　ある日、ハンバーガーショップへと向かうと……。

「――では、いざ……！　参ります！」
「おう、さぁ思いきり齧りつけぇい！」

　担当のイクノディクタスと、それからノーリーズンが何やら二人でハンバーガーを食べようとしていた。

「むぐっ……！」
「おぉ、良い調子じゃぞイクノ殿！　さあ、そのままそのまま」
「んんっ……あむっ！」
　べちゃ。

　ハンバーガーのソースが飛び散り、イクノのメガネに付着する。

「かっ……！　くぅっ……」
「あぁ、惜しかったのぅ……！」
　……この二人は何をやっているのだろう。気になって声を掛けてみることにした。

「……おや、トレーナーさん。こんな所でお会いするなんて奇遇ですね」
「おお、イクノ殿のトレーナーか！　なんじゃ、お主もハンバーガーを？」
「うんまあ、ちょっと昼飯に」
「おお、そうかそうか！」
　イクノが紙ナプキンでメガネのソースを拭き取り、ノーリーズンはかかと笑う。……しかし、一体全体これはどういう集まりなのだろう？　あまり、イクノとノーリーズンが一緒にいるところを見かけたことは無かったが……。

「ほほう、ワシらが何をしているのか、気になるんじゃな？」
「トレーナーさん。実は……私、ノーリーズンさんに特訓に付き合って貰っていまして……」
「特訓……？」
　傍から見れば、ハンバーガーを食べているだけに見えるのだが……。

「……トレーナーさん。あなたもご存知でしょうが、私……ハンバーガーを食べるのがどうしても下手でして……」
　……ああ、そういえば。以前一緒にハンバーガーを食べた際に、ハンバーガーがミラクル級の崩壊を起こしていたのを思い出す。
「なので、どうにか上手にハンバーガーを食べられるようになりたいと考え、特訓をしようと思いまして……それで、誰かハンバーガーの食べ方に詳しい方は居ないかと思っていた所に」
「ワシに白羽の矢が立ったという訳じゃな！」
　……なるほど、そういう経緯でこの二人がハンバーガーショップに居る、という訳か。

　……しかし、ノーリーズンがハンバーガーに明るいという印象は全く無かったので少し意外だ。
「うん？　ワシがハンバーガー得意な印象が無いじゃと？」
「……まあ、だってキミと言えば武将。和！　って感じだし……」
「ふむ、まあワシのきゃらくたぁ像を考えれば、そう思われても仕方が無いのう。じゃが、これでもワシは結構アメリカンなんじゃぞ？」
「トレーナーさん。ノーリーズンさんのご両親はアメリカ出身なんですよ」
「え、そうなの？」
「にゃーっはっはっ！　意外じゃったろう？」
　意外や意外、武将好きでいつも甲冑を着ている彼女のことだから、生まれも由緒正しい日本の名家だったりするのだろうかと思っていたのだが。
「して、トレーナー殿。アメリカのソウルフード・ドリンクと言えばなんじゃ？」
　そう問われて考える。……アメリカの食べ物、飲み物といえば……アメリカの魂と言えば――。

「――コーラと、ハンバーガー？」
「そう！　まさにそれじゃ！　ああ、ワシはコーラに目が無くてのう……！　そしてコーラのお供と言えばハンバーガーよ！」
　ノーリーズンが両手にハンバーガーとコーラを構えてこちらに付き出す。なるほど、こうして見ると、まさにアメリカと言ったような佇まいに見えてくる。

「……と、言う訳で。ハンバーガーにも詳しいノーリーズンさんに師事して貰い、ハンバーガーを食べる特訓をしていたという訳です」
　なるほど。合点がいった。

「……それで、特訓の調子はどうなんだ？　イクノ」
「……ああ、ええと……それは……」
「……お主も見ていたじゃろう、あのソースの惨劇を」
　そう言われて思い出す。メガネに飛び散ったあの赤いケチャップソースを……。

「うーむ……ここのチェーン店はオーソドックスだし、具材も薄めのパティやチーズがメインで、あまり難易度は高くないと思っていたのじゃが……」
「……面目ありません」
　確かに、ここはハンバーガーチェーンの中でもトップクラスにメジャーな店。その他のチェーン店に比べればボリュームやジューシーさなどでは劣るものの、言い換えればとても食べやすい部類のハンバーガーだ。
　そんな所でもこの有様というのは……中々、先が思いやられそうだ。
「……逆に、別の店の方が食べやすいとかもあるのかのう？　例えばあの店なんかじゃ、ソースは多い分包み紙の角が閉じられていてソースが溢れにくくなっておるし」
　ああ、その店ならば自分も行ったことがある。最後の方にどうしてもソースが残ってしまうが……あれをポテトにディップして食べるというのも醍醐味だったりする。

