　それは、ある夏の日の夜のこと。

「…………うぅ」
「はぁ……」
　ダイヤにちょっとした用があって栗東寮に来てみると、談話室で溜息をつくシュヴァルとキタサンがいたの。

「喂、ダイヤ？　あの二人、どうかしたの……？　さっきからテーブルの端っこと端っこでチラチラ見合って溜息なんてついちゃってるけど」
「ああ、クラちゃん……えっとね？」

「――哎呀！　あの二人がデートで失敗……！？」
「うん、そうみたい。キタちゃんとシュヴァルさんで二人で花火祭りに行ってきたみたいなんだけど……」
　ダイヤが気まずそうに二人に目を向けると……。

「……うぅ……僕がもっと、人が多いとこでも……がんばってれば……」
「うー……！　あたしがちゃんとシュヴァルちゃんのこと気にかけてれば……」

　どんよりと沈んでいく二人。原來如此。これは重症みたいね……。

「……仕方ないわ、こうなったら……」
「えっ、何するのクラちゃん……？」
　すっと立ち上がり、まずはシュヴァルのところへ向かう。
「シュヴァル、ちょっと話をしましょう？　……ダイヤ、キタサン、あなたたちの部屋すこし借りても良いかしら？」
「う、うん。良いけど……」
「えっ……？　クラウンさん……？」
「さあ、シュヴァル。向こうでじっくり話を聞かせて貰うわよ」

「え……えぇ……！？」
　まだ状況を飲み込めていない様子のシュヴァルを連れて、私はダイヤとキタサンの部屋へ向かうのでした。

――――――

「――で、いったい何があったの？」
「え、えっと……その……」

　部屋で向かい合って、シュヴァルに問いかける。いったい、何が原因で二人とも暗い顔をしてるのか。何があったらこの二人のデートが失敗してしまうのか。まずは聞かないことには分からないでしょう？

「……そ、その……それは……えっと……」
　シュヴァルは目を伏せながら、どう言葉にすれば良いか思い悩みながら、しばらくもごもごと言葉に満たない声を漏らす。

「……好啦、大丈夫。ゆっくりでいいわシュヴァル」
「う、うん……」
　私の言葉で、ひとつすっと息を整えるシュヴァル。そうして、事のあらましを私に聞かせてくれたのでした――。

「――そう。花火祭りに連れていって貰ったけど、人が多くて参ってしまったのね」
「は、はい……。僕、元々人の多いところが苦手だから……でもそのせいで、キタさんに心配をかけちゃって……せっかく連れていって貰ったのに、僕は……っ」

　シュヴァルはきゅっと唇を噛む。うーん、これは中々……難しいわね。きっと、シュヴァルもキタサンも二人のお出かけを楽しみにしてた筈よね。でも、夏祭りの最中に具合を悪くしてしまって――ともなれば、この二人が落ち込むのも仕方は無いわよね。

「っ……僕のせいで……」
「うーん……事情は分かったわ。そう、ね……」
　目の前で自分を責めるシュヴァルになんと声をかければ良いか。すこし考えて……うん。

「ねえ、シュヴァル」
「……はい……？」
「あなたは、今日の花火祭りはどうだった？　キタサンとの二人でのお出かけは」
「え、えっと……その……キタさんに心配させちゃって、迷惑をかけちゃって……申し訳なくて……」
　言葉をつむぐごとに、俯き、声が震えていくシュヴァルと視線を合わせるように、そっと向かい合って。私は彼女に投げかける。

「真係……？」
「……え……？」
「本当に、それだけかしら……？　お祭りの会場で気分が悪くなっちゃったのは本当。それで、心配かけちゃったのも本当。……でも、それだけじゃないんじゃない？」
「それだけ、じゃない……？」
「ええ、そうよ。キタサンにお祭りに誘って貰って、どうだった？　一緒に出かけて、どうだった？　キタサンと一緒に居て、どうだった……？」

　私がそう問いかけると、シュヴァルは小さくなった体の震えが止まり、そして少しずつ、言葉を漏らす。
「……キタさんにお祭りに誘って貰えて……僕は、……う、嬉しかった……一緒にお祭りに行けて、僕は……嬉しかった……っ」
「嗯……！　ふふ、その調子よ」

