　諸君、今日はヒシミラクルのプールトレーニングの日である。いつもプールトレーニングを嫌がるヒシミラクル。しかし、プールトレーニングはこの先の長く苦しいレース生活を生き抜く為には無くてはならない存在なのだ。
　そう、だからこそ俺は。心を鬼にして、ヒシミラクルをプールにブチ込まないといけないのである！

　今の俺はさながら鬼教官。プールサイドで数多の空き缶を引き連れヒシミラクルを待っていると……。

「…………ふっふっふ。今度という今度は、私をプールにブチ込むことを諦めて貰いますよ！　観念してください！！」
　何故か自信満々という風な表情で、水着姿のヒシミラクルがやってきた。

「……いや、お前それは俺の台詞な？　自信満々に言ってるとこ悪いけど、それを言うのは俺。そして正しくは、今度という今度はお前をプールにブチ込んでやるから観念しろ！　だ」
「えー……それじゃあいつもとおんなじじゃないですかぁ。そうじゃなくて、今度は私の番ですから。トレーナーさんを諦めさせてみせましょう！」
　……一体全体こいつのそのよく分からない自信はどこから来るのだろうか。まったく分からないのだが……。

「はぁ……もうどうでも良いから、さっさとプールトレーニング始めるぞ！　おらっ、プールに入りやがれ」
「ちょちょっ、待って待って押さないで！　ちょっと！　プールに入っちゃったらどうするつもりなんですか！？」
　なに言ってんだこいつ。
「どうするつもりもねぇよ！　お前はプールに入るんだよ！！」
「やめてーーー話を聞いてください！！　トレーナーさんのえっち！！！」
「！？？？」

　突然のヒシミラクルの叫びに驚愕する。それからワンテンポ遅れて、彼女の発言の危険さに気付く。
「ちょっ、待って待って！？　えっちってなんだよ何もしてないだろ……！？」

「ざわ……ざわ……」「……いま、えっちって……」「爛れてるわ……」「推せる〜」

　プールは学園の施設であり、つまるところ他のトレセン生やトレーナーがいる訳で……まるで身に覚えのない謂れのないことを叫ばれるのは本当に勘弁してほしい。

「…………トレーナーさんが悪いんですよ。ちゃんと私の話を聞かないから。いいですか、トレーナーさん！」
「……はい」
「私、考えました。どうしたらプールに入らずに済むだろうか、と」
「そんなこと考えるなおバカ」
「うるさいですね……良いから聞いてください！　そこで私は閃いたのです」
「…………何を……？」
　嫌な予感を感じつつ彼女に問いかける。

「そう、トレーナーさんが私をプールに入れたくても、絶対に入れられないようにしてしまえばいい！　と！！」
「はぁ？」
「なので、用意しました！！」
「…………何を」
　……物凄く嫌な予感がする。すごくこう、なんというか……頭抱えすぎて頭取れる。みたいなことが起こりそうな、そんな気が……。

「じゃじゃん！　見てください！」
　そう言ってヒシミラクルは、水着をこちらに見せつけるように身体を広げた。
「……水着だな」
「ただの水着ではありません」
「はぁ？」
「なんと……この水着……」
　無駄に溜めるヒシミラクルに良い加減にしろと言おうか悩んでいると、彼女は自信満々といった表情と声色で高らかに宣言した。

「この水着！　なんと！！　水で濡れると溶けて無くなるんです！！！」

　――――………………。

　…………コイツバカだ。UA級のバカだ。何やってんだこの愛バは。

「つ・ま・り！　トレーナーさんがプールに私をブチ込めば！　その時点で私の水着は消失！　私はトレーナーさんのせいであられもない姿になってしまうという訳です！！」
　……頭抱えすぎて頭なくなった。
「ふふん、どうですかこの完璧な作戦は」
「あー……つまり、なんだ？　今のお前をプールに落とすということは、お前を裸にひんむくことと同義、と？」
「ですです。そうすればどうでしょう、トレーナーさんは担当を公衆の面前で裸にした、サイテーなトレーナーさんということになります！」

　……なんてことを思い付くのだこの娘は。そうなってしまえば、どんなお叱りを受けるか分かったもんじゃない。
　というか、情状酌量の余地があると、そんな理不尽に怒られなかったとしても、だ。流石に担当を裸にひんむくのはしたくない。まず俺が目のやり場に困る。次に担当を恥ずかしい目に合わせてしまう。……いやまあ、コイツの自業自得ではあるのだが、できればそんな事態は避けたい……。

