　キミが居なくなったレースは、なんだか大きな穴が空いたみたいで――。
　僕は今も、キミの影を追っている。……情けない話だけど、僕は……キミが忘れられない。
　キミが誰よりも、時代のスターだったことを……僕は知っている。

「有馬記念のファンファーレです！」

　僕はまた、このレースに来た。キミが引退した、このレースに。僕は走り続ける。キミが居なくても、ずっと。

「やあ、シュヴァル！　今日もともに、最高のセッションを奏でようじゃないかぁ！」
「あ、アースさん。……はい、良いレースにしましょう」

　アースさんが、僕に話しかける。キミが居なくなってからも、僕らは走り続けてるよ。アースさんも、それから、彼女も……。

「あっシュヴァルさん！　ご機嫌よう♪」

　サトノダイヤモンド。キミの親友も、走ってる。

「うん、今日はよろしく」
「ブラヴィッシモ！　やあダイヤ。君とまた演奏ができて嬉しいよ！」
「アースさん……！　はいっ、私もです！」

　レース前だけど、楽しそうに笑い合う二人。
　彼女たちも、うん。僕の戦友だ。一緒にレースを走る、キミの後を追って、キミを追い越そうと、より輝いてやろうと、そう願って、走る。仲間で、ライバルだ。

　キミが居なくなった後も、僕らは、走ってるよ。

「そういえば、アースさん……今日が、引退レース……なんですよね……」
「……ああ、そうだね。私の楽譜にもそろそろ、フィーネを打たなければならない。……私だって、観客のアンコールには応えたいさ。けれど、曲に終わりがあるように、レースにゴールがあるように、私という長い長い楽譜にもピリオドは必要だ」
「……アースさん……」
「……でも、だからこそ……――相応しいフィナーレを、飾らせて貰うよ」

　サウンズオブアースさん。僕たちよりも少し先輩で、誰よりも長くレースを走って、見届けてきた偉大なウマ娘……。
　アースさんも、また……終わろうとしている。……1年前のキミと一緒だ。

　……キミの『引き際』は、『スターの引き際』は、見事だった。
　完敗だったよ。ああ、勝てない、って。悔しいって。……でも、それと同時に良かった、と思った。キミが勝ってくれて。
　……不思議だね、僕はあんなにキミが憎たらしくて、悔しくて、疎ましくて……なのに、僕はこんなにもキミが大好きで――。

「……アースさん」
「ん……？　なんだい、シュヴァル」
「…………良いレースにしましょう。去年よりももっとずっと、良いレースを。去年のあの『スターの引き際』を、塗り替えるような。そんなレースに、しましょう……僕らで」
「……ふふ。ああ……！　ともに奏でようじゃないか、至高のアンサンブルを……！！」

「――……夢中にさせるからね、私が」

　――……アースさんの声は、本気だった。

「……わ、私だって……！　あのレースを忘れさせてやるくらい、本気のレース、見せます……っ！」
「ああ、一緒にやろう。僕らで」

　……アイツに、キミに。負けないって。越してやるんだって。
　僕らの蹄跡を、残してやるんだ。

「――さて出走者がゲートに入ります」

「……それじゃ、行こう」
「ああ」
「はい……！」

　……もう、言葉なんて要らない。後は、この脚で。走りで、刻みつける。見せつけてやるんだ。

「さあ最後に一番外枠サクラアンプルールの枠入りを待ちます」

　だから、見ていてくれ。僕らの走りを。

「待ちきれない待ちきれないドリームレース、第63回グランプリ有馬記念」

　僕の走りを。キミに見せつけてやるから。キミを……越えるから。
　だから……。

「――スタートしました！！」

　キミには負けない。

『はぁぁぁぁぁぁ！！』

　キタサンブラック。

おわり