　ある日の休日の午後。買い物を済ませ駅前を歩いていると――。

「……うーん……食べたいなあクレープ……でも今月厳しいし……」
　担当のヒシミラクルが、クレープ屋の前で何やら悩んでいるようだった。
「でもでも〜クレープ食べたいなあ……けどカロリーも気になるしぃ〜……うーーん」
「……こんなとこでどうしたんだ？　ヒシミラクル」
「……！？　わひゃあ、びっくりした！　って、トレーナーさんじゃないですか」
　気になって声をかけてみたところ、後ろから声をかけたからか驚かれてしまった。

「トレーナーさんもお出かけですか？」
「まあ、ちょっとね。買い物したくて」
　そう言って手に持っていた袋をヒシミラクルに見せる。
「んで、ヒシミラクルはこんなとこで何してるんだ？」
「あー、えっと……クレープ買おうかどうしようか悩んでいまして……」
　そんな感じのことを言っていたのでなんとなく察してはいたが……それにしても、ヒシミラクルがスイーツを前にして悩むのは少し意外だった。
「……それ、どういう意味ですか？　まるで私がスイーツに目がないみたいじゃないですか。私だって、ちゃんと考えてるんですよ？　カロリーのこととか、お小遣いのこととか」
　ジトりとした目を向けられてごめんごめんと軽く謝る。しかし、クレープか……そういえば最近食べていなかったな……。

「……それじゃ、俺が買おうか？　クレープ」
「えっ」
　久しぶりにクレープを食べたくなったので、ヒシミラクルにそう提案する。
「えっ、クレープ奢ってくれるんですかトレーナーさん……！？」
「ん、いいよ。俺もクレープ食べたくなったし」
「トレーナーさんでもクレープ食べたくなることあるんですね？」
　俺のことを何だと思っているのだろうか。
「え〜、なんか悪いような……でもでも、せっかくだし？　食べ歩いて一緒に帰るのも？　悪くないような？」
「遠慮しないで良いから。ほら、選びな」
　そう言うと、ヒシミラクルの顔がぱあっと明るくなる。
「わ〜い♪　トレーナーさん太っ腹〜えへへ、それじゃあお言葉に甘えて……んんん〜どれにしよっかなぁ」
　ウキウキとクレープの食品サンプルを眺めるヒシミラクル。彼女にならって、俺もクレープのメニューを眺める。

　……ふむ、定番はチョコバナナクレープだろうか。生クリームとチョコの甘さこそクレープの醍醐味だろう。しかし、和風なあずきの優しい甘さも魅力的ではある。
　あるいは、おかず系のクレープも良さそうだ。クレープ生地の甘さとしょっぱい具材が丁度良くてこれが中々美味しい。ううむ……悩みどころではあるが……。
「ん〜、悩むけど〜……私もクレープ久々だしー、定番のチョコバナナにしましょうかねー。トレーナーさんはどうしますー？」
「うーん……やっぱクレープは甘い系かな。ヒシミラクルがチョコバナナなら、俺はこの白玉あずきにしようかな」
「お〜、和ですねー！　あずきも美味しそうですよねー」
「じゃあ注文するな」

　そうして、俺はクレープ屋でチョコバナナクレープと白玉あずきクレープを注文する。会計を終え待っていると、クレープを焼く甘い匂いが漂ってきた。
「うーん、この甘い生地の匂いが良いんですよね〜」
「だなー。クレープ屋に来たって感じするなぁ」
「トレーナーさんは、前はクレープよく食べてた感じですか？」
「うーん？　まあそこまでかな。気が向いた時に食べるぐらいで。そういうヒシミラクルは、……割と食べてそうだな」
　クレープを美味しそうに食べ歩きしているヒシミラクルの図はよく浮かぶ。
「まあ、割と食べてる方ですけど……というか、クレープが好きじゃない女子はいないでしょー」
　それは過言、とも言い切れないか。クレープは人気のスイーツだ。食べ歩きにも適している。たまによく、駅前でクレープを食べている学生を見かけるし、駅前のこのクレープ屋に列ができてるのも珍しいことではない。

