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「……何してるんだ、ユニ……？」「『シグナル』だよ」
　担当であるネオユニヴァースは、俺の背後に回ると突然背中をつつきだした。
　俺の背中を指でなぞったり、つついたり。規則があるのかないのか分からないが、一定の間隔で刻まれたそれは、確かにシグナルのようであった。

「つーつーつーとんつー。つーとんつーとんとん」
　また、ユニヴァースが背中に信号を送る。
「……もしかして、モールス信号……？」
「……！　アファーマティブ」
　なるほど、彼女が発しているサインはモールス信号だったのか。
　…………。
　……いや、そうだと分かっても……モールス信号の知識が無い自分では、彼女の発したシグナルを解読できない。しかも背中に突然描かれたのだ。記憶できる筈もない。

「…………ごめん、なんて書いたの……？」
「……“受信”に失敗した？　……でも、“送信”はできた。だからネオユニヴァースは『満足』しているよ」
「えっと……つまり……？」
「『ないしょ』、だね」
　彼女がいたずらっぽく微笑む。
「そっか……」
「……これからも『シグナル』を、送り続けるよ。トレーナー」
　そうしてその日から、ネオユニヴァースは俺の背中にモールス信号を定期的に送るようになるのだった――。

――――――
「――ということがあってさ」
　トレセン学園のカフェテリア。俺は一緒にお茶をしていたマルゼンスキーのトレーナーに事の顛末を話す。

「へー、モールス信号か。なんかロマンチックでいいな」
「うーん……ロマンチック、なのかぁ……？　なんかずっと、楽しそうに背中を小突いて来るんだぜ？」
　ふふっ、と笑いながら背中をつつくユニヴァースを幻視する。本人は楽しそうだから良いけど……なんか、なんだろう。どうすれば良いのか毎回反応に困る。
「かわいいじゃないか」
「いやまあ……うちのユニヴァースは世界一かわいいけども……」
「おー、言うねえ」
　マルトレがからかってくる。

「うーん……それにしても、どうしたものか」
「んんー……？　ユニちゃんは好きでやってるんだろ？　別に悪いことしてる訳でもないんだし放置すれば良いんじゃない？」
「いや、こう……俺もモールス信号ちゃんと覚えた方が良いかな……って」
　流石に、こうもずっとずっと背中に信号を刻まれていると、その信号の意味を理解しようとしないでいるのは何だか悪い気がして……。
「う〜ん、まあそれも良いけど……本人は一方通行でも楽しくやれてるんだろ？　だったら、敢えて知らないままにするのも良いんじゃないか？」

　彼からの意外な提案にえっ、と声が漏れる。
「それまたどうして……」
「いやあ、ロマンチックじゃん。一方通行で伝わらないユニちゃんのメッセージ。それでもずっと、ずっと、送り続ける……それも１つの愛じゃないか？」
「なるほど……とりあえず、君が随分なロマンチストなのはわかった」
　そういえば、彼と担当のマルゼンスキーのやりとりがまるでトレンディドラマのようであったことを思い出す。
「……うーん、相談相手間違えたかなぁ……？」
「おいおい、そんなヒドいこと言わないでくれよ〜。こっちはちゃんとアドバイスしたんだからな？」
「ごめんごめん」

「……それにしても。……モールス信号、覚えるべきか、否か………」
「――うん？　どうしたんだ、モールス信号の話なんかして」
　うわ。光り輝くナニカが突然こちらに話しかけてきた。
「おー、今日はまた一段と輝いてるね、タキオンのトレーナーくん」
　アグネスタキオンとトレーナー契約を交わした変人。それがこの発光体である。
「あはは、まあね。んで、どうしたんだ？」
「……いや、その……俺の担当が最近ずっとモールス信号を背中づてで発信してて……」
「へー、そうなのか」
「うーん、だからモールス信号……覚えるべきか、否か……」
　そうやって悩んでいるとおもむろに、アグネスタキオンのトレーナーがこちらにサムズアップしながら発光した。
「俺はモールス信号使えるぞ、ほら！」
　そう言って発光体もといタキトレは点滅を始める。

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　点滅を何度も何度も一定感覚で繰り返す。
「――ほら、な？」
「いや何が、な？　だよ何しに来たんだお前」
「へー、そっか光の点滅でもモールス信号って打てるんだな……」
　マルトレが感心しているが、俺としては眩しいだけの隠し芸としか思えなかったのだが……。
「……光の点滅、かぁ…………。……あ、そういえば」
　マルトレが不意に声をあげる。
「どうしたんだ？　急に」
「俺、モールス信号されてたかも。担当に」
「えっなにそれ」
　マルゼンスキーがモールス信号を……？　そんなイメージは全くないのだが……。

「えっ、どうやって……？　というかどんな場面なの」
「いやあ、彼女とドライブに出かけた帰りとかにな？　トレセン前まで送ってくれて……。それで、マルゼンスキーの運転するタッちゃんが走り去っていくのを暫く見送ってるんだが……」
「ほう……？」
「その時に必ず、見える位置でブレーキランプを５回点滅させるんだよ」
　ふむ。その言葉で考える……なるほど、点滅には何か意味がありそうだ。でもしかし、それはモールス信号ではないのでは……？
「点滅５回で表せる言葉なんてせいぜい一文字ニ文字くらいだが……」
　タキトレも同じ見解のようだ。
「うーん、なんなんだろうなアレ。マルゼンスキーに聞いてもはぐらかしてくるし」
「うちも似たようなもんだよ。『ないしょ』とかかわいいこと言って教えてくれないんだ」

『うーーん。なんだろうなあ……』
　そうして二人で唸る。
「マルトレの方は置いておくとして……ま、とりあえず。軽く覚えたら？　モールス信号。手伝うよ？　点滅で」
「いや、普通に教えてくれ」
「はは、ジョークだよ」
　冗談であることを強調するかのように、いい感じに発光するタキトレ。今更だけどこいつ自在に点滅できるのなんかおかしくない？

　――それはそれとして、俺はタキトレからモールス信号についてをみっちりと教わるのであった。
　……たまに実演とか言って発光されつつ。

――――――
　なんとかモールス信号をマスターした俺は、ネオユニヴァースが背中にモールス信号を送ってくれることを待っていた。

「トレーナー……“来た”よ」
　いつも通りの様子のネオユニヴァース。しかし、こちらは違う。いつでも、彼女の『シグナル』を受け取る準備はできていた。
　ネオユニヴァースが俺の背中に回る。そうして、指が背中に近づくのを感じながら……。
　ネオユニヴァースの『シグナル』を受け取るのだった。

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「……じゃあ今日はお返し」
「……？　今度はトレーナーが『シグナル』を……？」
「ああ、信号は双方向。そうだろう？」
「アファーマティブ……。……その、トレーナーは“受信”できた……？」
　問いかけるユニヴァースの背中に回り込んで、そっと指先を彼女の背中に当てる。そうして――。

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　ーー

　ネオユニヴァースの背中に、『シグナル』を発信するのであった。
おわり