「いやぁ〜温泉気持ちよかったですね〜」
「そうだな」
　未だ身体を火照らせながらマチカネタンホイザと宿の一室に戻る。今日はマチカネタンホイザと泊りがけの温泉旅行に来ていた。

「ぽかぽか〜ぽかぽか〜ぽかぽかマンボ♪」
　しっとりとした髪を揺らしてマチカネタンホイザはご機嫌に歌う。うん、温泉を楽しんで貰えたようで何よりだ。
「ふんふん〜♪」
　鼻歌を歌いながら、マチカネタンホイザはゆったりと椅子に座りくつろぐ。時間はそろそろ12時ほど。俺の部屋でゆっくりとくつろいでいるが、マチカネタンホイザは自分の部屋に戻らなくて良いのだろうか。

「……え、部屋に戻らないのか、ですか？」
「そろそろ良い時間だろ？」
「あー……まあ、そうですね〜」
　マチカネタンホイザは時計をチラリと見て、それからむむむと声を漏らす。
「……でも、もうちょっとだけ……一緒に居てもいいですか……？」
　チラリとこちらの顔を伺って、マチカネタンホイザは問いかける。
「…………まあ、ちょっとだけなら」
「……！　わーいっ♪　やった……♪」

「ふんふんふん〜♪　トレーナーと〜いっしょ〜♪」
　ルンルン気分のマチカネタンホイザを尻目に冷蔵庫を開ける。中にはよく冷えたコーラやジュースが入っていて、折角だからとそれらを取り出す。

「んん〜？　お、ジュースですかっ！」
「飲むか？」
「はいっ！」
　ならばグラスが必要だろうと棚から取り出し、彼女の前に並べる。

「トレーナー！　ストップって言うまで入れてくださいっ」
「えっ？　わ、わかった」
　彼女に促されるまま、グラスにジュースを注いでいく。
　とくとくとく……。

「ん〜ぅ、まだまだぁ……」
　とくとくとく……。

「あともうちょっとぉ……」
　とくとく……。

「……！　ストップっ！」
　たぷん。
　マチカネタンホイザの声で傾けていたジュースを引き上げる。グラスにはなみなみとジュースが注がれていた。
「じゃあ今度はトレーナーのジュースの番ですね！」
「いや、自分で注げるけど……」
「いえいえ！　遠慮なさらずっ！　はい、注いでいきますよ〜」
　とっとっとっ……。
　空のグラスにジュースが注がれていく。たぷたぷと水面が跳ね、かさが増していく。

「おっとっとっとー」
「まぁまぁまぁ〜」

　そうこうしている内にグラスはギリギリいっぱいになりかけ。マチカネタンホイザにもう注がなくて大丈夫だと伝える。
「……んっ、ありがとう」
「はいっ！　よしよし〜それじゃあそれじゃあ〜」
　マチカネタンホイザが自分のグラスを持ってこちらに近づける。……ふむ、なるほど。ならばこちらもグラスを持って……。

「はい、乾杯〜♪」
「ん、乾杯」
　チンっ。水面を揺らしながらグラスがぶつかり綺麗な音が響く。そのままの勢いでグラスを口に運びジュースを味わう。
「ん〜〜っ……！　ぷは〜♪」
「ん、ごくごく」
「いやぁ、湯上がりに冷たいジュースは沁みますね！」
「ははは、そうだな。でもちょっと爺臭くないか？」
「えーっ！　そんなことは無いですよ〜！」
　二人で椅子でくつろぎ、ジュースで喉を潤す。ゆったりとした時間。のんびりとした時間。
　……彼女は退屈していないだろうか。そう思ってチラリとマチカネタンホイザを見ると、彼女はこちらをじっと見て、何やらえへへと笑っていた。

「……どうしたんだ？」
「……ぇっ？　あっ……あはは〜いえいえ、お気になさらず！」
　……お気になさらずとは言われても、そう見つめられると気になってしまうのだが……。ただまあ、何だか楽しそうではあるので放っておくか……。

　ごくごくごく。
　グラスに残ったジュースをぐいと飲んでグラスを置く。マチカネタンホイザも、ぐびぐびとジュースを飲み干そうとしていた。
「ぷはぁ〜♪　ん〜、美味しかった〜」
　グラスを置いて、マチカネタンホイザは満足そうに声を上げる。時刻を見ると、もう12時を少し過ぎたところ。キリが良いだろうと椅子から立ち上がり、自分の分とタンホイザの分のグラスを流しに持っていく。

「あれ、もうおしまいですか……？」
「時間も時間だろ？　君も早く部屋に戻りな」
「えー……その、もうちょっとだけ、もうちょっとだけで良いんで……！」
　……とは言っても、あまり夜更しするのは良くない。いつまでも付き合っていたら、それこそ彼女に夜更しをさせてしまうことになるだろう。だとするのならば……。

