「ふふ……気持ち良かったですね、お風呂」
「ああ、そうだな」
　とあるホテルの一室。俺と担当の――否、“元”担当のシュヴァルグランは、泊まりがけの旅行に出かけていた。

「わ、見てくださいトレーナーさん。このベッドすごくふかふかですよ」
　シュヴァルグランがまだ乾ききっていないしっとりとした髪をそのままにベッドに座る。ベッドの縁に座りもふもふと身体を沈ませるシュヴァルに倣って俺もベッドの感触を確かめると……。
「……おお、確かに。これは良いベッドだな」
「えへへ、ですね」

　シュヴァルグランはごろんと横になる。それを横目にベッドの縁に腰掛けると、シュヴァルはベッドと、それからこちらを見て呟く。
「……結構、おっきいベッドですね」
「ん、まあダブルベッドの部屋を選んだからな」
　せっかくのシュヴァルとの旅行ということもあって、すこし良い所の部屋を選んだ。お互い成人している身だし、それからまあ……彼女の家的にもそれなりに良いホテルに通い慣れているだろうから……という理由もあったりする。

「2人並んで寝ても全然余裕ありそう……」
「はは、前みたいにわざわざ端っこ使わなくても良いからな」
「え、なんのことです……？」
　きょとんと首を傾げるシュヴァルに答える。
「あれだよあれ、嵐にあって同じ部屋に泊まった時の……」
「――……あ。…………ぁ、いや……その……な、なんで覚えてるんですかそんなこと……！」
　頬を染め俯きがちにこちらを見るシュヴァルの様子に笑みが溢れる。
「あはは、よく覚えてるよあの日のことは。シュヴァルと初めて一緒に寝た日だったし。……あの日のキミはすごく大胆だったな？　ははは」
　そう言ってからかうと、シュヴァルはより顔を紅く染めて抗議してくる。
「あ、あの時の僕は……その……そういうのじゃなかったというか……どうかしてたというか……。……〜〜！　もうっ、忘れてください……っ！」
　てしてしとシュヴァルがこちらをつついてくる。そんな彼女の控えめな抗議がなんとも微笑ましく可愛らしい。

「……もうっ……」
「はは、ごめんて」

　彼女に軽く謝罪を伝えつつ、シュヴァルの隣に寝転がる。つんと彼女はそっぽを向いてしまったが、ぽんぽんと優しく頭を撫でるとゆっくりとこちらに振り返ってくれる。すこしジト目がちにまだこちらを見ているが、しかしそれでも……やはり、シュヴァルは可愛い。
「今も昔も可愛いな、シュヴァルは」
「……うう、なんですか……もう……」
　まだ幼かった日のシュヴァルを思い起こしつつ今のシュヴァルに微笑む。彼女はあの頃と同じすこし遠慮がちで、でも自分に素直なあどけない表情で見つめてくれた。

　今はもう、0時を迎えた頃だろうか。ダブルサイズのベッドに2人並んで寝転んで、その寝心地の良さを堪能する。
「ふう……」
「……はぁ……」

「…………トレーナーさん」
「……ん、なんだ？」
「その……お風呂、気持ち良かったですね」
「んー……そうだな」
「お風呂もけっこう広かったですね」
「流石良い所のホテルだったなぁ……」
「うん……ですね……」

　ふわふわとしたベッドに包まれながら、のんびりと彼女とのとりとめのない会話を楽しむ。まだ、湯上がりのぽかぽかとした温かさを残しながら、ゆったりと沈み込む……。

「……トレーナーさん」
「ん……？」
「……そっち、行っても良いですか……？」
　彼女の控えめなその言葉に、そっと短い返事をして振り返る。すこしスペースを作ってやると、シュヴァルはえへへ……とすこし笑みを溢しながら距離を詰める。

「……ふふ、トレーナーさん」
　その声色はなんだか楽しそうで、嬉しそうに笑うシュヴァルをそっと眺める。
「……ああ、近くにいるとやっぱり……落ち着くな……」
「……変わらないな、シュヴァルは」
「……やっぱり、まだこどもっぽいって思いますか……？」
「そんなことは無い。……ただまあ、嬉しい……かな？　キミに一緒にいると落ち着くって言われるのは」
「……そう、ですか……」
　シュヴァルにそう答えてやると、彼女はまた顔を紅くして俯いてしまう。やはり、いつまで経ってもシュヴァルは可愛い。

