　キャリーケースとトレーナーさんを連れてチェックイン。エレベーターでごうごうと昇ってルームキーに刻まれた部屋番号の場所へ。
　鍵を開けドアノブを回して扉を開き、そうして辿り着いた場所は――。

「おお……！　見ろジャーニー、オーシャンビューだ！」
「ふふっ、トレーナーさんもお気に召してくれましたか？　ええ、ここからの眺めはとても素晴らしく――」
「ああ、これならジャーニーが御用達なのもよく分かるな……！　すごい良い部屋だ……！」
　ああ、なんと純朴で可愛らしい反応でしょうか。子供のようにはしゃぐトレーナーさんの横顔。その表情は、私の心を満たすには充分で――。

「窓からの景色も綺麗だけど、部屋の中もすごい良いな。なんというか、落ち着きがあるといえば良いのか？　どことなく高級感もあって……やっぱりジャーニーのチョイスともなると、これだけ良い部屋なのは当然かぁ」
　統一感のある家具、ガラスの机にソファー。それから2つ並んだ広いベッド。私がいつも私の家族の為に選ぶ部屋。それを今日は、トレーナーさんに――。
　――広い意味で言えば、私にとってはトレーナーさんももう、家族に等しいお方ですから……是非とも、連れていきたいと思うのも自然なことでしょう。ええ。

「……へー、ホテルの設備にも色々あるんだなぁ……ルームサービスにレストランにプールに……広い温泉もあるっていうし、ホテルの中だけでも満足しちゃいそうだな」
「ホテルから出て少し降りれば観光街もありますし、勿論反対側へ出ればあの窓から見えるビーチにも行けますよ。小さい頃はよく、オルと一緒に砂浜や海を楽しんだものです」
「ちっちゃい頃のジャーニーかぁ……」
　トレーナーさんがこちらに目を向けて、想いを馳せるように頷く。
「今よりももっと小さいんだよな。それはもう可愛いんだろうな……」
　……。何故だか、“今より”という言葉が引っ掛かりましたが、ええ、まあ……私について空想を働かしてくれるのは、少し複雑ですが、嬉しくあります。

「んーー、しかしどうしようか。魅力的なモノがいっぱいで、これからどうするか悩むな……ビーチにするか？　いや、それは明日にとっておいてまずは手ぶらで観光というのも……」
　贅沢に悩むトレーナーさんを微笑ましく思いながら、彼の揺れる心に後押しをするようにそっと声をかける。
「ええ、今回は3泊もありますから。幾らでも時間はありますよ」
「そうだよな。いや、贅沢だな……楽しい旅行になりそうだ……！」
「ふふっ、それは良かったです……♪　どうぞ、トレーナーさんの気の赴くままに、私はあなたの横で一緒に歩きますから」
「良いのか……？　それじゃあ、お言葉に甘えて……」

　うーん、うん、と悩むトレーナーさんを温かな気持ちで見守る。
「……うん、よし。そうしたら街の方に出かけて手ぶらで観光しようか……！　食べ歩きも出来たり色んなお店もあるみたいだから」
「ふふっ、そうですね。それでは観光といたしましょうか。手ぶらで、ゆったりと……気の向くままに……♪」
「ああ！　……あ、ジャーニーも気になる所があったら言ってくれ。二人で一緒に観光するんだからな……！」
　その屈託の無い笑顔に、ああ、私は。こんなにも心が惹かれ満たされるのだ。

「えーっと、それじゃ財布は持って……持ち歩きしやすいカバンは持って大きいのは置いておいて、それから――」
　そわそわと、観光に向かう準備をしているトレーナーさんの背に、無防備な背中に、そっと近づく。心の奥底で、暗く揺らぐ――独占欲。その欲望に身を任せて、そうして――。

「――……？　どうしたんだ、ジャーニ……――」
　――首筋にシュっ、と。香水をひとつ。

「――ぅぁ、ジャーニー？」
　首筋に当たる感触に驚いたトレーナーさんが、こちらを振り返る。その無垢な表情に、頬に、そっと口づけする。

「……ふふ、それでは参りましょうか、トレーナーさん……♪」
「えっ、あ……ああ、行こうかジャーニー……！」
　私が彼よりも先に歩き出すと、トレーナーさんもそれに追いつこうとすこし早足で歩き出す。彼の周りに香る私の香水が、私自身につけた香りと引き寄せ合うように交わり、トレーナーさんと私はともに隣あい歩いていく。
　――ふふ、これで……良い。決して離れることは無い、誰にも引き裂かれることのない、血の楔。その痕を刻みつけて、私はようやく安心して、外の世界へと二人で旅立つのだ。

「――離しはしませんとも、ふふ……♪」
　私の横を歩くトレーナーさんにそう呟く。ああ、街へ出た時には、腕にでも抱きついてみましょうか……？　トレーナーさんならきっと、驚いてくれるでしょう、そして受け入れてくれるでしょう。ああ、楽しみです……♪
　そんな期待で胸を膨らませながら、私はトレーナーさんとこの旅を楽しむのでした。

おわり