　それは冬の休暇の頃。私はトレーナーさんにとあるお願いをしました。

「――えっ、“私をゲレンデに連れてって”……？」
　トレーナーさんはすこし困惑したような表情で私の言葉を繰り返します。
「はい、確かに言いましたよ。私をゲレンデに連れて行ってください！」
「……えっ、ヒシミラクルってスポーツとかは縁遠いと思ってたけど、スキーに興味あったの？」
　トレーナーさんにそう言われて、私は胸を張って否定します！

「ありません！」
「……はい？　えっ、じゃあなんでまたゲレンデになんて――」
「――だって、したいじゃないですか！　“ゲレンデがとけるほどの恋”が！！」
　そう私が高らかに声を上げると、トレーナーさんは目を丸くして暫く驚いていました。ふふん、これで納得してくれる筈ですね！　さあ、スキーの準備だ〜！

「……いや、いやいや。待て、待つんだヒシミラクル」
　トレーナーさんが手で顔を覆いつつ、こちらに逆腕の手のひらを見せて制止します。
「もう、なんですか？　トレーナーさん」
「……あの、一応聞くけど……恋がしたいんだよな？　お前は」
「いえ、“ゲレンデがとけるほどの恋がしたい”んです！」
「いや、その謎のこだわりは一切理解できないんだけど……それはそれとして、つまる所ヒシミラクルはスキー場で恋をしたいっていうことなんだな？」
　その問い掛けに、まあうん、そんな感じです。と答える。

「……なら、さ。そもそもの話――」
　トレーナーさんは私をじーっと見ながら、大きく溜めた間の後に口を開きます。
「……俺要らなくないか……？」
　…………。
　んまあ、はい。予想はしてましたが……。

「――だって、ゲレンデで恋したいなら異性の大人である俺が居るのは邪魔じゃないか？　……そもそも、学生がゲレンデで恋をする是非は別として」
「いやいや、トレーナーさんには足とお金という立派な役割があるじゃないですか〜」
「おい、トレーナーをなんだと思ってるんだ」
「あはは〜」
　こうして、いつものように楽しいやりとりが続く。

　それはそれとして、まずはどうにかしてトレーナーさんにゲレンデに連れて行って貰わないといけないんだよな〜。

「……その、トレーナーさん」
「ん、どうした？」
「やっぱり、一人でスキー場まで行くのって難しいじゃないですか。お金もそうだし距離もそうだし、それから色々……だから、保護者が居てくれたら……嬉しいかな〜……なんて……」
　ちらりと、上目遣いでトレーナーさんの瞳を見つめる……。――これで、納得してもらえれば良いんだけど――。

「……はあ、仕方ないな。親御さんに連れてって貰えとも思ったが、家族が来ていて恋人探しするのは流石にアレだしな」
　……！！
「〜〜っ……！！　やったっ……！　えへ、えへへ……それじゃ、お願いしますねっトレーナーさん♪」
「……あっ、そうだ。恋をするって言っても、ちゃんと節度は守れよ？」
「はい〜わかってますよ〜」

　そうして、私ヒシミラクルとトレーナーさんでゲレンデに行くことになりました……！

――――――

「着いたな、スキー場」
「ですね〜。いやはや、流石真冬のゲレンデ……結構着込んでるのに寒いですね〜」
「そうだな〜〜…………ん？」
　急に、トレーナーさんが私の身体をマジマジと見つめてきます。どうしたんだろうと思っているとすぐにトレーナーさんは口を開きました。

「……むっ、なあお前……ちょっと太ったか？」
「……は？　えっ？　いや、いやいやいや！？　これは着込んでるからこうなってるだけで！！」
「あははっ、分かってる分かってる、ごめんな。ちょっとからかいたくなっちゃって」
「も〜〜……！！」
　ちょっとデリカシー無さすぎじゃないですか？？　からかわれるのは別にイヤじゃないですけど、デリカシーの無いその性格は変えたほうが良いですよ。まったく。

