「アストンマーチャン屋さんへようこそ」

　気がつくと、俺はアストンマーチャン屋さんに居た。目の前には、アストンマーチャン。見渡せば、アストンマーチャン。
　どこもかしこもアストンマーチャンで埋め尽くされた空間。――ここが、天国か……？　などと、正気を失いそうになるが、頭を振る。

「ここは、一体……？」
　目の前のアストンマーチャンに問いかける。
「――トレーナーさん。ここは、アストンマーチャン屋さんですよ」
「……いや、それはもう聞いたけど……。その、アストンマーチャン屋さんって、一体……？」

　そんな風に疑問を投げかけると、アストンマーチャンはふふふと笑う。
「アストンマーチャン屋さんはアストンマーチャン屋さんなのです」
「はあ……」
「アナタのマーチャン、あの子のマーチャン。みんなの、いっぱいの、アストンマーチャンが揃っています……♪」
　そう言って、マーちゃんはそっとそばにあったぬいぐるみを持ち上げる。

「――これは、4人目のマーちゃん人形。トレーナーさんが、このぬいぐるみならアストンマーチャンの可愛さを世界中にだって伝えられる！　……と、喜んでいた、あのマーちゃん人形です」
　そう言われてみると、確かに見覚えがあるような気がする。確か、このぬいぐるみを元にグッズを売り出したんだったか……。

「こちらのマーちゃんタオルは、高松宮記念でレースを観ていた男の子が、首に巻いていたマーちゃんタオルです。……レースの後に男の子がマーちゃんのタオルを巻いてるのを見つけて、話しかけましたね。あの男の子、とってもびっくりして、照れていて、とっても嬉しそうでしたね……♪」
　その出来事なら、俺も覚えている。
　マーちゃんのグッズが普及して、マーちゃんを応援する為にグッズを用意してくれているということに感慨深いものを覚えたし、その少年が嬉しそうに母親と話しているのもよく覚えていた。

　――ついでに。何とも言えない、この……運命的なナニカが変わったような――言ってしまえば、ウマ娘という存在が、アストンマーチャンが、強烈に脳に焼き付いたような、少年のそんな姿も見えていた。
　未来のトレーナーに幸あれ。

「ふんふんふん。これで、分かりましたか？　アストンマーチャン屋さんがどんなお店なのか」
　……何となくだが、分かったような気がする。みんなの中のアストンマーチャンの存在が、想いが、思い出が。ここには詰まっている、と――そう、理解した。

「……そうです、アストンマーチャン屋さんは、みんなのアストンマーチャンを並べています。そして、これからみんなのマーちゃんになるモノも――」
「これから……？　それって、どういう……」

「……ふふっ♪」
　くすり、と。マーちゃんが笑うと、マーちゃんは何処からともなく、ちっちゃいマーちゃんのようなモノを取り出した。
　……マーちゃんのようなモノ、というか……幼い幼いマーちゃんというか。ミニマーちゃんとでも言えば良いのだろうか。

「はい、ミニマーちゃんです……♪」
「ぁぃ、まぁちゃんです」
「あ、これはどうも」
　ミニマーちゃんがコテっとお辞儀をしたので、こちらもお辞儀をし返す。
「……このマーちゃんは、未来のマーちゃんです。いつかきっと生まれてくる、そんなマーちゃんです」
　未来の、マーちゃん……。ころころとした瞳でジッとこちらを見つめるミニマーちゃんをそっと眺める。

　――もし、アストンマーチャンに子供が生まれたのなら、こんな子になるのだろうか……。
　そんなことを思うくらい、マーちゃんにソックリなミニマーちゃん。
「トレーナーさんの未来の、マーちゃんです。きっといつか出逢える、アナタのマーちゃんです……♪　……おひとつ、いかがですか……？」
　そう言って、アストンマーチャンはミニマーちゃんを差し出す。
　……とても可愛らしい姿で、目に入れても痛く無いような、そんなミニマーちゃんが、自分に……。

「……んん、とれぇな……？」
　…………。

「ふふ、どうしますか……？　トレーナーさん……♪」
「……うん。今じゃ、無い」
「……？」
「今じゃ、無いんだ。今じゃなくて良いんだ。……いつか、きっと……出逢えるというのなら。俺は、そのいつかを待つことにするよ」

　俺がそう言うと、最初はキョトン、としていたマーちゃんが、やがて可笑しそうにふふ、ふふふと笑う。
「……そう、ですか。そうですか……♪　トレーナーさんは……待って、くれるんですね？　ふふっ……♪」
「ああ、待つよ」
「……じゃあ、いつか。この子と出逢える日まで……一緒に、待ちましょうね……♪」
　そう言うと、アストンマーチャンは名残惜しそうに、愛おしそうにミニマーちゃんを撫でると、またね。と、ミニマーちゃんに手を振った。
「……ま……ま……。……ん、また……ね……♪」
　そう笑ってミニマーちゃんはふわりとどこかに消えてしまった。

「…………♪」
　それを静かに眺めるマーちゃんの表情は……まるで、聖母のようであった。

「――……それでは、アストンマーチャン屋さんはこれにて閉店です」
　どこからともなく、蛍の光が流れてくる。
「ふふ、またいつでも、お越しください。アナタのマーちゃんが、過去も未来も、みんな。アナタを、トレーナーさんを、待っていますから……♪」

「ずっと、私と一緒に、いっぱいのマーちゃんを、待ちましょうね。これからも、ずっと、ずっと――」

　そう言ってアストンマーチャンは手を振った。ドアが開いてチリンチリンとベルが鳴る。
　……不思議な不思議な、アストンマーチャン屋さん。
　これまでの思い出と、これからの期待を胸に、俺はこの不思議な夢から目覚めるのであった――。

おわり