「ふっふっふ。トレーナーさん、これで貴方はもう！　私をプールにブチ込むことはできない！　さあ、観念して私をプールに入れるのを諦めてください！！」

「……はあ……わかった……俺の負けだ」
　深い溜息をつきながら、ヒシミラクルに降参宣言をする。
「……えっ、マジです？　ちょちょ、マジで降参してくれるんです？」
「なんだよ、こうさせたのはお前だろ……」
　まさに手詰まり……どう足掻いても、今のヒシミラクルをプールにブチ込むことはできない……。どんな所に労力使ってんだこの野郎と言いたいが、しかし水で溶ける水着なんていうトンデモなモノを着込んだヒシミラクルにはどうやっても勝てなかった。
「……いやったぁ！！！　今日のプールトレーニングは無しですね！！　トレーナーさん！！」

　ああ、今のヒシミラクルをプールにブチ込むことはできない……。
　――“今”のヒシミラクル、は――。

「――という訳で、ヒシミラクル。お前、今から自分の部屋に行って水着取ってこい」
「…………へ？」
　ヒシミラクルが、ポカンといった表情をする。
「今のお前をプールにブチ込むことはできん。だから、ちゃんとした水着に着替えて貰うことにする」
「は……？　え、いや……それは、その」
「どうした、おい。あるんだよな？　普通の水着も」
「…………いやぁ、それは……その……えーっと、さっき捨てちゃったと言いますかぁ」
「ダウト。お前それ、今後のありとあらゆる水泳授業をその水着で受けることになるんだからな？　それは分かってるよな？　夏合宿もだぞ」
「………………そうですね。流石に……水着は捨ててません……」

　ヒシミラクルの下手な嘘を看破し彼女を追い詰める。
「今から帰って水着取って戻ってくれば、充分プールトレーニングできるな。よし、行ってこい」
「ひ、ひぃ……お、お慈悲は……」
　涙目のヒシミラクルがこちらに懇願する。が。
「無い。行け」
「ひぃ〜ん」

　……まったく、一時はどうなることかと思ったぞ……。そこまでしてプールに入りたくないのかこの娘は……。
　でもまあ、とりあえず。彼女の秘策も完全に打破したし、今度こそしっかりプールにブチ込んでやろう。そう彼女の背を見て決心するのだった――。

「――はぁ……せっかくこんな水着特注してきたのに……とほほ、これじゃ全部無駄足だよぉ」
　そんなことをボヤきながら、とぼとぼとプールサイドを歩き始めるヒシミラクル。そんな彼女の背を見送っていると――。

「――よーーし！　ゴルシ様の華麗な飛び込みを目に焼き付けろぉ！！！」
「えっ？」

　バシャーーーンッ！！！

　突然、飛び込み台からゴールドシップがプールへと飛び込んで来る。その衝撃は凄まじく、大きな大きな水の塊が彼女を中心に飛んで広がって行き、そして――。

「わぁっ！？」
　ザパーン！
　……プールサイドを歩いていたヒシミラクルに降り注いだ。

「おい、大丈夫か……！？　ヒシミラクル……！」
「……ああ、は……はい……びっ、ビックリしたけど別に特には……平気で、す……っ！？」

　急にヒシミラクルの言葉が詰まる。どうしたのだろうと彼女の方へと近づくと――。
「きゃあぁーー！！」
　バッ、と。ヒシミラクルは悲鳴を上げてしゃがみ込む。
　驚いて彼女の方を見ると……ヒシミラクルの水着が、ジワリジワリと溶けて無くなっていき、そうして彼女の白い肌が――。

「あっ……ぁっ……と、トレーナーさんん……」
「……な、なんだ……？」
　ヒシミラクルの方をこれ以上見ないように目を背け、彼女の呼び声に応える。
「その……タオル……持ってきてください…………」
　その声はあまりにもか細く、弱々しかった。
　……俺はせめてもの情けとして、ああと彼女の頼みを了承し、タオルを求めてプールサイドを走るのであった……。


「――もう溶ける水着なんてコリゴリだよぉ……！！」

おわり