「……さて、ここからは別行動だな？」
　トレーナーさんがそう問い掛けます。
　……え、なんで？
「お前は良い男探すんだろ？　なのに俺が近くに居たら邪魔だし、ここからは別行動するのが安定じゃないか？　俺は俺でスキー楽しむから」
「ぅっ……」
　トレーナーさんの指摘はごもっとも。しかし、それではいけないんです。どうにか、一緒に――。

「――……そうだっ！」
「うおっ、びっくりした！？」
「トレーナーさん！！」
「えっ、あ、はい」
「私にスキーを教えてください！！」
「…………えっ、そこから？　もしかして、スキー未経験？」
「はいっ！」
　胸を張って答えたのに、何故かトレーナーさんは頭を抱えていました。

「……いや、まあ……俺でも教えることはできるけど。でも、普通にインストラクターに頼めば良くない？　そっちの方が“ゲレンデがとけるほどの恋”ができそうだろ……？」
　うっ……。それは、そうかも……。でも、でもでも……やっぱり――。

「……駄目です。私のトレーナーは、トレーナーさんだけですから。トレーナーさんに教わる方が良いんです」
「んー、そうか。……そこまで言われちゃったら、引き受けるしかないな。よし、それじゃ俺が基礎からしっかりと教えてやるからな！」
　胸をドンと叩くトレーナーさん。
「お願いしますね、トレーナーさんっ♪」

　……ふふ、ふふふ。計画通り……♪

――――

「まず最初はな、スキー板をこういう形にして動かないようにして――」
「は、はいっ！」

「曲がる時は、こう！　いいか？」
「うわ、思ったより勢い強っ！　ぁっ、わぁっ〜〜！！」
「……って、ああ……大丈夫か、ヒシミラクル」
「うぅ〜〜起こしてください……」

「いいぞ……！　そんな感じだ！　滑れてるぞっ！」
「わっ、わぁ！　これ、滑れてますよねっ！？　……ところで、これどうやって止まるんです……？？」

――――

　……とまあそんな感じで、トレーナーさんのおかげでひと通り滑れるようになった私は、そのままトレーナーさんと一緒にスキーを楽しみました。

「――もうすっかり暗くなってしまったな」
「ですね〜。いやー、楽しかっ――……くちゅん」
　寒いからかな、クシャミが出ちゃいました。まあ、実際夜になって気温も更に下がっちゃったし……。

「大丈夫か？　ヒシミラクル」
「あ、いえ大丈夫で――……くしゅんっ！」
　またしてもクシャミ。
「……風邪引くぞ、ミラ子」
「……えっ……？」
　トレーナーさんは、自分の首に巻いていたマフラーをおもむろに解くと、私の首に、そっと巻いてくれました。

「と、トレーナーさん……？」
「うん、これで寒くないだろ」
　…………これ、本人無自覚ですよね。……ズルいなぁ、ほんと……。
　……でも、そういうなんだかんだで優しい所が私――。

「……もう、それじゃトレーナーさんが寒くなっちゃいますって」
「はは、平気平気！　俺寒さに強いか――ハックションっ！！」
　っ！？　トレーナーさんが大きなクシャミを――！
「ちょっ、トレーナーさん大丈夫ですか……？」
「ぁ、ああ。これくらい平気へいっクション！」
「えっちょっ――」
「――クシュンッ、クシュッ、ハーックショイぃ！」

　私にマフラーを渡した途端に、クシャミを連発するトレーナーさん。も〜、カッコ付かないなぁトレーナーさん……。ほんと、ダメダメじゃないですか〜もうっ……ふふっ♪

――――

「そろそろ、帰るか？」
「そうですねー。もうすっかり夜ですからね」
　空を見上げれば黒い空と明るい月。それから、よく目を凝らせば、幾つもの星が夜空にまたたいていました。
「やっぱり、標高が高いところは星も綺麗だな」
「そうですね〜……わぁ、きれい……」
　トレーナーさんと二人で満天の星空を眺める、それって結構ロマンチック……かも？

