「はぁ……」
　溜め息を一つ、ドンヨリとした曇り空につく。
「おーい、ヒシミラクルー！　何かあったかー？」
「い、いえ……！　もう一本お願いしますー」
　そうして、払いのけるように頭を何回か振りスタート位置につく。

「いくぞー」
「は、はい」
「よーい……」
　ダっ。トレーナーさんの掛け声とともに地面を蹴り上げる。
　なんだか気だるい梅雨模様のお天気。低気圧のせいかな……？　少し頭も痛くて。やる気も出なくて……。でも、今はトレーニング中だし？　ちゃんとやらなきゃって気持ちでどうにか走ってる訳ですが。

「――うーん。タイム縮まないな……むしろ、前より悪くなってる」
「うっ……すみません……」
　ストップウォッチを眺めるトレーナーさんに、罪悪感を覚える。身体がダルいからって全然練習に身が入ってないって、私に付き合ってくれているトレーナーさんにバレちゃったら……。

「うぅ……」
「……なあ、ヒシミラクル」
　トレーナーさんと目を合わせることができず、うなだれていると……トレーナーさんは私の方にやってきて。

「――あ、あの……何でしょう……？」
「……やっぱり、体調悪そうだな。どうしたんだ？　ヒシミラクル」
「えっ、あっ……そ、そのぉ……」
　……どうやら、トレーナーさんには全部お見通しのようです。なので、正直に白状します。なんだかイマイチ身体がダルいってこととか、頭痛がするとか、気分が上がらないこととか……。それでちょっとネガティブになってることとか……。

「……そうか」
「す、すみません……トレーナーさん……せっかくトレーニングして貰ってるのに」
「ん？　いや、大丈夫。そこは気にしないでくれ。それよりも……今日のトレーニングはとりあえずこの辺で終わりにしとくか」
　トレーナーさんが、そんなことを言います。ど、どうしよう。私のせいでトレーニングを中止させちゃうなんて……！

「えっ、あ、あの……！　わ、私やりますから……！　ちゃんと頑張りますから……っ」
「ヒシミラクル」
「ひゃ、はい……！？」
「調子が悪いなら、無理にトレーニングするのは良くないというのは分かるな？」
「そ、それは……でも、私はただなんだかダルいだけというか……」
「……まあ、梅雨だし6月だしな。身体にダルさを感じるのも仕方ないさ。というか、身体がダルいっていうのは充分休む理由になるぞ？」
　そう言って、私の肩をポンと叩くトレーナーさん。

「と、言う訳で。今日のトレーニングはこれでおしまいだ。今日はゆっくり休め」
「うぅ……すみません……」
　そう謝る私を見て、トレーナーさんは何かを考え込みます。
「…………」

「……そうだな。ヒシミラクル、俺とちょっと散歩でもどうだ？」
「え……？　散歩、ですか……？」
「ああ、気晴らしにな」
　……少し考えてみると、寮に戻っても罪悪感で上手く休めない気がして。それなら……いっそトレーナーさんとお散歩する方が良い、かも……？

「は、はい。えっと……よろしくお願いします……？」
「んじゃ、着替えて来い。校門前で集合な」
「はい」
　そうして、曇り空の下でトレーナーさんとお散歩することになりました。

　――ジャージから制服に着替えて、待ち合わせの場所へと向かう。空模様はだいぶ悪そうだけど……でも、なんだか傘を持ってくる気分じゃないから……。うん、大丈夫……だよね……？

「おう、ヒシミラクル」
「トレーナーさん、お待たせしました。……って、あれ。トレーナーさん、傘持ってきてないんですか？」
　手ぶらのトレーナーさんを見て思わず問いかける。
「あ、やっぱり雨降る？　というか、それを言うならお前も持ってないだろ？」
「いや、それは……ちょっと、傘を持ってくるのが面倒だったと言いますか……」
「なら、俺もいいや」
　そう言って、トレーナーさんは軽い言葉でそう返事する。
「えっ、いやいや。もし降られたら風邪引いちゃいますよ？？」
「でも、君も持ってないんだろう？」
「それはそうですけど、そうじゃなくて……！」
「――もし、雨に降られたとしたら。お前と一緒に濡れたいなって、そう思っただけだ」
「っ……！　ちょ、ちょ、何言ってるんですか、トレーナーさん……っ！？」
　ちょっとくさかったかな、と軽口を飛ばすトレーナーさんに、心臓が跳ねる。何言ってるんだろうこの人、という気持ちと、そんなわざわざ私の為にそこまでしなくても、という気持ちと。
　とにかく、トレーナーさんのさっきの言葉に心が乱れて――。