「……良いけど、俺はそろそろ寝るぞ？」
　自分が先に寝てしまえば、マチカネタンホイザもいずれは諦めて戻ってくれるだろう。そう考えて彼女に告げる。
「……わかりました、じゃあトレーナーさんはお布団に入ってて良いですよー」
　思ったよりも物分かりが良かった。諦めがついたのだろうか、と思いながら、ではお言葉に甘えてと布団の方へと向かう。

「じゃあ、先に寝てるから電気とか消しておいて」
「……はーい」
　旅館の人に敷いて貰った布団をめくり、その中に身体を入れる。布団の中に入れば、ぬくぬくと温かさに包まれ、はぁ……と息を吐く。
　それなりに良い布団だろうか。とても寝心地が良く、すぐにでも眠れそうだと感じる。

「………………」
「………………」

　ピッ。
　突然、電子音が鳴って部屋が暗くなる。マチカネタンホイザが、電気を消したようだ。
　ふむ、これは諦めて帰ってくれるようだ。明日はチェックアウトだし、早めに帰って寝てくれるのが一番。そう思いながら、彼女が声をかけてくるのを待った。
　おやすみなさい、と言われたらいつでも、ああおやすみと返せるように。

「………………」
「………………」

　……しかし、いくら待てどもマチカネタンホイザは何も言ってこない。少し変だなとは思いつつも、まあ良いかと暗くなった視界に誘われるようにやって来た睡魔にうつつを抜かしている、と――。

「…………」

　もぞもぞ。

「ん……？」

　もぞもぞ、ぎゅ…。

「んんっ……！？」
「…………♪」

　布団が動く音がして、何かがこちらの布団に潜り込んでくる。それに驚き一瞬反応ができなくなっていると、何者かが自分の身体に手を回してぎゅっと抱きついてきた。
　……いや、何者か、は分かっていた。マチカネタンホイザだ。だがしかし、何故このようなことをしているのかが、分からない。

「ふふっ……♡」
「あ、あの……タンホイザ……？」
「えへへ、捕まえちゃいました……♡」
　捕まえた……って。
　これは、凄くマズい状況ではないか……？

　ぎゅぅ。背後から伸びる彼女の腕にぎゅっと力が籠もる。ふんわりとマチカネタンホイザの、彼女の甘い匂いが漂ってきて、意識が削がれる。
　このままでは良くない、そう思って声を上げようとするも、彼女はそれを許さないというようにぎゅっと力を籠めて抱きしめてくる。

「……トレーナー、背中おっきい……♡」
　彼女の囁くような甘い声が、脳を刺激する。ダメだ、このままでは――。
　意を決して振り返り、背後に潜り込んだマチカネタンホイザと向き合う。
「悪ふざけはやめて、早く自分の部屋に戻りなさ――」

　――ちゅっ。

「……！？」
「…………♡　……これでも、まだ……悪ふざけだって思います……？」

　何をされたのだ、俺は。俺はマチカネタンホイザに……。いや、いや……分かっている、分かってはいるが、現実を未だ受け入れられない。この娘は何をして……。

「ん〜……ちゅっ……♡」
「んんっ……！？」
　ぎゅぅ……♡
　マチカネタンホイザの二度目のキス。そして、真正面から抱きつかれる。これは、これは……。

「トレーナー……？　私の気持ち、分かってくれました？」
「いや、でも……」
「じゃあ、もっと教えてあげますね？」
「えっ」

　ちゅっ、ちゅ。ちゅっちゅ。

　何度も何度も、彼女の唇が自分の唇に重なる。
「ぅっ……ぁ……」
「んちゅ……♡」
　ぎゅーっ。
　マチカネタンホイザがむぎゅっと抱きついてくる。そしてそのまま顔を埋めてくる。未だ混乱する頭で状況を理解しようとしていると、マチカネタンホイザが顔を埋めたまま、話しかけてくる。

「…………トレーナー……私、まだ帰りたくないんです。だから……一緒に居ても良いですか……？」
「そ、それは……」
　ダメだ。そう言わなければいけない筈なのに、彼女の消え入りそうな声色を聞くと、その言葉が出てこない。

　……ああ……俺は、この娘に……マチカネタンホイザに敵わないのだろう……。そう思いながら、そっと……彼女の肩を抱き寄せる。

「……ぁっ」
「……今は、一緒に寝るだけだぞ」
「…………えへ」
　ぐりぐり。マチカネタンホイザが俺の胸に顔を押し付け抱きついてくる。
「……トレーナーは、優しいなぁ」

「……おやすみ、タンホイザ」
「…………はい……♡」

　そうして、俺たちは一つの布団で抱き合って、ともに眠りにつくのであった。

「…………大好きですよ、トレーナー」

おわり