「……お、ヒシミラクル。なんか、今調べたらここから流星群が見れるらしいぞ」
「えっ、ホントですか……！？」
「ほら、見ろ。流星群だ」
　そう言われてトレーナーさんが指差した方を見れば、そこには幾つもの星が空を流れていました。
　その光景はとっても、綺麗で……なんて幸運なんだろうなって、思っちゃったりして。そんなことをトレーナーさんに言ってみると――。

「ん？　そりゃお前は“ミラクル”だからな」
「むっ……言いますねぇ〜」
「……というか、俺も結構ミラクルだな？」
「…………それは、私という“ミラクル”をトレーナーさんが大事にしてくれてるからですよ」
　……私と一緒に居てくれる、大切な人、離れたくない人。
「それじゃ、これからもずっと大事にしなきゃだな！」
「……私のこと、絶対に手放さないでくださいよ？　もし私を失ったらトレーナーさんの人生終わりですからね」
「えっ、マジかー。人生終わるレベルか〜それは大変だな〜」
　トレーナーさんは、全然本気にしてないって感じで笑っています。でも、まあ……別に良いかな。今は、これで。

「……そうだ！　せっかく流星群来てるんだし願い事しないと！」
「えー、なんか子供っぽいですねトレーナーさんって。……いやまあ、やりそうとは思ってましたけど」
「なんだ？　お前もやらないのか？　願い事」
「…………します」
「よし来た！」

　……そうして、私とトレーナーさんは夜空の幾つもの流れ星に願いをかけました。

「――そういえば、トレーナーさんはどんなお願いごとしたんですか？」
「ん？　まあ、普通に……いつまでもヒシミラクルが怪我も病気もなく、健やかに生きてくれますように。……的な？」
「なんです、それ？　カマトトぶってるんですか？　もっと自分の欲望に忠実なお願いするもんでしょーここは」
「うーん……でもなあ、俺の願いはやっぱりお前が元気にやってて欲しいってなっちゃうんだよな〜職業病的な？」
「いや、職業病で願われても困りますよー」
「む……じゃあ別の願いにするか……？」
「……。……仕方ないので、その願いで良いですよ。別に、嫌な訳ではないですし……」
　……ホントは結構、嬉しかったりするけど……なんか、気恥ずかしいので心の奥底に隠しておきます。

「……で？」
　突然、トレーナーさんがこちらを向いて私に何かを促してきました。
「え、なんですか？」
「なんですかじゃなくてさ、お前は何を願ったんだ？　俺は言ったんだから、次はお前の番だろ？」

　…………。
　………………。

「……内緒です」
「えー、なんだよそれ。良いじゃん、俺にも教えてくれよ！」
「なーいーしょーでーす！　ほら、もう夜ですから出ますよ！　お腹も空いたし、レストラン行きましょ！」
「えー……気になるなぁ……」

　……流石に言えないな〜。こればっかりは……。

『トレーナーさんと、これからもずっと一緒にいられますように』

　……なんて、そんな願いごと。
　私の未来は、トレーナーさんだけのものなんですから。いつかこの願い事が、甘い甘い恋の歌にできたのなら、トレーナーさんに聞かせてあげますね。

　でも今はまだ、この願いごとはそっと心の奥に大事にしまいこんで、私は積もった雪の上を歩くのでした。

――――――

「……そういえばヒシミラクル、“ゲレンデがとけるほど恋したい”って言ってたけど、結局俺としかスキーしなかったな。それは良いのか？」
「えー、ちゃんとしたじゃないですか。“ゲレンデがとけるほどの恋”。私は満足でしたよ……♪」
「そうか。……そうか……？　……？？？」

「…………ふふっ、にぶちんトレーナーさん……♪」
「……？　何か言った？」
「なーんでもありませ〜ん♪」

おわり