「――も、もう……なんですかそれ」
「ははは。まあ、たまにはそういう日があっても良いだろ？」
「あーもう、好きにしてください！」
　それでも、そこまで私の為にそんなことしてくれるトレーナーさんに、トレーナーさんの言葉に、嬉しさがあるのはどうしてでしょうか。

「じゃあ、行くか」
「はい〜。……で、行く宛はあるんですかー？」
「特に無い！」
「いや、それ自信満々に言う言葉じゃないですって」
「適当にゆったり歩くのも、悪くは無いだろ？」
「あーはいはい。そうですねー」
　なんだか、今日のトレーナーさんは……私のことを色々考えてくれてるみたい？　どうしたんだろうと思うけど、まあ悪くは無い気分？

　ゆっくりと、二人でブラブラと散歩をして。河川敷まで行って、川沿いをゆったり歩いたり。その間も、まったりトレーナーさんと雑談をしつつ、そんな感じで散歩をしています。

「――なあ、ヒシミラクル」
「はい、何ですか？」
　少し改まったようにこちらに声を掛けてくるトレーナーさん。返事をすると、トレーナーさんは言い聞かせるように言いました。
「お前は、よく頑張ってる」
「えー、そうですかね……？　私なんか、他の子に比べたら全然……」
「いいや、充分頑張ってるさ。そもそも努力なんてものは、誰かと比べるものじゃない。お前は期待に応えようと頑張ってくれてるじゃないか」
　トレーナーさんの言葉に、ちょっと現実味が無いというか、実感が湧かない私は、うーんと首をかしげます。

「でも私は至ってフツーのウマ娘ですよ？　なんなら、今日の私は全然調子が上がりませんでしたし……」
「自分のことをフツーって思ってるからこそ、お前はフツーよりももっと頑張ってるんだよ。それをお前は自覚してないと思うが。今日に関しては別にそういう日だってあるだろうさ。普段頑張ってるから、ちょっと疲れたんだろう」
「えー、そんなモノですかねぇ？」
　トレーナーさんの言葉に半信半疑な私です。

「まあまあ。何はともあれ、俺はお前が毎日よく頑張っていることを知っている。ちゃんと見ている」
「あ、ありがとうございます……？」
「――だからこそ、無理はしなくて良い。頑張ることに疲れたとしても、それは仕方無いことだし。むしろ普段頑張ってる証だ。調子が上がらないなら、いつでも言ってくれ。俺がしっかりお前を休ませてやるからな……！」

　胸をドンと叩きトレーナーさんが自信満々にこちらを見る。……何だか、頼り甲斐があるのか微妙に無いのかわかんないけど……。

　――でも、何だか。安心……するかも……？

「……私。ずっと、頑張らなきゃ……甘えちゃ駄目だって思ってたけど……ちょっとくらいなら、頼っても……トレーナーさんに甘えても、良い……のかも？」
「ああ……！　ドンと来い！」
「……ぷっ、ふふ、あはは……！　もう、何ですかそれー」
「えっ、なんか変なことしたか俺？」
「ふふっ……あはは……いえ、何でもありません……♪」

「……あー、なんだか。頭がすっきりしました」
「そ、そうか……！　いや、良かった！」
「ふふ……身体も軽くなりましたよ。……えへへ、ありがとうございます、トレーナーさん……♪」
　ふふっ、トレーナーさんは変な人です。私なんかに期待してくれて、いっぱい私なんかを褒めてくれて、信じてくれて。真っ直ぐ過ぎるというか、何というか……。

　……この人が私のトレーナーさんで、良かったな……♪　なーんて。

　――そうこうしているうちに、ぽつりぽつりと。雨が降ってきました。
「うお、本当に降ってきちゃったか」
「うーん、やっぱり傘持ってくれば良かったですかね……？」
「……よし、今からトレセンまで競争だ！　雨が本降りになる前に！　行くぞ！」
「ちょちょ、トレーナーさんそれは無謀って奴ですよー」
「いいや、今の俺ならお前に追いつける！」
「なんですかその自信……？　ふふっ、あはは……♪　じゃあ行きますよー」

「――よーい、どん！」

　そうして、勝負は当然私の勝ちにはなりましたが、ちょっと本降りまでには間に合わなくて。二人仲良くズブ濡れになって、トレセン学園に帰るのでした。

「…………♪」

おわり