「……僕、キタさんとお祭りに行って……ドキドキした。隣にキタさんがいて、嬉しかった……人がいっぱいいて、クラクラしちゃったけど……キタさんに人の少ないところに連れていってもらって……キタさんと二人っきりになって……すごく、安心した」
「あら、そうだったの？　二人っきりになれたのね」
「……うん。人気の少ない、ちっちゃい神社のとこに連れていって貰って……休ませて貰って。そこで、いっぱい心配かけちゃったけど……でも、二人っきりで遠くから花火を見られたんだ……。それが、僕は……嬉しかった」

　頬をほんのりと赤く染めて、シュヴァルは言葉を漏らす。……ふふ。

「喂、もう一度聞くわ。今日の花火祭りは、どうだった？」
「……キタさんには、心配も迷惑もかけちゃった。けど、僕は……嬉しかった。キタさんと花火祭りに行けて」
「ふふっ、好呀！　それなら、キタサンにそう伝えてあげて！　きっと喜ぶわよ、あの子」
「う、うん……分かった」
　私がそう言うと、シュヴァルは確かに応える。その表情は、いつものように内気さはあるけれど、どこか晴れ晴れとしていて。

「うん、それじゃもう大丈夫ね！」
「は、はい……！　ありがとう、クラウンさん」
「無問題！　それじゃ、次はキタサンね……！」
　そうしてシュヴァルと一緒に部屋を出て――それから、今にも沈み込みそうな表情のキタサンを部屋に連れ込むのでした。

――――――

「――う、ぅわーーん……！」
「ちょっ、ちょっとキタサン……！？」
　部屋に入るや否や、泣き出すキタサン。

「あ、あたしが……ちゃんとシュヴァルちゃんのこと考えてれば……っ……ぐすっ……あたしのバカっ……！！」
「ちょっとちょっと！　落ち着いてキタサン！」

　……どうにか、泣きはらすキタサンをなだめて話を聞けるようにすると、キタサンはぽつり、ぽつりと語り出した。
「……あたし、シュヴァルちゃんと思い出作りがしたくて……夏だから、花火のお祭りがあるって聞いて、それだ！　って思っちゃって……」

「あたし、お祭りが大好きだから……シュヴァルちゃんと一緒に楽しみたいなって……でも、あたし……あたし……」
　ぽろぽろと涙を流すキタサンにそっと寄り添い彼女の言葉に耳を傾ける。
「あたし、あたし……最低だ……あたしのことばっかり考えて、シュヴァルちゃんのこと考えてなくて……それで、それで……っ」

「……そうね、それはあなたの反省点ね」
「っ……はい、あたし……あたし……」
「……でも、その気持ちは本物よ」
「ぐすっ……ぐす……っ……？　ぇ、……それって……？」
　目のフチを赤く腫らすキタサンの頭をぽんと撫で、声をかける。
「キタサン、あなたの行動には反省点があった。それは確かよ。でも……その行動に至った想いは、紛れもなくシュヴァルを想ってのことじゃない」
「っ……でもっ、それでシュヴァルちゃんに負担をかけさせちゃったのは……っ」
「うん。その通りね。……でも、あなたの気持ちは、ちゃんとシュヴァルにも伝わってるわ」
「……ぇ……？」

「……ふふ、シュヴァル言ってたわよ？　あなたと一緒にお祭りに行けて嬉しかったって」
「っ……！　で、でもあたし……！」
「それでも、シュヴァルはあなたと一緒に居れて嬉しかったと言ってたわよ。具合は悪くなっちゃったけど、それでも。誘ってくれて嬉しかった、一緒にお祭りに行けて嬉しかった、一緒に花火を見れて嬉しかった、って」
　キタサンに、さっきシュヴァルから聞いた言葉を聞かせる。それは、何より彼女の心を救うと信じているから。

「ぁ……ぅっ……ぁ、……あ、あたし……っ」
　赤く腫らしたまぶたから、更に涙を溢れさせて。
「ぅっ……うぁーーーん……！！」
「もうっ、仕方ない子ね。ヨシヨシ」
　そうして、どうにかシュヴァルとキタサン、お互いのわだかまりを解くのでした。

――――――

「――そういえば、神社で二人っきりになったって聞いたわよ？　何だかんだ言っても、ちゃんとシュヴァルの為に行動できてるじゃない……！」
「そ、それはえっとその……とりあえずシュヴァルちゃんを助けなきゃって思って……！」
「二人っきりになれて嬉しかった、って言ってたわよ？　二人っきりで花火を見るなんてロマンチックじゃない！　やるわね、キタサン」
「い、いや！　そんなつもりじゃなくてっ！　あのときはあたし、シュヴァルちゃんの為に必死で……！」
　顔を赤くするキタサンを連れて談合室に向かうと、シュヴァルとダイヤが待っていたわ。

