　だぷん。
　目の前で、脂肪の塊が揺れる。

「んん〜？　トレーナーさん、何見てるんですか〜？」
　ヒシミラクルが、好奇の目でこちらを見て問いかける。
「な〜んか、やらしー視線を感じちゃうな〜？」

「……はぁ」
　一つ、溜め息を吐く。目の前にはまたしても揺れる脂肪――インナーシャツの裾からハミ出たヒシミラクルの腹があった。
「ちょっと、何溜め息ついてるんですか」
「……いや、これがかつての菊花賞バの姿かと思うとな……はぁ……」
「あの、怒りますよ？？」
　頬を膨らませこちらに抗議するヒシミラクルは、俺の元担当バで、今は所謂――同棲相手、であった。

「なんでお腹ばかり見るんですか。溜め息つくんですか。見るならせめて、こう……もっと胸元とか、脚回りとか……せっかく、油断してあげてるんですよ？」
「うーん。それは嬉しいけど、やっぱ腹がな……」
「グーで行って良いですか？　やりますよ？　私」

「――というか、仕方無いじゃないですか……！　レース引退して激しい運動する習慣無くなっちゃったんですから！　そりゃ、消費されないカロリーがお腹とか色々に溜まっちゃいますって！」
「もう一回トレーニング付けてやろうか？」
「……それは……また今度の機会でお願いします」
　露骨に嫌そうな顔をして目をそらすヒシミラクル。油断をしてくれるのは大いに結構だが、トレーナーとして、パートナーとして、不健康なままでいて欲しくはない。……いつか、強制トレーニングを敢行しても良いかもしれないな。

「…………」
「……ぷにぷに」
「っ！　ちょ、なに触ってるんですかトレーナーさん」
「いや、なんかそこにあったから」
「私は手慰みの道具じゃないんですけど……！？」
　なるほど、ヒシミラクルスクイーズという訳か。ふむ、なんだかんだと言いながらも彼女の脂肪はなんと無しに触っていたくなる物だ。そういう意味では悪くは無い……のかもしれない。
「いや、だから私のお腹はスクイーズじゃないんですってば！」
　ぺちぺち。随分と良い音が鳴るお腹だ。どれだけ怠惰を極めればここまで蓄えられるのだろうか、聞いてみたいものだ。

　……むにむに。モチモチ。
「……あの、そんなに好きなんですか。私のお腹」
「…………。……すき」
「……もう、……はぁ。仕方ありませんね」
　今度はヒシミラクルが溜め息を一つ吐き、インナーシャツの裾を捲る。

「……はい、私のお腹ですよー。どうぞ、飛び込んできてくださいな」
　無防備に晒されたヒシミラクルのむちむちのお腹。――いやしかし、そんな風に差し出されたって、俺はトレーナー。そんな誘惑に負けるワケが――。

　――ムギュぅ〜。
「――はいはい、もう……仕方の無いトレーナーさんですねー」
　……どうやら、彼女の引退とともに俺のトレーナーとしての理性はそっちの方に置いてきてしまったらしい。
　――という訳で、まあ。腕で、頬で、全身で。彼女のお腹の柔らかさを味わっているのだが……それはそれとして。

「――頑張って痩せような、ミラクル」
「……そんな状態で言っても説得力無いですよ」

　彼女の為に、いつかは心を鬼にしようと想いを固めつつ、今は自分の為に……ヒシミラクルのお腹の柔らかさをしっかりと堪能するのであった。

おわり