　俺はトレセン学園のトレーナー。担当バであるヤマニンゼファーを探して学園内を歩いていたところ、アグネスタキオンと担当であるヤマニンゼファーの怪しげな取引現場を目撃してしまった――。

――――――
「……ここに居たのか、ゼファー」
「……瓢風ですね。どうかなされましたか……？」
　トレーナー室でヤマニンゼファーと出会う。
　先の取引を見て何か良からぬことを企んでいるのでは……？　と思い追ってみたのだが、これは――。

「……なあ、何かまた変なことはしてないか？」
「……いえ、そのようなことは」
　……なるほど、その言葉の通り。特別変わった所はなさそうだ。いつも通りの格好、いつも通りの様子のヤマニンゼファーが目の前にはいた。

　……なんだ、ただの取り越し苦労か。そう言って伏せ目がちに溜め息を一つ吐いた、ところで――。

「…………なあ、ゼファー……？」
「……はい、なんでしょう……？」

「……その、床に落ちてる物はなんだ……？」
　そう言って、床の上に丁寧に畳まれた――衣類を、指差す。
「まあ、服ですね」
「……誰の」
「勿論、私のですね」

「…………ゼファー、今服はどうしてる」
「着ていますよ？　ほら、この通り」
　ヤマニンゼファーはくるりと回る。そう言われて見てみれば、なるほど確かに服を着ているようだが……。

「ええ、しっかりとそう見えている筈です。何せ全身をタキオンさん製のホログラムで覆っていますので」
「………………は？」
　ホログラム、とは……あのホログラムだろうか。
「……つまり、なんだ。本来無い筈のものを、あるように見せているということか……？」
「ええ、そうなりますね……」

　……なるほどなるほど。つまりは――。

「服着てないじゃん！？」
「いえ、ホログラムを着ています」
「服着てないじゃん！？？」
「ホログラムを着ています」
　頑なにその事実を認めないゼファー。
「……じゃあそこに落ちてるのは？」
「私の衣類ですね」
「……その、丁寧に畳まれてる白いレースの物は……？」
「私の下着ですね」

「…………アウト！！」
「ホログラムを着てるので、セーフです」
「アウトだよ！」
　声を荒げてゼファーに突っ込む俺。毎度のことながら、この娘は何をやっているのだ。

「……では、全身で風を感じてきます」
「ちょい待て、行くな！」
　ガシっ。彼女の歩みを止めようと彼女の腕を掴む。
　すると――。

「あっ……」
「っ！？」
　ブゥん、と異様な音を立てて彼女の服が揺らめく。一瞬、彼女の白い素肌が見えた、気がした。
「おわぁっ！」
「まあ……」
　ヤマニンゼファーは特に気にする様子もなく、スタスタと歩いていく……。
　その背中を、どうにかして追いかけて行くのだった……。

――――
「あはははは……！　ああ、なんと風が心地よいのでしょう！」
　ヤマニンゼファーはターフの上で心底楽しそうに笑いながら芝生を駆けていた。
　彼女には……何が何でも風を感じたいという悪癖があった。冬なのに半袖で走ろうとしたり……あるいは今のように、服など邪魔だと言わんばかりの行動を取ったり。

「ふふっ……！　あはははは……♪」
　今の彼女は、全身で風を感じていた。余すとこなく、その全てを以ってして、風と一つになっていた。
　それはとても彼女にとって幸せなことなのだろう。しかし、それがどれだけ不健全なことであるか。トレーナーとして、指導者としては止めたい所なのだが……。

「ああ、トレーナーさん……！　私は今、誠の風となっています……！！　ふふっあはははは！」
　この俺に、彼女を止める術など……無かった。

「ふっ……ふうっ……はぁはぁ……。……ふふっ……♪」
　コースを何周かして、ヤマニンゼファーが戻ってきた。その額に玉汗を浮かべながら、とても満足そうな表情をするゼファー。

「……風は、感じられたか？」
「ええ、それはもう……！　胸が高鳴って、嗚呼……吹きすさぶ野分のような心地です……！」
「そう……それは、良かったな……」
　少し遠い目をしながら、彼女の心底幸せそうな表情に言葉を送る。

「……ふふ、トレーナーさん。分かりますか？　私の胸の高鳴りが……！」
「！？？」
　むにゅり。ヤマニンゼファーは俺の手を掴むと、心臓の音を聞かせるように心臓の位置へと俺の手を引っ張り押し当てた。
「どうでしょう……？」
「わ、分かった！　分かったから手を離して！」
　そう言うと、少し残念そうな顔をしてヤマニンゼファーは手をおろす。……なんて娘だ、まったく……。

「……もう、充分だろ？　早く着替えてこい」
「……満足には、まだそよ風の程ですが、至れていないのですが……」
「もうおしまい！　いいね？」
「……はい、分かりました。着替えてまいりますね」
　渋々、と言った表情でヤマニンゼファーはゆっくりと歩き出す。……ああ、今日はなんて日だ……頭を抱えながら、彼女の背を見送っていると――。

『LOW BATTERY』
「うん？」
　どこからともなく電子音が鳴り響く。その電子音は、電池切れが間近であることを意味していて……。

　びゅうっ。
「きゃっ」
　一陣の風が吹いたとき、電子音がピイッと鳴りそして……。

「……あら、まあ」
　全裸のヤマニンゼファーが現れた。

「うおぉい！！　待てぇ！！」
　俺は駆けた。ヤマニンゼファーの元へと。着ていた上着を勢いよく脱ぎ捨てて、その上着をヤマニンゼファーに被せる。

「まぁ、これは……凱風ですね」
　……どうにか、ゼファーに上着を着せてその肌を隠してやる。
「そうですか……電池切れ……想定してませんでした」
「もう、勘弁してくれ……」
　上裸で肩で息をする自分。この困った担当を恨めしく思いつつ、とっとと着替えて来い。と送り出す。

「ふふっ、ありがとうございます……。…………これが、トレーナーさんの風の香り……ふふっ、何だか心地良いですね」
　ヤマニンゼファーは俺の上着の袖を顔に近づけると、すんすんと香りを嗅いだ。
「変なことしてないで早く着替えてこい！！」
「はい……♪　ふふっ、ふふふ……♪」

　そうして、何とかヤマニンゼファーをトレーナー室へと向かわせて、俺たちはどうにかこうにか、事なきを得るのであった……。

おわり