「チョコバナナクレープと白玉あずきクレープのお客様〜」
「あ、呼ばれてますよトレーナーさん！」
「はーい」
　そうして、ヒシミラクルと俺はクレープを受け取った。
「トレーナーさんはこれから帰りですよね？　一緒に食べ歩きできますねー」
「そうだな」
　俺とヒシミラクルはクレープを片手にトレセン学園と向かい歩き出す。手の中のクレープは出来たてで、まだほんのりと温かい。

「えへへ、それじゃあ早速いただきましょうか」
「ああ。出来たての内に食べないとな。いただきます」
「いただきます〜♪」
　クレープの頭の方をあむ、と食べる。生クリームとモチモチのクレープ生地を頬張ると、口の中にふわりと甘さが広がっていく。
「んん〜、美味しい〜♡」
「ん、久々のクレープやっぱりうまいな」
　次はあずきとクリームを一緒に食べる。
「おぉ……あずき美味……和クレープもありだな」
「良いですねえ♪　んん〜私はチョコ〜♪　むふふ、やっぱり王道のチョコソースと生クリームは絶品ですね〜」
　ヒシミラクルは幸せそうにクレープを頬張る。チョコバナナクレープ。王道であるということは、それだけ普遍的な美味しさがあるということ。王道を侮るなかれ、だ。

「ん〜♡　美味しい〜♪」
　あむ、あむとクレープを食べ進めるヒシミラクル。こんなにも美味しそうに幸せそうにクレープを食べてくれるのは、買った甲斐があるというものだ。
　……夢中で食べてるせいで、ほっぺにクリームがついているが。
「……ヒシミラクル、クリームついてるぞ」
「えっ！　どこですか」
　わわ、と慌ててヒシミラクルが口元を手で触る。……だが、ほっぺのクリームには中々辿りつかない。仕方がないので、指でそっとクリームを取ってあげる。
「……！」
「はい、取ったよ」
「あ、ありがとうございます」
　ほっぺにクリームをつけたヒシミラクルの姿はよく似合っていたが、それはそれとして。指に乗ったクリームをヒシミラクルに見せて声をかける。すると、ヒシミラクルが不意に――。
「あむ」
「……！？」
　俺の指を生クリームごとぱくりと食べた。
　ヒシミラクルの唇の感触を指先に感じて思考が停止する。

「……んっ、よし」
　ヒシミラクルが俺の指を離す。指先に生クリームはついていなかった。……というか、何もよしでは無いが。何をしてるんだこの子は。
「……あの、ヒシミラクル？」
「…………？　…………ぁ」
　突然のヒシミラクルの行動に驚いて固まっていると、不思議そうにこちらを見るヒシミラクル。しばし静止した俺の指を見つめて、それから声を上げる。

「……あ、あの……トレーナーさん……？　えっと、い、今のはその……」
　目を泳がせ言葉を濁すヒシミラクル。ようやく今自分がしたことを理解したのだろうか。
「えっと……その、ついやってしまったと言いますか……勿体ないなーって思って食べちゃっただけで、そのー……」
　声が段々と小さくなっていき、顔が赤くなっていくヒシミラクルに、こちらも言葉を選んでしまう。
「ま、まあ……その、そういうのは分かってるというか……うん。……あれだ。忘れよう」
「…………はい、お願いします……」
　気まずい空気が流れながら目を合わせることなく俺たちは歩いていく……。……無意識の行動というのは怖いな。うん。

「うぅ〜私のバカ〜……」
　先程までクリームのついていた頬を赤く染めて、気を紛らわすようにヒシミラクルがクレープをあむあむと食べる。
　……とりあえず、俺もクレープを食べるか。ヘタに何か声をかけてもあれだったので、無視して白玉あずきクレープを食べる。
「あむ……あむ」
　ヒシミラクルも黙々とチョコバナナクレープを食べていた。

「……ん、これ。白玉モチモチしてて美味しいな。あずきの優しい甘さとよくマッチしてるし。うま」
「えぇー……良いですね、美味しそう」
　味の感想を呟くとヒシミラクルがこちらをちらりと見る。こちらというか、俺のクレープを。
「良いなあ……」
　…………。ちらちらと、俺のクレープに視線を向けるヒシミラクル。……物欲しげな表情のヒシミラクル。……仕方ない。

