」
「……いや、いや……うん……大丈夫だよ……ありがとう、ありがとうね……ユニヴァース」
「ふふ……トレーナーを『助ける』ができて、よかった……スフィーラ」

　ユニヴァースから貰った経口補水液を飲み、ふぅと息を吐く……。
「トレーナー、美味しい……？」
「……なんか、不思議と美味しい気がする……」
　そういえば聞いたことがある。こういう飲み物は具合が悪い時ほど美味しく感じるとか……。
「そう……よかった」
　嬉しそうに微笑むユニヴァース。今は、なんだか女神のように思える。

「トレーナー。熱探査をするよ」
「えっ？」
　ぴた。
　ユニヴァースが額のタオルをどけて手のひらを当てる。
　ひんやり、と彼女の肌の冷たい感触が額から伝わる。
「…………101°F。かなり“高い”ね……」
　そう言って、ユニヴァースは心配そうにこちらを見やる。彼女の使う華氏はよく分からないが……多分、平熱よりずっと高いのだろう。ネオユニヴァースの体温がとてもひんやりしていて、気持ちよさを感じるのだから。

「……『ひんやり』が、良い？」
「……うん、そうかも……」
「それじゃあ……『冷えピタ』だね」
　そう言って、ユニヴァースは冷えピタを取り出し額につけてくれる。
「っあ……冷たい……」
「大丈夫……？」
「うん……冷たくて気持ちいいよ……すこし楽になったかも」
「そう……よかった……♪」

　おでこの冷たさにだいぶ救われながら、ベッドで横になる……。そうしてるうちに、額が冷たい分、身体の熱さの方に意識が向いてしまう。
「……トレーナー、カラダ……熱い……？」
「う、うん……」
「それじゃあ……『失礼』するよ」
「……！？」
　そう言って、ユニヴァースが上着を脱ぎだす。
「ネオ！？　何をしてっ……！？」
「『大丈夫』……そのままにしてて」
　そう言って彼女はどんどんと服を脱いでいき……下着姿になってしまった。
「――！？　ネオ……！？」
　ばっと下着姿のネオユニヴァースから目を背ける。
「……大丈夫。今、向かうね」
　そう言うと、だんだんとユニがこちらに近づいてくるのを気配で感じて……。

　ふぁさ……モゾモゾ……。
「っ！？」
「『お邪魔します』だね……♪」
　ネオユニヴァースが、ベッドの中に入ってくる。
「な、なにをして……！」
「――トレーナー。“こっち”を向いて……？」
　彼女の優しげな声でそう呼ばれ、その声に導かれるまま……そっとネオユニヴァースの方へと身体を向けると……。

「ん、トレーナー……♪」
「っぁ……ちょ、ちょっと……近い」
「『大丈夫』だよ。ん……ぎゅ」
「……！？」
　ネオユニヴァースは、大丈夫だとこちらに言うとおもむろに抱きついてきた。

　ひんやり。
　身体を彼女と密着しているおかげで、彼女の冷たく心地よい体温を全身で感じる。
「ぅあ……」
「……『ひんやり』している？　『心地よい』？」
「……あ、ああ……すごく、心地いい……」
　彼女の冷たい体温が、とてもとても心地よい。身体を蝕んでいたうだるような熱が、彼女の体温で溶かされていく……。

「――このまま、『ずっと抱き合う』をしよう」
「………………」
　彼女のその献身的な提案は、病に侵された心身に深く届いた。
「……ああ……お願い、するよ……ずっとこのまま……」
「ふふ、アファーマティブ。それじゃあ『このまま』ずっと――」

　そうして、俺は担当のひんやりとした体温を感じながら、この身体の熱が冷めるまで……ネオユニヴァースと抱き合い続けるのだった……。
おわり