「……まあ、流石にあのハンバーガーの王のところは具材がボリューミー過ぎて難しそうじゃがのう……」
「ああ、あそこですか……私は一度も行ったことが無いのですが……どんな味なのでしょう」
「あそこはなぁ……凄い旨いぞ。トマトやオニオンが入ってるから食べごたえとフレッシュさが良いよな……肉もジューシーで……まさにアメリカのハンバーガーを食べてるって気分になるんだよ」
「ほう！　お主もイケる口か！　いや、良いよなあ。……ならば、当然あれじゃろう？　オーダー時には必ず欠かさず……！」
「――オールヘビー！！」
「よなぁ！　いやあ、やはりアレが醍醐味じゃからのう！！」
　ノーリーズンと意見が一致し盛り上がる。いやあ、あれは良い物だ。当然欠かさない。

　そんな風に二人で盛り上がっていると、イクノが小さく手を上げてこちらに伺ってくる。
「……その、オールヘビーとは、一体……？」
「ああ、行ったことなければ知らぬのも当然じゃのう……あの店ではな、オーダー時に“オールヘビー”と注文すれば、なんと無料で！　具材の一部が1.5倍になってしまうのよ！」
「ええっ……！？　無料で、1.5倍に……！？」
　そうだよな、最初は驚くよな……！
「確か、レタスとかオニオンとか、ソース類だったかな？　ボリュームが段違いだから、あれはやらないと大損と言っても過言じゃないな」
「そんな……凄い裏技があるのですね……恐るべし、バーガーの王……」
　ごくり、とイクノが唾を飲みこむ。
「ふうむ、ハンバーガーの特訓とは別に、今度連れていっても良いかも知れんのう！　勿論、同志たるお主も一緒に」
　そう言って、こちらの肩を叩くノーリーズン。イクノとノーリーズンと3人であのバーガーに……良いかも知れないな……。

　そんなやり取りをしつつ、イクノはまた改めてバーガーと向き合った。
「それはさておき、まずは目の前のバーガーを綺麗に片付けるところからじゃのう」
「……はい。必ずや、美しく食べて見せます……！」
「……頑張れ、イクノ……！」

　あーむっ。
　イクノがハンバーガーに齧りつく。……今度は、ソースが飛び散ることは無かった。

「……！　これなら……！」
　あむっ、モグモグ。あーむっ！

　イクノが、水を得た魚のようにパクパクとハンバーガーに齧りつく。これは……かなり、上手く食べれているのでは無いか……！？

「よぅし、その意気じゃあイクノ殿！」
「はいっ……！」

　あむっ、あむ……！　もぐもぐ、モグっ……！

　イクノディクタスはそのままどんどんと食べ進め、そうして……最後の一口を口の中に放り込んだ。

「……っ！　……できました、私……無事に完食、できました……！！」
「おお！！　やったのうイクノ殿！」
「良くやった！　凄いぞイクノ！」
　口元を包み紙で覆ったイクノが勝利を確信して声を上げる。それを称える俺たち。ああ、やった……！　イクノは成し遂げたのだ……！　そうやり遂げた、筈だったのだが――。

「やりました！　ノーリーズンさん！　トレーナーさん！」
「………………あっ」
　顔を上げ、包み紙を置いてこちらに顔を向けたイクノディクタス。しかし、その口元には――。

「……え？」
　ベッタリと付着したケチャップソース。ああ、なんてことだ……口周りがこんなにもソースで塗れてしまったとは……。
「……イクノ殿」
「は、はい。あっ、えっ？」
　ノーリーズンが、静かに紙ナプキンを取ってイクノの口元を拭う。
「あっ……その……///」
　赤ん坊のように口元を拭われ、顔を赤面させるイクノ。ノーリーズンはそれ以上何も言う事はなく、ただ静かに彼女の口元を拭った。それはまるで、せめてもの武士の情けとでも言うかのように――。

――――
「――とまあ、今回は失敗してしもうた訳じゃが！　イクノ殿、まさかこの程度で諦めるようなタマじゃあるまいな？」
「……くっ……はいっ……！　次こそは必ずや、上手にハンバーガーを食べて見せます……！」
「あい、その意気じゃ！」
　気合を入れるイクノとそれを鼓舞するノーリーズン。
「……次は、俺も手伝うよ。キミの特訓を手伝わせてくれ」
「……！　トレーナーさん……！　はい……是非！」
「よぅし！　それじゃあ次回も頑張ろうぞ！　次に向けて、気合の掛け声じゃあ！」

『えい、えい、おー！』

　俺たちの特訓は、まだ始まったばかりだ。

おわり