「……一口食べるか？」
「……えっ、良いんですか？」
「いいよ、別に。一口くらい。というかずっと羨ましそうに見てたし、お前」
「えー、見てないですよー」
　見ていた。思いっきり見ていた。
　それはともかくとして、ヒシミラクルの方へと自分のクレープを向ける。
「……それじゃあお言葉に甘えて。あーむっ」
　俺のクレープをあむりと頬張るヒシミラクル。
「んん、……ん〜！　ほんとだ、モチモチ……！」
「だろー」
「うま、美味しいですねこれ……！　あずきとクリームもあまうま〜♪　……白玉あずき、次来たら買おうかな」
　ヒシミラクルが舌鼓をうってる間に、俺もクレープを食べる。うむ、やはり美味しい。
「え〜美味しいー♪　良いチョイスしてますねトレーナーさん」
「ははは、だろ？」
「あっ、じゃあ今度は私のクレープ一口あげますね。お返しに」
　ヒシミラクルがそう提案する。確かに、チョコバナナは俺も選ぼうか悩んでいた。せっかくなのでヒシミラクルから一口貰うことにしよう。

「はい、トレーナーさん♪」
　ヒシミラクルが俺の方へとクレープを向ける。…………これ、自分でやってるときは何とも思わなかったけど、ちょっと恥ずかしくないか……？

「……トレーナーさん？」
「あ、ああ。じゃあいただくな」
　ヒシミラクルに促されて、ええいとクレープを食べる。なんか、友達同士みたいなことしてるけど……まあ良い。気にしないようにしよう。

「どうですかー？　チョコバナナクレープのお味は」
「ん、美味いな。やっぱチョコバナナだな、クレープといえば。美味いはやっぱ」
「ですよねー！　いやぁ、やっぱチョコバナナクレープしか勝たん！　的な？」
　チョコの甘さと生クリームの甘さが際立つヒシミラクルのクレープ。まさにクレープという味に、俺も舌鼓をうつ。
「あむあむ。ん〜♪　美味し〜♡」
「だな〜」
「ん〜幸せ〜♡」
　ふたりでクレープを食べ歩く。ゆっくりとのんびりと、クレープを堪能する。ただの帰り道がクレープで彩られる。まさに至福の時間であった。

　――そんなこんなで、トレセン学園も見えて来た。
「ん〜、ごちそうさま〜♪」
　ヒシミラクルがクレープを食べ終わり、俺も残った白玉あずいクレープをぱくりと食べ切る。
「美味しかったな、クレープ」
「そうですね！　えへへ、トレーナーさんのお陰ですね〜ありがとうございますー」
　俺としては、あんなにも幸せそうにクレープを食べてくれたのだ。それだけで充分であった。
「えへ、得しちゃったな〜クレープ、最高〜」
「あはは、買って良かったよ。俺も久々のクレープ最高だった」
「うんうん、やっぱクレープしか勝たん〜」
　ふんふんと鼻唄交じりに歩くヒシミラクル。喜んで貰えたようで何よりだ。

「えへへ、トレーナーさん最高〜クレープ最高〜ふんふんー♪」
「調子が良いんだから。……それじゃ、クレープ食べた訳だし……」
「うんうん、なんですかー？」
「明日はトレーニングしっかりめにやって貰おうかな」
「……え？」
　俺がそう告げると、ヒシミラクルはぴしりと固まる。

「……だって言ってただろヒシミラクル。カロリーがどうとか」
「うっ……それはー、そうですけどー」
「クレープの分は、明日取り戻そうなヒシミラクル！」
「うう〜〜！　……が、頑張りま〜す」
　渋々という表情をしながらも、ヒシミラクルはそう応える。ヒシミラクルは頑張れる娘だ。きっとしっかりトレーニングをやってくれるだろう。
　とまあ、そんなヒシミラクルを見ながらも。また気が向いたらクレープを奢ってやろうかな、と。俺はそう思うのだった。

おわり