「…………でも、僕だってちゃんと大人になってますからね……？」
「ああ、そうだなー」
「……む」
　彼女に適当に返事をすると、シュヴァルはちょっと頬を膨らませて……。
　……おもむろに、ぎゅっと近づいてくる。

「……トレーナーさん。僕はちゃんと大人なんですから…………！」
「お、おう……」
「……わ、分かりますか……！？　ほら……！」
　大胆にも距離を詰め、そのまま抱きつくシュヴァル。……そんな積極性は確かに……大人になったと言えるのかもしれない。
「ぎゅっ……！」
「……あー……はは」
　……本当に、シュヴァルは可愛いな……と、そんなことを思いながら……抱きつく彼女の肩をそっと抱き返す。

「……あっ……」
「うん……愛してるぞ、シュヴァル」
「うっ……ぁ……///」
　可愛らしい声が漏れ出ているのを聴きながら、ぎゅっとさっきよりも強く抱きついてくる彼女の身体を感じる。

「……うぅ……！　もぅ……」
「はは、よしよし」
　ぎゅっと抱き返してやると、彼女は噛みしめるようにぎゅっと腕に力を籠める。こうしていると、ああキミは……大人になったんだな、と。そう思うのだ。

「…………トレーナーさん」
「ん、どうした？」
「……その、……僕の鼓動……聴こえますか……？」
　むぎゅ、と。彼女の胸が自分の胸と重なって……。シュヴァルが尋ねた通りに、そっと耳をすませると……。

　とくん、とくん……と。
　彼女の穏やかな心臓の音が聴こえてくる。

「……ああ、聴こえるよ」
「……ふふ、えへへ……」
　シュヴァルグランは嬉しそうに笑う。
「……とても穏やかな音だね……。……俺も、なんだかリラックスしちゃうな」
「……トレーナーさんも……鼓動、落ち着いちゃってますか……？」
「……聴いてみる？」
「……はい」
　そう言って、シュヴァルは静かに耳をすませる。俺も、自分の鼓動を意識すると……。
　とく……とく……と、ゆったりとした鼓動が胸に響いた。

「ふふ……トレーナーさんも、安心してるんですね……」
「……ああ、そうだな」
　お互いの鼓動を感じ合いながら、身体を寄せ合う。やがて、2人の鼓動はどちらともなく重なって……ゆっくりと、融けていく……。

「――……ふぁ……」
「……ふふ、もう寝るか？　シュヴァル……」
「ぅ……。……はい……」
　こく、とシュヴァルが腕の中で頷く。
　眠たげな彼女の頭をそっと撫でて、目をつむる……。

「……ぅ…………ぁぅ……。……ん……」
　そのままもう眠りにつこうかと思っていた時、腕の中のシュヴァルが顔を上げる。
「……どうしたんだ、シュヴァル……？」
「…………。……その……」
　まぶたを開けて彼女を見ると、遠慮がちに、すこし頬を染めながら、シュヴァルは欲しがるようにこちらを見つめていた。

「…………その、トレーナーさん……。……いつもの……してください……」
「…………いつもの？」
「……はい。……寝る前の……して、ください……」

　……そんな顔をしているからだろうか。なんだかすこし悪戯心が湧いて、シュヴァルにとぼけた返答を送ってみる。
「……いつもの、って……そう言われても分からないなぁ」
「…………！　……むぅ。……あの、……トレーナーさん……いじわるですか……？」
「いやぁ……そんなことは無いけど……うん、何がして欲しいのか、言ってくれないと分からないかなぁー……って」

　そう彼女に告げると、シュヴァルは紅くなった頬を膨らませて、ジトりとこちらを見つめる。
「……トレーナーさんのいじわる……」
「あはは、ほら、言ってみなよ？　シュヴァル」
　むっ、とこちらを見つめるシュヴァルだったが、こちらも引かないと見ると……はあ……と溜め息を一つ吐いて俯き、こちらに向きかえる。

「……その、トレーナーさん……」
「ん」
「…………いつもの……おやすみのちゅー……して、ください……」
　顔を真っ赤にしながらそうねだるシュヴァルに、ああ……やっぱり可愛いな……。と、思いながら――。

「――ぁ……」

　……そっと、唇を重ねるのだった――。

「……おやすみ、シュヴァル」
「…………おやすみなさい、トレーナーさん」

おわり