　マチカネタンホイザが巨大化した。
「うーん、巨大化しちゃいました」
　ここはトレセン学園の屋上。ここまで登ってようやくマチカネタンホイザと顔をつき合わすことができた。
「……いや、でか過ぎるだろ……」
「ですよね〜いやー、なんでこうなっちゃったんだろ〜……あ」
　何かを思いついたような表情で、マチカネタンホイザは手を合わせる。何か心当たりを思い出したのだろうか……？

「――こんなに大きくなりマチタン♡　なんちって♪」
「…………」
　……こんな状況になっても、いつも通りのタンホイザ。相も変わらず可愛らしいのだが、すこし頭を抱えてしまうのは決して俺が悪い訳ではないだろう。

「……んで、どうしてこうなったんだ……？」
「うーん、なんでだろう？　……真面目にやってきたから、とかですかねぇ？」
　因果関係がまるで不明なのだが。
「あはは、冗談ですよ〜」

　ガヤガヤガヤ。
　そうこうしていると、下のほうが騒がしくなっていることに気がつく。

「――うぉー、マチタンでっけぇ〜！」
「いや、デカ過ぎでしょ……こんなにでっかくなってどうすんのさタンホイザのやつ」
「普通に授業を受けるのは難しそうですね……やはり、窓から覗いて貰うしか――」
　いつの間にやら、地上では巨大化したマチカネタンホイザを囲うように野次ウマができていた。その中には彼女の友人たちもいた。

「お、ネイチャたちだ。お〜い！！」
「うお声でっか！？」
「揺れるぞー！？」
「おい、危ないからもっと離れろ！　お前らもだ！」
　足元の友人たちへと手を振るタンホイザ。しかし、ここまで大きさに差があるのだ。安易に近づいては危険だ。エアグルーヴら生徒が率先して野次ウマの安全確保に動いてるのが屋上からも見えた。

「足元には気をつけろよ？　タンホイザ」
「うぅ〜、流石に怖いですよねー。気をつけなきゃ……！」
　マチカネタンホイザを見上げる野次馬にほわほわと手を振りつつ、足元を気にするタンホイザ。そそっかしい彼女のことだ、いつ大転倒して惨事を引き起こすか分からない。充分に離れてしかるべきだろう。

　わいわいガヤガヤ。
「うーん……なんか、不思議な気分ですね〜こんなに見上げられるなんて。トレーナーは真正面にいますけど」
「こんな大きい奴と顔つき合わせて話すのも不思議な気分だけどな」
「あー、確かに。……そうだ、トレーナーも下から見上げてみます？」
「えっ、いや別に」
「えー、物は試しと言うじゃないですか〜やってみませんか？　……あ、でもスカートの中見えちゃうか。トレーナー、パンツ覗かないでくださいね♪」
「する訳無いだろ」
　こんなにも巨大なのだから下から見上げてそうなってしまうのは、もう不可抗力だと思わなくも無いが……いやそもそも教え子にそんな下心など抱く筈も無いのだが。
「ちぇー」

　キーンコーン。
　そうしている内にトレセン学園のチャイムが鳴る。
「あっやべ、教室行かないとだ」
「授業始まるぞー！　お前たち、早く教室に戻れー」
「えぇっ！？　もうこんな時間！？　どうしようどうしよう！　私も授業に行かないと！？」
　まばらに各々の教室へと向かい離れていく野次ウマたちを見て、マチカネタンホイザもあわあわと動き出す。……その様子を見て、嫌な予感が過ぎったがそれを口に出す間もなく――。

「あわわわ、っと、っと――ああっ……！？」
　ふわり、と。マチカネタンホイザの身体が浮く。
「お、おわぁー！？」
「――やっばい、タンホイザが転んだ」
「ぅわぁ！？　マチタンが降って来るーっ！？」
「全員、退避ーーっ！！」

　キャーっ！　どしんっ。

「あ、あいたたたた……っ！　み、みんな大丈夫！？」
「――な、なんとか……」
「ほっ……」
　あわや大惨事となる所だったが……寸での所で惨劇は回避されたようだった。こちらもほっと胸を撫でおろし、地面に倒れ込んだ彼女に声を掛けようとして――。
「っ！？」
　壮大に、彼女のスカートが捲れ上がっているのを、見てしまった――。
「あははー、私やっちゃいました〜……って、あ……〜〜っ！」
　マチカネタンホイザ本人も、下半身の違和感に気づいた様子で、ばっとスカートを直すとそのままゆっくりとこちらを振り返って――。

「――あの、トレーナー……見ました……？」
「…………いや、何も見てないけど」
「ほ、ホントですか……！？」
「うん、何も見てないよ。うん」
「じーーーーっ」

　そっと、顔を逸らす。……いや、弁解をさせて欲しい。マチカネタンホイザがあれだけ巨大なのだ。例え一瞬だったとしても、目に入ってしまうのは、それは仕方ないことで――。
「ホントのホントに見てないですよねっ！？」
「見てないから」
　顔を赤くして、疑いの眼差しをこちらに向けるタンホイザに、空を見上げながら応えてやる。

　…………水色か。
「――あの、やっぱり見ましたよねっ！？　見ちゃいましたよねっ！？　トレーナー！？」
　その後、全ての元凶であったアグネスタキオンがエアグルーヴらの協力により捕まり、アグネスタキオン製の縮小薬により巨大化したマチカネタンホイザは無事元に戻ることができたのであった。

「いやぁ、元に戻れて良かった良かった！」
「ほんと、人騒がせな……もう変な飲み物飲むんじゃないぞ」
「はーい……」
「――それにしても……。……水色か……」
「トレーナー？？？　本当に見てないんですよねトレーナー？　トレーナーっ！？」
おわり