　う……うーん……。

　真っ暗の視界。柔らかな感触。
　おぼろげだった意識が徐々に戻ってきて、暗闇に光が差し込む。

「……トレーナーさん……♪」
　聴き慣れた声が静かにそっと響く。ふんわりと甘い匂いが脳を刺激して、まぶたがゆっくりと持ち上がる。

「ぅ……ぁ……ここは……？」
「……ふふ、おはようございますトレーナーさん……♪」
　差し込む明かりに眩しさを感じながらボヤけた視界のピントを合わせると、そこにいたのはアストンマーチャンであった。
「……マーチャン……？」
「はい、アストンマーチャンですよ……♪」
　アストンマーチャンがこちらに顔を覗かせる。しばらくぼんやりとアストンマーチャンの顔を眺めていたが、後頭部を優しく受け止める柔らかな感触にハッとして頭を起こす。

「ご、ごめん……！　マーチャン！」
「もう、トレーナーさんはせっかちさんですね。良いんですよ、もっとゆっくり寝てください……♪」
　そう言われても……！
　後頭部の柔らかな感触。それはアストンマーチャンの太ももであった。俺はいつの間にか、彼女に膝まくらされていたのだ。

「ほら、トレーナーさん……♪」
　アストンマーチャンが起き上がった頭をそっと抑えて膝に押し戻す。
「もっとゆっくりしてくださいね……？　頑張り屋さんのトレーナーさんはマーちゃんのおひざでぽやぽやするのです……♪」
「ぅぁ……、……んん……」
　彼女の柔らかな太ももが後頭部を優しく受け止める。ふにゅりと沈み込んだ頭が、彼女の太ももの柔らかな感触が、脳を溶かす。それに加えて、こんなに近くでアストンマーチャンを感じているからだろうか、彼女の甘い匂いがほんのりと香り意識が曖昧になる。

「よし……よし……♪」
「……ぅ……ぁ……マーチャン……」
「はい、あなたのマーちゃんですよ〜……♪」
　彼女の手のひらで優しく髪を撫でられる。
　頭の中が幸福感で満たされながら、ぼんやりと考える……どうして俺はマーチャンに膝まくらをされているのだろうか……？

「……覚えていませんか……？　ずっとマーちゃんの為に頑張ってて、働き詰めだったトレーナーさんは、マーちゃんの前でフラフラ〜ってしちゃったんですよ……？」

　……そう言われて思い出す。そういえば昨日は徹夜していて、今日もずっと仕事に追われていて……。それで、トレーナー室でアストンマーチャンを迎えたら、急に意識が遠のいて……。

「バタン。……ってトレーナーさんが倒れてしまったからさあタイヘン。マーちゃんはトレーナーさんを何度も呼びましたが、帰ってくるのはう〜んって声だけ。なのでマーちゃんは頑張って、トレーナーさんをソファーまで引っ張って、そうして膝まくらをしてトレーナーさんの目が覚めるのを待っていたのです」
　アストンマーチャンが、俺が倒れてからの様子を教えてくれる。
「…………そっか……心配掛けさせちゃったな……」
「そうです。いっぱい心配しました。……なので、もう無理はしないでください。ちゃんといっぱいお休みしてください。マーちゃんはスーパーマスコットなので、休む時はしっかり休んでますよ？　トレーナーさんもしっかり休んでくださいね」
「そうだな……ごめん、これからはちゃんと休むようにするよ……ありがとう、マーチャン」
「はい、どーいたしましてです……♪」

　…………なで、なで……。ふに、ふに……。

　アストンマーチャンの太ももの柔らかさを感じながら、膝まくらされる。優しくそっと、彼女に撫でられる。
　それが、未だ疲労の残る身体にすっと染み渡り、心が満たされる……。

「ふふ、気持ちいいですか……？　トレーナーさん……♪」
「ああ……とても、良いよ……」
「それは良かったです……♪　好きなだけ、マーちゃんのおひざを独り占めしてくださいね。今だけは、トレーナーさんだけのおひざ、トレーナーさんだけのマーちゃんですから……♪」
　彼女の溶けるような声が、柔らかな太ももが、優しい手のひらが、甘い匂いが……意識をほぐしていく……。
　ぼんやりと薄れゆく意識の中で、満たされていく幸福感の中で、彼女の声が響く……。

「……ふふ、おやすみですか……？　どうか、いい夢を見てくださいね……♪　とってもステキなマーちゃんの夢を見て、いっぱい癒やされてくださいね……♪」
「…………あぁ……」
「……おやすみなさい、トレーナーさん……♪」
「…………うん……おやすみ、マーチャン…………」

　そうして意識は溶けていく……。あまい、あまい……マーチャンの中へと――。

「――良き夢を……♪　おやすみなさい、トレーナーさん……♪」
おわり