「あっ、クラちゃん！　キタちゃん！　おかえりなさいっ」
「ただいま、ダイヤ♪　ありがとね、部屋を使わせてもらって」
「どういたしまして……♪　えっと……うん良かった、キタちゃんもシュヴァルさんも明るい表情……♪」

「あっえっと、その……ごめん、ダイヤちゃんにも心配かけちゃって……！」
「あっ、その……ごめんなさい！」
「良いよ、シュヴァルさん、キタちゃんっ。これで仲直りだよねっ！」

　両手を合わせてパアっと顔を輝かせるダイヤのその言葉にビクっと身体が跳ねる二人。

「え、えっと……」
「ぁっ……その……」
　顔を見合わせたと思ったら、すぐに目をそらしちゃう二人。背中を押そうかとも思ったけど、二人が言い出すまで待っていると。

「――そ、その……！　ごめん！」
「――ご、ごめんなさいっ！」
　同時に謝る二人。あっ、と声を上げてまたオロオロする二人。けど、意を決してお互いに言葉を交わす。

「その、ごめんっシュヴァルちゃん……っ！　あたし、シュヴァルちゃんが人が多いところ苦手ってこと、気を遣えなくてっ……負担を掛けさせちゃって……！」
「う、うん……大丈夫、僕こそ……ごめん。キタさんに心配かけちゃって……」
「そ、そんな！　心配なんてっ……！　だって、あたしのせいで……っ」
「……うん。分かった。僕は、うん……気にしてないから、キタさんも大丈夫だよ……そ、その……僕、キタさんとお祭りに行けて、嬉しかった」
「〜っ……！　しゅ、シュヴァルちゃーんっ……！！」
「わっ……！？　き、キタさんっ！？」
　涙を流しながらシュヴァルに抱きつくキタサン。びっくりしたような照れたような、そんな表情でシュヴァルも抱かれてる。

　うん、これで仲直りは成功ね……！
「シュヴァルちゃーんっ……！！」
「ちょ、ちょっとキタさん……っ！？　ち、近っ……近いっ……〜っ！！」
「ふふっ、ふたりが仲直りできて良かったっ♪」
「Case closed!　一件落着ね♪」
　泣きはらしたキタサンと顔を赤くしたシュヴァル。彼女たちの仲睦まじいやりとりをダイヤと二人にこにこと眺めるのでした。

――――

「……も、もう……！　キタさんっ……！」
「あ、アハハー……ごめんシュヴァルちゃん、つい感極まっちゃって」
「ふふ、二人は本当に仲良しね！」
「う、うぅ……///」
　無事に仲直りして、泣きながら抱きつくキタサンをどうにか落ち着かせたシュヴァルと恥ずかしそうに頭をかくキタサン。

「ぅ〜、でも……本当にあたし、シュヴァルちゃんに嫌われちゃったかもって思って……」
「……嫌いになる訳無いよキタさん。それに、ちゃんと僕を人気の無い神社の方に連れていってくれたし……その、二人で見る花火も……静かで、綺麗で……すごく良かったし……」
「っ……！　そ、そう……？　あ、あはは……えっと、それは良かった……？　う、うぅ〜///」
　恥ずかしがるキタサン。そういえば、その時は無我夢中だったって言ってたわね……ふふ、改めて言われたら照れちゃって、キタサンも可愛いところあるわねっ♪

「あ〜、良かった……あたし、嫌われてなくて……。二人っきりだからって、勢いであたしあんなこともしちゃったし……シュヴァルちゃんに嫌われちゃったらどうしよう〜って……！」
「……うん？　あんなこと……？」
　何か、気になることを漏らすキタサン。えっ、二人っきりのときに、何をしたの？？

「っ……！？　き、キタさんっ！？　そのことは、そのっ……！　言っちゃ――」
「え、えっ？？」

「……ははーん？　あなた、まだ私に言ってないことがあったのね？」
「……！　キタちゃんっ、二人っきりでシュヴァルさんと何したのっ？　ねえ、キタちゃんっ！」
「……ぁ、ええっと……そのぉ……っ！」
　自分のやらかしに今更気づいたようなキタサン。でも、私たちがそうやすやすと逃がす訳無いわよね……？

「さーて、キタサン……！　今度こそ、洗いざらい話して貰うわよ〜？」
「そ、その〜……あの〜……っ！　……ご、ご勘弁を〜っ！！」
　そうして、私たちの夜はキャッキャと更けていくのでした。

おわり