　お昼時、たまたまそこで会ったローレルとお昼でも食べようか、と。食堂を二人で歩いていると――。

「――なあ、サクラローレルってさ」

　どこからともなく、ローレルの名が聞こえてくる。その声色は男性のものであるため、どこかのトレーナーが話しているのだろうか。
　そう思い、耳を傾けていると……。

「サクラローレルって、Sだと思う？　Mだと思う？」
「……いやぁ、あれはSだろ」
「いやいや、ああ見えて実はMって可能性も――」

　…………。
　静かに、その下世話な話をしている輩を特定し、その席へと向かう。

「Mってことは、あれか？　実は押しに弱いとか……」
「……そうそう、そんな感――…………ぁ」
「……？　どうしたんだ、急に固まって」
「ちょ、お前……後ろ」
「後ろって……？」
　相方に促されるままに、振り返る男。そうすると、真後ろに立っている俺と目が合う。

「……うちのサクラローレルに、何か御用でも？」
「ひっ……！　――い、いや……その、何でも、無いです」
　こくこくと、もう一人の不届き者も頷く。それを見届けながら、キツめに睨みながら。その場を離れてローレルと合流する。

「……トレーナーさん、大丈夫ですか？」
「うん、まあ平気。ごめんなローレル」
「いえ、大丈夫ですよ……♪」
　ふふ、と柔らかく笑うローレルに心が洗われる。……まったく、こんなローレルにSだのMだのと、下世話な話題を上げるなんて信じられないものだ。それも公の場でそんな話をして……まったく、それでもトレーナーか？

「……そうだ、ローレルは……その、大丈夫か？」
　ふと、そういえばと思いローレルを心配する。彼らの話し声はウマ娘じゃない俺でも聞こえていた。ならば……耳の良いウマ娘であるローレルにも聞こえていたのではないか、と。心配になったのだ。
「いえ、私は別に大丈夫ですよ？」
「そうか……？」
「ええ、はい……♪　心配してくれてありがとうございます、トレーナーさん……♪」
　穢れの無い笑顔で応えるローレルは、まるで美しい花のようだ。……うむ、やはりこんな綺麗で純白なローレルを穢すことは絶対に許されない。不埒なトレーナー死すべし。

「……ふふっ、そうだトレーナーさん……♪」
「うん、どうしたんだ？」
「……ふふっ♪」
　何か面白いことを思いついたかのように、ローレルはこちらを見て笑う。一体どうしたのだろうか、彼女の次の言葉を待っていると――。

「――トレーナーさんは、私のこと……Sだと思いますか？　それともMだと思いますか？」
「え――？」
　ローレルの口から、トンデモないことが飛び出てきた。

「いや、いやいや。ローレル、なんてこと言い出すんだ……！？　さっきの奴らの言葉を気にしてるのか……！？　なら――！」
「いえ、そういう訳ではないのですが……ふふ、いつも私のことを見てくれているトレーナーさんは、私のことどう思ってるのかなって。気になっちゃって……♪」
　イタズラめいた笑みを浮かべながらそんなことを言うローレル。気になる……とは言われても――。

「……いや、担当に対してそんなこと考えないし、そう言われても分からないよ」
　そう言って、ローレルのなんとも答えづらい問いかけから逃れる。……うぅん……ローレルは俺をからかってるのだろうか？
「……えー……私のこと、ちゃんと見てたらそのくらい簡単に答えられますよね……？　トレーナーさんの想いは、その程度……なんですか……？」
「……ぅっ」
　ローレルが、上目遣いでこちらを見つめる。……いや、これはもう確実に。俺をからかっている……。
　からかっているというのは、分かるが……。

「…………じー」
　……こういう時の彼女は、結構強情だ。この質問に答えるまで、ローレルは諦めてくれないだろう。

「……じーーー」
「……ああ、わかった。わかったよ」
「……！　ふふっ、じゃあトレーナーさん……♪　私はSですか？　Mですか？　どっちだと思いますか♪」

　キラキラとした瞳でこちらに問いかけるローレル。そんな期待の目で見られても……困りつつ、すこし考える。
　ローレルはSか、それともMか……。うーん……。

「…………SかMかは分からないけど……ローレルは受け身な方かな……？」
「そう、なんですか……？」
「……うん、まあ……どっちかと言ったら、自分で何かするよりはこっちに何かされたい……みたいな……？　でも、何もしない訳じゃなくて。こっちに何かして貰えるように仕掛けるのがローレル……かな？」

　そう言って、自分の考えるローレルの性格を彼女に伝えると、ローレルはすこし俯く。
　……も、もしかして、気を悪くさせてしまっただろうか……！？
「ご、ごめんローレル……！　今言ったのはその、あの……別に変な意味じゃなくて……！」
「…………ふ、ふふっ。ふふふ……♪」
　俺が焦って弁解をしようとすると、ローレルは俯いたまま肩を震わせて小さな笑いをこぼす。

「ローレル……？」
「ふふっ……あはは、トレーナーさん……♪」
「は、はい」
「ふふっ……やっぱり、トレーナーさんは私のこと、よく見てくれていますね……♪」
「そ、そう……？」
　顔を上げ、嬉しそうに笑うローレルに戸惑いつつもそう応える。なんだかよく分からないが、ローレル的には
合格だったらしい……？
「ふふ、あはは。良かった、トレーナーさんがトレーナーさんで……♪」
「そうか……？」
「ふふっ、それじゃあ……お昼一緒に探しましょうか……♪」
　そう彼女が提案をして、ようやくそういえばお昼を食べる為にここに来たのだと思い出す。
「あ、ああ。そうだな」

「――……ところで」
「どうしましたか？　トレーナーさん？」
「さっきの問いの答えは、結局なんだったんだ……？　SかMかってやつ。答え合わせとか無かったけど……」
「…………知りたいんですか……？」
　ローレルが、こちらに振り返りイタズラめいた笑みを作る。

「……いや、なんていうか。ちょっと気になっただけだから、別にイヤだったら答えなくても」
「――そうですね……それじゃ、この答え合わせはしないでおきますね……♪」
　彼女はすこしミステリアスな笑顔を置いてそっぽを向いてしまう。
　……なんだか、そう意味ありげにされると、気になってしまうが。……まあ、気にしないようにしよう。

「……ふふ、いつか――」
　あちらを向いたままのローレルが、呟く。
「――いつか、私のホントの姿……教えてあげますね……♪　トレーナーさん……♡」
　そう言ってこちらに振り返る彼女の表情は、とても、とても、蠱惑的なのであった――。

「……い、いつか……って……？」
「ふふっ、まだ……教えてあげません……♪」

おわり