　トゥインクルシリーズも終わり、それからも幾多のレースを駆け抜け、そうしてしばらく。俺は担当のケイエスミラクルを温泉旅行に連れて行くことにした。
「――ふぅ……トレーナーさん、良いお湯でしたね」
「ああ、そうだな」
　今日は二人で色んなところを観光した。色んなところを歩いて、観て、楽しんだ。そうしてすこし歩き疲れた身体を気持ちの良い温泉で癒やした。
　湯からあがり俺たちは部屋へと戻る。何をするでもなく座布団に座り、部屋でゆったりとくつろぐ。隣には浴衣姿のケイエスミラクル。なんとなしに眺めていると、視線に気付いたケイエスミラクルがこちらの方を向いて不思議そうな表情をする。

「……？　トレーナーさん、おれの顔に何かついてますか……？」
「……いや、そういう訳じゃないんだけど。なんとなく、眺めていただけっていうか……」
「あはは、なんですかそれ？」
　すこし恥ずかしそうに照れ笑いするケイエスミラクル。彼女の儚げで優しい柔らかな笑顔は、なぜだかずっと見ていたくなる。……とは思いつつも、あんまりじっと眺めている訳にもいかないので机の方へと向き直る。

「……トレーナーさん」
　不意に、彼女が俺を呼ぶ。どうしたのか、と聞くと彼女は噛みしめるように言葉を続ける。
「トレーナーさん、今日は……とっても、楽しかったです。色んな場所を巡れたし、二人でいっぱい歩きましたし、それから気持ちの良い温泉にも入って、今はこうしてトレーナーさんと二人でゆっくりしていて……」
　彼女の方を見ると、ケイエスミラクルは嬉しそうな、優しい表情をして今日一日を語っている。

「すごく……楽しかったです。嬉しかったです。……トレーナーさん、トレーナーさんはおれの為にこの旅行に連れて行ってくれたんですよね……？」
「ああ、そうだな。いつも頑張ってるから」
「ふふ、本当に……ありがとうございます。……もし、昔のおれだったら……おれの為にこんなことまで、って。悪いな、とか。こんなことまでしなくても……って思っちゃってたと、思います」

　……ケイエスミラクルは、優しくて思いやりのある子だ。それから、自分のことを二の次にしてしまう子でもある。昔の彼女なら、そんな風に遠慮をするだろうというのは容易に想像できた。
　一方で今はだいぶ、彼女は俺を頼ってくれるようになった。素直に気持ちを受け取ってくれるようになった。だから、今日という一日を心から楽しんでくれたというのは、俺としてもとても嬉しいことだった。

「……おれ、トレーナーさんの気持ち……ちゃんと受け取ってます。だからおれも、ちゃんと言葉にしますね。ありがとうございます、トレーナーさん。今日はとっても楽しくて、嬉しくて、すごく良い一日でした」
「そうか、それは良かった。……俺も、ミラクルと一緒に旅行できて、良かった」
「えへへ、はい……♪」
　ケイエスミラクルが照れたように微笑む。俺を見つめるその眼差しから温かなものを感じながら、俺もそっと微笑む。

「…………トレーナーさん」
　とん、と。ケイエスミラクルが寄りかかり、俺の肩に頭を乗せてくる。
「……どうかしたか？」
「……すみません。でも……こうして、いたくて……ダメ、ですか……？」
　彼女の細い声に寄り添うようにそっと、いいよ。と呟く。
「ん……あったかいな。トレーナーさん……」
「そうなのか……？」
「……はい、とっても……あったかいです」

　肩に彼女の重みを感じながら、静かにそっとくつろぐ。ケイエスミラクルはまぶたを閉じて、この時間を楽しんでいるようだった。

「……トレーナーさん。……おれ」
「……おれ、トレーナーさんといると……すごく、心がぽかぽかするんです」
　ケイエスミラクルが小さくこぼす。

「ぽかぽかして、たまにきゅぅとなって……離れたくなくて、ずっと一緒にいたくて……。……本当は、おれの時間はもう残り少なくて。いつまでも一緒にいられる訳無いのに……それでも、一緒にいたくて」
　ケイエスミラクルがこちらにさらに寄りかかり少し、肩の重みが増す。彼女の言葉の重さが、想いの重さが、伝わる。

「……おれ、変になっちゃったのかな……？」
　彼女のその言葉を、俺は否定する。
「……たぶん、きっと。それは、悪いことじゃないと思う。きっと、良い変化だと……俺は、思うよ」
「……おれも、そう思います」

　そうして、肩に頭を乗せたまま、ケイエスミラクルは言葉を続ける。
「これが……好きになる、ってことなんですかね……？」
「…………」
「誰かを好きになるのって、こんな気持ちなんじゃないかって……おれ、そう思います」

　……彼女の言葉には返事はせず、ただじっと……彼女の重みを感じながら、彼女の言葉を受け止める。
　ケイエスミラクルも静かに、俺に寄りかかる。

　こうして、二人だけの時間は静かに……あたたかく、流れて行くのだった。二人の、深い絆を感じながら……。

おわり